ブルース・リーをこよなく愛し、“ヌンチャクガール”としての肩書も併せ持つ、女優・森累珠(もりるいす)さん。彼女が運営するYouTubeチャンネル『るいちゅーぶへの道』においては、ブルース・リーの映画作品『死亡遊戯』『ドラゴンへの道』などの再現動画が、「あまりに忠実すぎる……!」とTwitterでバズり、テレビ出演へ。ついには『ドラゴンへの道』チャックノリス戦のYouTube動画が、劇場で上映されるという異例の展開となりました。
また『るいちゅーぶへの道』の再現動画においては、なんと累珠さんのお母さまである森田ヨーコさんが、敵や大衆などのあらゆる役を演じ、さらには衣装から美術まで担当しているというから驚きです。ときには猫役を演じることまで(!)。
今回は、そんなおふたりの動画制作へのこだわりや、劇場公開での反響などを、森累珠さん(以下、森さん)と、お母さまの森田ヨーコさん(以下、累ママ)に伺いました。
両親の影響でブルース・リーに魅了され、自主映画を製作
──森累珠さんが制作された、ブルース・リー作品の完全再現動画が、すごくバズっていますよね。実は、本業は女優として活動されているんですね。
森さん「10歳から子役として活動しているので、今年で14年目になります。お母さんと原宿で買い物しているところをスカウトされたのが、女優を始めたきっかけです。最初は事務所に所属して活動していたのですが、だんだんと自分自身で発信するのが好きだということに気がついて、4年前にフリーランスとして活動するようになりました」
──YouTubeチャンネル『るいちゅーぶへの道』もすべてご自身で制作されているんですよね。いつごろからスタートしたんですか?
森さん「昨年(2021年)の3月ですね。なので、まだ始めて1年6か月と間もないです。それが、今では登録者数が2万人を超えてきて……。『燃えよドラゴン』オハラ戦の再現動画は33万回以上も再生されているので、本当にありがたいですね。(ブルース・)リー様の魅力を伝えたい一心で、これまで20本近くの完全再現動画を作ってきました」
──そこまでして、森さんがブルース・リーにのめり込んだきっかけは何だったのですか?
森さん「お父さん、お母さんがすごくブルース・リーが好きで、その影響で私も見るようになったのがきっかけです。『怒りの鉄拳』を初めて見たときは、ラストシーンで大号泣しました。リー様を好きだと話すと、周りからは“アクションが好きなんでしょ?”と言われたりするのですが、リー様ならではの、唯一無二のお芝居が好きなんです! 表情の作りこみとか役の憑依(ひょうい)の仕方に“こんな役者はいない”と思いました。
また、リー様は『ドラゴンへの道』で監督もされていて、それで自分も映画を撮りたいと思うようになり、高校生のときには自主制作の映画を作りました」
──どんな映画を撮られたんですか? 今後どこかで公開する予定はありますか?
森さん「映画の『バトル・ロワイアル』(※1)テイストで、頭から血が噴き出たりとかする、血のり映画です。自分で脚本も考えて、知り合いの役者さんに頼んで出てもらって作りました。いろんな映画コンテストに出品して、たまに審査員からいいコメントをもらったりしましたが、マニアックすぎたと思います。今は、もう恥ずかしくて見られないですね(笑)。
なので今後も公開の予定はないです。でも、この時に学んだ映像編集は、今の再現動画作りに非常に役立っています。リー様も、俳優兼監督もやっているので、そういう映画への愛もリンクするというか、共感できると思っています」
※1:脱出不可能な無人島で、中学生が最後の1人になるまで殺し合いをするという、暴力的描写の要素が強い日本映画。2000年に公開され、ヒット作品となった
累ママさん「血のりは絵の具などを使ったりして、私も少しお手伝いしましたね(笑)」
──ブルース・リーが開発した武術「ジークンドー(截拳道)」も学ばれて。
森さん「13歳のときにリー様にハマって、すぐにジークンドーの道場に通いました。ヌンチャクも、稽古の後に練習生同士で教え合い、そこで基礎を1年半程度学びました。その後の習得はどちらかというと独学で、ひたすら自宅でトレーニングをして学んでいきました」
累ママさん「ヌンチャクを初めて手にしたとき、すぐそばで見ていたのですが、あっという間にできるようになって驚きました。私も昔、香港映画にハマっていたころにちょっとやってみたのですが、全然できなくて諦めましたから(笑)」
“ヌンチャクガール”の原点とパートナーである母の存在
──今年3月にはTOKYO MXのテレビ番組『バラいろダンディ』に“ヌンチャクガール”として紹介されました。いつごろからそう呼ばれるようになったんですか?
