今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では’80年代をメインに活動した歌手・アイドルの、『Spotify』(2022年7月時点で4億3300人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去のヒット曲、現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていきたい。
連載第2回は、前回に引き続き浅香唯さんの楽曲を特集。前回はご本人に、大ヒット曲にまつわる思い出や、近年、発表された意外な人気曲などについて語ってもらった。今回は11位以下を掘り下げて、当時ヒットチャート圏外だった楽曲やアルバム収録曲の中で新たに生まれつつあるヒット曲について、さらには、’22年9月に行われる『ビルボードライブ』公演への意気込みを語ってもらった。(連載第1回→浅香唯、「C-Girl」Cの意味は? ライブで必ずやりたい曲は? 自身のSpotify再生回数ランキングを見ながら明かす)
衝撃タイトルの曲たちが当時以上に人気、パワフル期には「地声をより強く」
──浅香唯さんのサブスク人気曲11位以下を見ると、当時のオリコンTOP10ヒット曲と、オリコンTOP100圏外の楽曲が、同じくらい聴かれているのがすごいです。つまり、第17位「夏少女」や、第25位「コンプレックスBANZAI!!」、第32位「ヤッパシ・・・H!」などは当時の印象よりも人気なのですが、これは、浅香さんがライブで歌い続けてることで、より愛されるようになったのでしょうか。
「確かに、それは大きいでしょうね。『コンプレックスBANZAI!!』や『ヤッパシ・・・H!』は、タイトルからして、初めて聴く人は驚くみたいなんですが(笑)、私としては大切にしてきたので、“私の大事な子どもたちでーす!”と、(ほかの楽曲と変わらず)堂々と歌っていますよ。でも、インパクトがあって、みんな覚えてくれるから人気なのかもしれませんね。
私自身、正統派アイドルの部分とのバランスを考えつつも、実はコミカル路線が大好きなんです。当時、まだアイドルらしい仕事しかしていなかったのに、楽曲ではこういう路線も早くからやっていたのは、実は三枚目的な一面があるということがスタッフさんに見抜かれ始めていて、“隠す必要はないよ”と、そういう要素を取り入れてくださったんだと思います。
ただ、『ヤッパシ・・・H!』を最初に歌うとなったときは、“これ、ほんとにシングルでいっちゃうの?”って、私も含め、スタッフさんたちで何度も会議をしましたよ。それと、『コンプレックスBANZAI!!』は一見コミカル路線ですが、実際は“この楽曲に励まされた”と言ってくれるファンの方もたくさんいたので、エールソングとして大事に歌っています」
──確かに、「コンプレックスを気にしすぎず前を見て生きよう」という思いが伝わる、ものすごく前向きな曲ですよね。そして、15位からはアルバムのオリジナル曲やシングルのカップリング曲もシングル表題曲の並びに食い込んでいます。
まず、第15位「瞳のラビリンス」(アルバム『MELODY FAIR』収録)。これは、昨今でも世界的にブームが起きている林哲司さんの作曲ですね。
「この順位になれたのは、確実に林哲司さんのファンの方々のおかげでしょうね。『瞳のラビリンス』は、歌うのがめちゃくちゃ難しかったという思い出があります。リリースされたのは’89年ですが、たぶんデビュー間もない時期にレコーディングして、あまりにも大変だったから、いったん様子見して(再レコーディングに)なったのかなと思います。ライブでも1回歌ったかどうか……。でも、曲自体はとっても好きなんです! ほかの曲もそうですが、私は、“こんなにいい作品をシングルにしなくていいんですか!?”と言われそうなほど、本当にすばらしい方々に曲を書いていただけていて、どれも気に入っています」
──このころは、シングル「Melody」「TRUE LOVE」「恋のロックンロール・サーカス」「DREAM POWER」と攻めた曲が続き、サビだけでなく、どのパートもフル・スロットルで歌われていますよね。
「この時期は、常にパワフルにしようと意識して、地声をより強くしようと工夫していました。確かに、爆音にしてヘッドホンで聴くと、(歌声と曲の激しさに)“あぅっ!”ってなっちゃうかもしれませんね(笑)」
──この翌年あたりからウィスパー歌唱に急展開されたのは?
