例えば、会社の会議であなたが何か提案をしたとき。
あなたが出した提案についてのみ、必ずと言ってよいくらい、いつもイチャモンをつけてくる上司っていませんか?
「何か私に個人的に恨みでもあるの?」と思うくらい、自分のことを目の敵にして、邪魔をしてくる。
そんな人間が身近にいると、うまく進むものも進まなくなってしまいます。
これは、そんな「嫌がらせをしてくる相手を味方に変えるための魔法のひと言」についてのお話。
いじめっ子をボディーガードに変えたひと言
本題に入る前に、自分の息子をターゲットにしているいじめっ子を、たったひと言で「息子のボディーガード」に変えてしまったお父さんの話です。
小学生の息子を持つ、あるお父さん。自分の息子が、クラスで評判の悪ガキ……ではなく、少しやんちゃな子にいじめられているということを知ります。
そのときに、このお父さんがとった「ある行動」によって、そのいじめっ子が、自分の息子をいじめなくなっただけでなく、息子のボディーガードのような存在に変わったのだそうです。
さて、このお父さんがとった「ある行動」、どんなことだったかわかりますか?
えっ? 「いじめっ子の親に抗議した」ですって?
違います。そんなことをしたら、「親にチクりやがって」なんて、余計にいじめがひどくなってしまったかもしれません。
実はこのお父さん、いじめっ子の親ではなく、その子本人を日曜日に家に招いて、あるひと言を伝えたのです。
それは、次のような言葉でした。
「ウチの息子を、ぜひ、いじめから守ってやってくれ」
いじめをやめてくれと言うのではなく、いじめている本人に、あえて「いじめから守ってやってくれ」って頼んだのです。
お父さんからそう頼まれたいじめっ子は、その息子へのいじめをピタリとやめたそうです。
そして、それだけでなく、本当にその子のことを他のいじめっ子たちから守ってくれるようになったのだとか。
ウソのような本当の話です。
「認知的不調和」を利用する!
そのいじめっ子の頭のなかで、いったい何が起こったのでしょう?
それは、「いじめっ子である自分」と「お父さんから息子を守るように頼まれた自分」との間に不一致が生じてしまい、その結果、「いじめっ子である自分」のほうが封じ込められたのです。
脳科学では、このような現象を「認知的不調和」と呼びます。
人は、「自分で認知している自分」と「自分が認知している自分と矛盾する自分」の両方を抱えると不快になって、どちらかを解消しようとするものなのです。
脳科学者の中野信子さんの本には、この「認知的不調和」を利用して「自分に嫌がらせをしてくる相手」を、「自分の味方」に変える方法が載っています。
それは、次のような方法です。
「自分に嫌がらせをしてくる相手に、直接、その嫌がらせの内容についてのアドバイスを求める」
最初に例に出した、「会議で自分が提出した提案」についてイチャモンをつけてくる上司がいたら、会議のあとで、その上司に対して、こう言えばよいのです。
「さっきの会議で私が出した提案について、ぜひ、アドバイスをいただけないでしょうか?」
これで、もし、何かしらのアドバイスがもらえたら、しめたもの。
その上司の脳では、「自分のアドバイスが役に立つことを期待する」「自分が授(さず)けた知恵を正解にしたい」という心理が働くために、あなたに嫌がらせをするモチベーションが下がってしまい、逆に味方になってくれるのです。
相手の脳を揺さぶって、嫌がらせをしてくる相手を味方に変える魔法のひと言、「その件で、ぜひ、アドバイスをいただけませんか?」。ぜひ、活用してみてください。
(文/西沢泰生)
参考:『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(中野信子著/アスコム刊)