最近、ネットを賑(にぎ)わせていた「親ガチャ」論争。
親ガチャとは「子は親を選べない」という意味を持つネットスラングで、硬貨を入れてレバーを回すとカプセル入りのおもちゃが出てくる“ガチャガチャ”や、ソーシャルゲームでキャラクターなどを獲得するために行う“ガチャ”になぞらえているとか。「人生でハズレを引きたくない」という人々の心理がうかがえて、今も議論は紛糾している。
しかし、実際に売られている現代のガチャガチャは、満足度が高い、魅力的なカプセルトイであふれている!
ガチャガチャ評論家のおまつさんは、現在のカプセルトイ市場について「第4次ガチャガチャブームが到来している」と話す。
「今、コロナ不況の影響でショッピングモールには空きテナントが目立つようになりました。そうして空いたスペースに、カプセルトイ専門店がオープンしたり、ガチャガチャマシンが設置されたりしています。モールに限らず駅構内や店先など、さまざまな場所にあるので、ガチャガチャマシンを目にする機会が格段に増えているはずです」
日本人にとって、ガチャガチャは日常の風景になっているのだ。
ターゲットは大人の女性
日本におけるガチャガチャの歴史は1965年に遡(さかのぼ)る。
「諸説ありますが、浅草の株式会社ペニイ商会という企業がアメリカからガチャガチャの機械を輸入して、カプセル入りのおもちゃを販売したのがはじまりといわれています。当時の価格は1回10円で、カプセルにはコマなどの駄玩具が入っていたそうです」(おまつさん)
それから50年以上がたち、カプセルトイの内容も進化。材料費の高騰により価格帯は200円〜500円に値上がりしているものの、値段以上の満足感が得られる景品が続々と登場しているという。とくに近年は“女性向けのオリジナルカプセルトイ”が注目を浴びている、とおまつさん。
「カプセルトイの7割はアニメなどのキャラクター商品ですが、残りの3割はメーカーの個性が光るオリジナルカプセルトイです。現在のようにオリジナル商品が伸びるきっかけになったのは、2012年に発売されたキタンクラブ製作の『コップのフチ子さん』。OL風の女性フィギュアのフチ子さんをコップなどの“フチ”に飾って写真を撮り、SNSに投稿するのが女性のあいだで大流行しました」
以来、SNSはガチャガチャブームを後押ししている。
2020年にオープンしたカプセルトイ専門店「ガチャガチャの森」池袋サンシャインシティアルタ店にも、多くの女性客が訪れているという。
「サンシャインシティで買い物に来たついでに、当店に立ち寄るお客さんが多い印象ですね。人気のカプセルトイは、開店から3時間ほどで完売することもあります」(ガチャガチャの森スタッフ)
同店には1240台のガチャガチャマシンが設置され、天井に届きそうなほど高く積まれている光景は圧巻。
前出のおまつさんは、カプセルトイ専門店に足を運ぶメリットについてこう語る。
「オリジナルカプセルトイは、その場所に行かないと出会えないのが魅力です。なかには『どうしてこれを商品化したの?』と疑問を感じるナンセンスなものもあるので、見ているだけでも楽しいですよ」
広がるミニチュアカプセルトイの世界
多くの女性を魅了しているカプセルトイのなかでも、“1980年代アイテムのミニチュア”が特に人気を博しているという。
「代表的なのが、フィギュアメーカー・ケンエレファントのミニチュアです。同社では『日世のソフトスタンド』や、実在する老舗純喫茶のホットケーキなど、特徴的なミニチュアのカプセルトイを多く展開しています」(おまつさん)
そこでさっそくケンエレファントの企画担当者を直撃。カプセルトイのコンセプトについて聞いた。
「当社がミニチュア化するプロダクトは、長年多くの人に愛されている製品を選ぶ傾向があるので、懐かしさを感じるものが多いです。企画担当者が1980年代に思い入れが強い年齢なのも影響しているかもしれません(笑)」
同社のカプセルトイのなかでも、老舗家具メーカー「カリモク60」からライセンス使用許諾を得て開発したミニチュアは、2019年の発売から累計70万個を生産しているロングセラーシリーズだ。
「当社のミニチュアは、実在するプロダクトから公式ライセンスを取得して“本物のミニチュア”を作るのがテーマのひとつです。そこで、長い歴史を誇る『カリモク60』に、お声がけしてプロジェクトがスタートしました」(企画担当者、以下同)