「いちばんの理由は、作風に合わせたかったということ。20歳という年齢自体はあまり気にしていなくて、楽曲の影響が大きいですね。それに、“イケイケドンドン”な浅香唯から大人の女性に変わっていく、という流れを意識していました。もちろん、歌い方を変えることで、酷使していたノドを休めようと思ったのもあります」
──現在、第42位の「愛しい人と眠りたい」(作詞:松本隆、作曲・編曲:大森隆志)も、ウィスパー歌唱だからこそ、心にすっと沁みてきますね。
「この歌は本来、可憐(かれん)な女の子が恋に落ちていく、ちょっと悲しげな曲なんですが、ライブのセットリストによっては、凛とした感じになることもありますね。あと、同じころのシングル『恋のUpside-down』も、レコーディングでは少し抑えていますが、ライブではいろんな歌い方をしています!」
アルバム曲もシングル級!「雨が雪に変わった夜に」はライブで“奇跡”を起こした
──また、アルバムの楽曲に戻ると、「Believe Again」や「C-Girl」を収録した『Candid Girl』(オリコン最高3位、当時20万枚ヒット)のものが、20位前後にたくさんランクインしています。このアルバムは作家陣を見ても、馬飼野康二、吉元由美、井上ヨシマサ、佐藤健、魚住勉など、当時すでにメガヒットを経験していた方たちばかりで、実際に聴いてみても「シングルベストかな?」と思うほど粒ぞろいですね。
「当時のディレクターさんがめちゃくちゃクオリティーにこだわる方で、だからこそ(シングルじゃなくても)今でもシングルと変わらず愛されている曲がいっぱいできました。ライブでも盛り上がる曲が多いんですよ」
──『Candid Girl』収録のアルバム曲の中で最上位・第19位の「Heartbreak Bay Blues」も、当時のカップリング曲の中で人気上位の第22位「NIGHT DANCER」(シングル「TRUE LOVE」収録)もアッパーチューンですね。「NIGHT DANCER」は、’20年の配信ライブで歌われた際に、よりパワフルになっていて驚きました。
「私は、よほどのことがない限りは原曲のアレンジを変更しないようにしているんです。だから変わっている部分は、私の表現力だけなので、それがよりパワフルになっているんだと思います」
──そして、第29位にはシングル未収録のアルバム『HERSTORY』から「雨が雪に変わった夜に」がランクインしています!
「ミニアルバムですが、完成度が半端なくて、本当にいい作品なんです。全6曲でストーリーができあがっているので、6曲とも聴いてほしいですね。これは作詞家の麻生圭子さんが現場につきっきりで、レコーディングしながら歌詞を変更してもらった部分も。私が歌ってみると、想像とは違う感じになることもあり、その場で“唯ちゃんが歌うなら、こっちの言葉のほうがいいね”って、即座に変えてもらっていました。
『雨が雪に変わった夜に』は、あるライブで歌った直後に、本当に天候が雪に変わったんですよ!! 会場を出たら、雪が降ってきたのが鳥肌もので、(これが突出して人気なのは)ファンの方たちにも、その日の奇跡的な印象が残っているのかもしれませんね」
「GOAL」はファンとの絆を示す特別な曲。全体順位には、まったく不満なし!
──サブスクでは、アルバムのコンセプトとは関係なく、いいと思った曲だけをピックアップして聴く習慣があるのですが、浅香さんは、どうお考えでしょうか?
