もともとは活動弁士(サイレント映画を上映中に、画面の横でその内容を解説した人)で、のちに漫談家、作家、俳優として映画やテレビ、ラジオで活躍をした、“元祖マルチタレント”とでもいうべき人。今で言えば、ビートたけし、タモリ、松本人志の3人を足したような活躍をしていたのが、徳川夢声(とくがわむせい/1894年~1971年)です。
日本アニメの創成期を描いたNHK連続テレビ小説『なつぞら』(広瀬すず主演)に、山寺宏一さんが演じる豊富遊声という声優が出てきたのを覚えていませんか。あれが、徳川夢声さんをオマージュした登場人物です。
話術の達人として知られた無声さんは、そのものズバリ、『話術』というタイトルの本を残しています。
今回はその名著に出てくる「座談十五戒」、つまり、「人と話すときにしてはいけないことの15か条」について紹介します。
現代は、数多くの「会話」に関するビジネス本がベストセラーになっていますが、それは、ネットワークの普及によって、多くの人が、「直接の会話」に不安な気持ちを持っている表れなのかもしれません。
ぜひ、この「座談十五戒」でご自身の会話術をチェックしてみてください。
会話では“やりすぎ”に注意!
「座談十五戒」、さっそく、ツッコミながら見ていきましょう。
(1)一人で喋(しゃべ)るなかれ
(2)黙り石となるなかれ
いきなり会話の大原則ですね。よく言われるように「会話はキャッチボール」。相手がとても受け取れないほど多くのボールを投げ続けたり、相手が投げてくれたボールをいっさい投げ返さなかったりでは、キャッチボールが成立しません。
会話のときは、常に頭の中で「言葉のキャッチボール」を思い浮かべましょう。
(3)反り返るなかれ
(4)馬鹿丁寧なるなかれ
ここでいう「反り返る」は、「威張る」ということ。たとえ上司でも、威張り散らして部下を人間扱いしないようなしゃべり方をする人は、本人が気づかないだけで、周りからは軽蔑されています。
反対に、自分よりもはるかに後輩に対して「これはこれは、○○先生!」なんて、馬鹿丁寧すぎる話し方をするのも度が過ぎていて、「皮肉を言っているのかな?」って受け取られてしまうかも。
「誰に対しても、適度な丁寧語」。これですね!
(5)お世辞屋たるなかれ
(6)毒舌屋たるなかれ
相手のことを褒めることは必要です。ただ、それが「見え透いたお世辞」だと逆効果。相手は気持ちよくなるどころか気分を害し、「あいつはどうも信用できない」なんて思われてしまいかねません。
毒舌もしかり。気の置けない相手に軽く言うのはよくても、それ以外には言わないほうが無難です。夢声さんは、とくに「相手が自分の欠点として気にしていること」「相手が本業としてやっていること」についての悪口は命取りになるとおっしゃっています。そういえば、ある歌手は夫から「音程がズレていたよ」と言われたことが離婚の原因になったと聞いたことがあります。
(7)コボシ屋たるなかれ
(8)自慢屋たるなかれ
(9)法螺(ほら)吹きたるなかれ
「コボシ屋」とは、「愚痴をこぼしてばかりいる人」のこと。口を開けば「世の中が悪い、政治が悪い、上司が悪い」って、そればかり言う人との会話はウンザリですよね。
逆に、自信家で自慢話しかしない人や、限りなくウソに近いホラ話をする人も「イタイ人」って思われてしまいます。人は、他人の自慢話やホラ話より、失敗談のほうを聞きたがると知りましょう。