森さん「ヌンチャクを学んでからは、映画の現場にも持っていくようになったので、そこから監督さんに“ヌンチャク少女だ!”と言われ始めたのがきっかけです。そこから私もその名前が気に入って、オーディションにヌンチャクも持参したりして、いつしか『ヌンチャクガール』が定着していきました。今では、映画でヌンチャクを使ったシーンがあるときは、監督さんから頼まれて、アクションの振り付けや決めポーズなどを自分で考えています」
累ママさん「まったくアクションとは関係のないモデルとしての撮影のときに、ヌンチャクを使うこともあるよね」
森さん「たまにヌンチャクをファッションの小物アイテム代わりに持ったりすることがあります。そのときは、お母さんにピンクのヌンチャクを作ってもらったりしています!」
──累ママさんは、YouTubeチャンネルを開設する前から美術を担当されていたんですね。
累ママさん「そうですね。もともと作るのが好きなので、小道具や衣装などが必要な際は参加していました。YouTubeチャンネルの開設当時から公開している再現動画の衣装は、ほとんどが自宅にあるものをリメイクしているんです。例えば、白の上下服が必要な場合は、カーテンとかテーブルクロスなどをカットしたり、縫い合わせしたりして作ります」
森さん「面白かったのは、“帽子、できたよ”って言われて見たら、帽子の裏側に牛乳パックが貼られていて……(笑)」
累ママさん「牛乳パックで型取りをして、そこに布をあててホチキスで留めるだけ。取り外して調整もすぐできるので、便利なんです。家にあるものを見繕ってなんでも作っちゃう(笑)」
──モノづくりの仕事でもやっていたんですか?
累ママさん「仕事でやっていたわけではないですが、子どもたちが小さいころから牛乳パックを使った作品を作って幼稚園に持って行ったりしていましたし、その時の影響もありますね。美術や書道、裁縫系は昔から得意でしたね」
──おふたりは無類のビール好きということで(笑)。
森さん「ビールが大好きですね(笑)。撮影が終わったら“早くビールが飲みたい! 早くビールが飲みたい! あとワンカット、あとワンカットで終わる!”と、ふたりでビールのために頑張っています(笑)。撮影が終わったら、(自宅なので)すぐに冷蔵庫があるっていうのもうれしいよね!」
累ママさん「終わった後の、あのビールのおいしさといったらないよね! 飲みながら打合せするときもあるもんね~」
敬愛するリー様から学び、つながっていくその先は
──今年の8月28日には、おふたりが手がけた『ドラゴンへの道』の再現動画が映画館で上映されましたね。いかがでしたか?
森さん「当時『おっさんずぶるーす』というオムニバス映画に私がヒロインとして出演していたので、その関係でプロデューサーさんと監督さんから、“今、森累珠は頑張っているんだから、舞台あいさつの日を1日だけ好きに使っていいよ! お母さんも出ちゃいなよ!”とお声がけをいただきました。その後、劇場さんの許可を得てあの動画を上映することに。劇場に映像が流れたときは、本当にうれしかったですね……!」
累ママさん「私は映画に出演していないんですけど、ありがたいことに舞台あいさつに立たせてもらいました。“申し訳ないんですけど、私は出ていません”って」
森さん「当日は満席で、入れないお客様もいたとかで。私も公開前には胃が痛くなりながら宣伝をがんばっていたので、それを知っている人たちも喜んでくれて……映画館のみなさんもとても温かったですね。中でも、母が演じた猫のシーンは爆笑で、大盛り上がりしました!」
累ママさん「自分の姿がスクリーンいっぱいに映ったときは、もう感激でしたね。いつもはYouTubeの画面サイズなので、こんなに大きな画面で自分たちを見ることはないので……!」
──完全再現動画作りでは、どのあたりを見てほしいですか?
森さん「ヌンチャクも習っていたので、アクションに力を入れているように見えるかもしれませんが、実はリー様の表情やしぐさ、演技を見てほしいと思ってやっています。映像としても、そこには力を入れて撮っています。
そしてTwitterなどのSNSで定期的に情報を発信しているのは、もっと若い人たちにリー様を知ってほしいからです。なかには、ブルース・リーとジャッキー・チェンとの区別がつかなかったり、“アチョー!”という叫び声をおふざけだと思っていたりする人が少なくありません。そうした誤解をこの完全再現動画を広めて、払拭(ふっしょく)していきたいですね」
──本当に、おふたりのブルース・リーへの愛が感じられる作品だと思います。改めて、森さんがブルース・リーから影響を受けた言葉や、いつも心に抱いているメッセージはありますか。
森さん「 “幸せであれ。しかし決して満足するな”“Be water,my friend”など、リー様は本当に数々の名言を残しています。そのなかで、私が一番影響を受けたのは“私が恐れるのは、一万通りの蹴りを一度ずつ練習した者ではない。たったひとつの蹴りを一万回練習した者だ”という言葉です。この言葉から、ひとつのことを突き詰めていく大切さを感じました。
私もこれまで14年間、女優としてお芝居をずっとやってきましたが、これからも諦めずに続けていきたいと思っています。いま制作している完全再現動画は、リー様の魅力を伝えるとともに、自分のお芝居の延長線上でやっているところもあります。落ち込んだり、つまずいたりしたときは、常にリー様のこの言葉で、気持ちを奮い立たせています」
最近では、生前のブルース・リーを知るロバート・チュア氏(※2)と初対面を果たすなど、公私ともにブルース・リーへの愛が止まらない、森さん。次回は、再現動画の作品づくりのエピソードや、気になる親子関係についてお話を伺います。
※2:多くの香港スターをプロデュースし、ブルース・リーとも生前、親交が深かったとされる。現在は香港でテレビプロデューサーを務める
(取材・文/西谷忠和、編集/本間美帆)
【PROFILE】 森累珠(もり るいす) 10歳で子役としてデビューし、現在は映画やドラマなどを中心にフリーランス女優として活動。13歳のころ、ブルース・リーに憧れを抱いたことからジークンドーを習い、特技としてヌンチャクを習得。女優活動の他、若い世代にブルース・リー始祖の魅力を発信するため、“ヌンチャクガール”としても活動中。