「実は、昔のアルバムは曲順も必死に考えて、スタッフさんと何度も話し合って、渾身の1枚を完成させていました。でも今の時代は、1曲1曲が独り立ちして聴かれますよね。昭和の時代を知っている私としては、正直“あれ? これでいいの?”と思うこともあるのですが、1曲ごとに自立しているという意味では、楽曲の魅力を感じ取っていただけるチャンスにもなるし、それもいいなと思っています」
──現在のディレクターさんからは、第34位の「GOAL」(アルバム『Rainbow』収録)も、浅香さんやファンの方がとても大事にされている曲だという情報をいただきました。これも、作詞:岩里祐穂、作曲:井上ヨシマサ、編曲:若草恵と、主演ドラマ『スケバン刑事III』時代(’86〜’87年、フジテレビ系にて放送)のシングルになってもおかしくないエールソングですね。
「これは、(’90年代半ばの活動休止から)復帰後のファンの集いで久しぶりにみなさんと再会したときに歌ったんです。私は、こんなにも温かい人たちに支えられ、これからもこうして“浅香唯”として、みなさんと一緒に歩んでいくんだなあって思いながら合唱していたら、泣けて泣けて。自分でも、“(泣いてばっかりいないで)もう少し歌えよ!”って思いました(笑)。それほどに、ファンの方たちとの絆を象徴する特別な曲なんです。
その後も、せっかくライブのセットリストに入れたのに感極まって歌えないっていう場面が続いたので、しばらく歌うのをやめていたのですが、最近のライブで、泣かないように何度も事前に練習して、バンドのメンバーにも“泣くなよ”って念押しされて(笑)、ようやく歌えました。油断をしたら、もうイントロを聴いただけで泣けちゃいますね」
──こうして振り返ってみましたが、「この曲がもっと上位だったらいいのに!」とか「今後、この曲をもっと聴いてほしい!」という思いはありますか?
「全体の順位には、まったく不満はありません! それに、’20年の新曲で、配信先行のシングル『LIGHT A SHINE〜月はずっと見ている』が8位というだけでも、十分うれしいです! 私には、配信でおとなしく出ていた印象があって、それこそ“すごくいい曲だから、たくさんの人に聴いてほしい! これからライブで歌っていかなくちゃ”と思っていたところなので。
そのほかも、自分でも順番がホントつけられなくて、ここにランクインしていない曲も含め、好きな曲ばかりなんです。アイドルポップスからロック、コミカル路線といろんな楽曲があり、いろんな歌い方をしてきたので、みなさんにはその中から自由に、お気に入りのものを見つけてもらえたらと思っています」
「わが子を愛してくれてありがとう」ライブへの気合いと、読者へのメッセージ
──そして、9月には待望のビルボードライブがあります! 今回のライブのテーマはありますか?
「毎年恒例のバースデーライブに来てくださるお客さんは、“イエーイ!”という感じのノリの方が多いのですが(笑)、今回は(私の公演目当てというわけでなく)ビルボードにいつも通ってらっしゃる方や、“ライブハウスは苦手だけど、ゆったりとしたビルボードなら行ってみようかな?”と思う方もいらっしゃると思います。だから今回は、わかりやすい“ザ・浅香唯”として、みなさんが懐かしく思ってくれるような楽曲を盛り込んだステージにしたいと考えています!」
──ビルボードだったら、例えば、オシャレなボサノバ風のアレンジとかもアリでしょうか?
「それも雰囲気があっていいなと思い、実は、過去にリハーサルでいろんなバージョンを試したこともあるのですが、“やっぱり、オリジナルで聴きたいよな~”って。あらかじめ、そういった(アレンジを取り入れる)ライブだと決まっていればいいのですが、好きな楽曲を突然アコースティックにされたら、私自身がお客さんだった場合、ガッカリしちゃうかもって思うんです。しょっちゅう足を運んでくださる方ばかりならば、企画ものとしていろんなバージョンにするのも楽しめると思いますが、今回、たまたま来てくださる方もいるでしょうから、やはりオリジナルのままお聴かせしたいなと思っています」
──よくわかります。それにしても、浅香さんは、近年のライブでは本当に元気ですよね!