先方もケンエレファントからの提案を快諾。さっそくミニチュアの製作に取り掛かった。
「とくに重視したのは“素材感”です。高級家具をミニチュアにしたときにチープにならないように意識しました。本物の椅子にもある『ブランドプレート』の再現や、実際の家具に使われている木材や革の見た目が再現できるよう、部分ごとに光沢感を変えるなどした工夫を施し、細部にこだわって作っています」
2019年7月に開催されたフィギュアの展示即売イベント「ワンダーフェスティバル」で「カリモク60」を先行発売すると、午前中には完売。本発売後も「憧れのカリモク60のミニチュアが500円で手に入る」と大きな話題を呼んだ。
「カリモク60を購入したお客さんが、ミニチュアのソファに自分のフィギュアを座らせて撮った写真をSNSにあげてくれたので、さらに認知度が上がりました。私たちはフィギュアと一緒に撮ることをあまり想定していなかったので『こんな発想もあるんだ』と驚いたのを覚えています」
ケンエレファントでは、今後もミニチュアのカプセルトイを展開する予定とのこと。
「ゆくゆくは当社のミニチュアの“博物館”を作るのが目標です。夢を実現するために、これからもさまざまなアイテムをミニチュアにしていきたいです」
こだわりが詰まった、ステキなミニチュア博物館になりそうだ。
文化を伝えるカプセルトイも
そのほか、ガチャガチャというツールを使って販路を広げた例もある、とおまつさん。
「愛媛県宇和島市の特産品“あこや真珠”のアクセサリーが当たる『あこや真珠ガチャ』は、宇和島市の道の駅にガチャガチャマシンを設置したところ、爆発的にヒットしました。本物のあこや真珠が1000円で手に入るのは、すごくお得ですよね」
現在、愛媛県などの真珠養殖場では、原因不明の“あこや稚貝の大量死”が頻発している。そんな暗いニュースを吹き飛ばすために、希少な日本産のあこや真珠のアクセサリーをカプセルに入れて販売したところ、またたく間に話題に。設置依頼が殺到し、年内には全国200か所で「あこや真珠ガチャ」が楽しめるようになるという。
「石川県の伝統工芸品・九谷焼が景品になっている『九谷焼ガッチャン』というガチャガチャも興味深いです。自動販売機にお金を入れてボタンを押すと、小さな箱が出てきます。箱の中にはアクセサリーや箸置きなどの小物がひとつと、作者の情報が書かれた解説書が同封されているので、クリエイターを知るきっかけにもなります。開封前は中身が見えないので何が当たるかわからないワクワク感もありますね」(おまつさん、以下同)
「九谷焼ガッチャン」は、羽田空港や東京駅に設置されており、旅行のお土産に買う人が多いとか。手のひらサイズの小物がかわいい!
「福岡には『博多人形』のカプセルトイもありました。このように、ガチャガチャに特産品が入っているとお土産にもなるし、若い人も気軽に購入できますよね。ガチャガチャ自体が日本の文化になっていますが、地域の文化を伝えるツールとしても活躍しているようです」
回す瞬間の笑顔が大切
これまで数々のレバーを回してきたおまつさんは、ガチャガチャの魅力をこう語る。
「ガチャガチャのレバーを回すときのワクワクは、非日常が感じられる。その瞬間は子どもも大人も笑顔になるんですよね。そしてカプセルトイメーカーは、お客さんを笑顔にするために、24時間アイデアを出しつづけています。メーカーはすべて当たりだと思って作っているので、ガチャガチャの景品は“すべて当たり”なんですよね」
なかには、景品のクオリティーを上げすぎて赤字になっているものもあるとか。
「カプセルトイは、毎月300アイテム以上の新作が発売されます。回転が速いので、そのときを逃したら売り切れてしまう可能性も大。気になるカプセルトイがあったら“一期一会”と思って、ぜひ回してみてください!」(おまつさん)
夢が広がるガチャガチャの世界。何げなく立ち寄ったカプセルトイ売り場で運命の出会いがあるかも?
◎ガチャガチャの森
東京都豊島区東池袋3-1-3 池袋サンシャインシティアルタ 1階
《PROFILE》
ガチャポン・ガチャガチャ評論家/おまつさん ◎ライター。テレビやラジオの出演を通じて、日本の文化であるガチャガチャの魅力を伝える。@withnewsでコラムを連載中。毎日ガチャガチャを回し、集めたカプセルトイは5000個以上!
(取材・文/大貫未来[清談社])