「実は、(活動を休止していた)“充電期間中”にテレビでずっとお笑いの方たちを見ていて、”おなかを抱えるくらい笑えるのは幸せなことなんだな”って実感して、心を動かされたんです。それで、これからは、人を楽しませていくような存在でありたいと決心しました。だから、毎年のバースデーライブでも、近年では着ぐるみを着たりして笑いに走ってしまうこともあります(笑)」
──ライブ全編、全力で歌っておられますよね。
「体力自体はどんどん落ちていますが、ライブに向けての体力作りはしっかりとするようになりましたね。若いころはバテていても、気合いでなんとかカバーできたのですが、今はそれが難しいので、年中鍛えています。実際、ライザップのCM(’20年)に出て意識が変わりました。それまでは、“運動しなきゃな……”と追い込まれて、渋々する程度だったのですが、あれ以来、“運動って楽しい!!”と積極的に行うようになりましたし、走るにしても、今は自ら目標を立てていますね。
復帰直後から毎年、『Well, Well, Well』というタイトルで趣向を凝らしたライブを続けてきたのですが、やり尽くした感じが出てきたころ、偶然、私の出産が重なったんです。神様が“そうしなさい”と言ってくれた感じがして、1年間休んでみたら、ライブがしたくてたまらなくなって、そこから毎年バースデーライブを続けています。もし、これをやめるときは、本当に何かがあったときくらいですね。ファンのみなさんも、その近辺(浅香の誕生日である12月付近)はかなり早くからスケジュールを調整してくださっているらしく、うれしいです」
──コロナ禍となり、配信での無観客ライブ(’20年)を見たときに、“浅香さんは、本当ならお客さんの顔を見ながら進行するのが大好きなんだろうな”と思う場面が何度もありました。
「いやぁ、あれは大変でした。いつもと同じ会場で、いつもならファンのみなさんの笑顔の花が咲いていて、私はそれに推されながら頑張れているのに……って思いながらだったので、無観客の座席を見れば見るほど、切なくなってしまいました。
だから、今は、マスク着用だとしても、少しでも会えるだけでうれしいです。それでも、人ごみなどに行けない事情がある方々がいらっしゃるのも現実なので、まだまだ我慢は必要だと思っています。だから、元どおりのライブができるまで、私はずっと元気でやり続けます!! 『LIGHT A SHINE』は、みなさんとのコール&レスポンスがまだ1回もできていないけれど、ライブでの掛け合いをするために作ってもらった歌なので!」
──本当に楽しみですね。それでは最後に、そうしたライブで育ててきた楽曲を聴いている方々にメッセージをお願いします。
「まずは、“わが子”を愛してくださってありがとうございます! 私の場合、例えば、“これはアルバムの曲だから……”という思いで歌ったことはなく、どこを切り取っても、シングルと変わらないすてきな曲があると思っているので、それをサブスクで発掘していただけたら、とてもうれしいです!」
確かに、インタビュー中、彼女にどの楽曲について語ってもらっても、それがシングルなのか、アルバムだけのオリジナル曲なのか、また、近年のライブで歌っているかどうかに関係なく、どの歌のエピソードも即座に返ってきたのがとても印象深かった。このことからも、彼女がすべての楽曲に対して全力で向き合ってきたことや、音楽でファンを楽しませようというスタンスが伝わってくる。
シングル以外の楽曲も気軽に聴けるようになったサブスク時代だからこそ、あらためて浅香唯のエネルギッシュな魅力を深く掘り下げてみることもおススメしたい。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
☆浅香唯、ビルボードライブに登場!
◎2022年9月3日(土)@大阪・Billboard Live OSAKA
1st ステージ OPEN 15:00 / START 16:00
2nd ステージ OPEN 18:00 / START 19:00
◎2022年9月11日(日)@神奈川・Billboard Live YOKOHAMA
1st ステージ OPEN 14:00 / START 15:00
2nd ステージ OPEN 17:00 / START 18:00
☆ママ・アーティストの音楽祭 ママホリ2022に出演!
◎2022年10月10日(月・祝)@東京・立川ステージガーデン
OPEN 15:00 /START 16:00 (~19:15予定)
出演アーティスト:相川七瀬、浅香唯、斉藤由貴、中村あゆみ、NOKKO、MAX
※公演詳細やチケット情報は公式HPへ→http://www.yui-asaka.com/index2.html