今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では1980年代をメインに活動した歌手・アイドルの『Spotify』(2022年12月末時点で4億3300人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去・現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、本人または昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていく。
今回も、早見優のSpotifyでの人気曲を本人とともに振り返っていく。前回は、TOP4のうち「夏色のナンシー」「緑色のラグーン」「誘惑光線・クラッ!」の3作が筒美京平作曲ということに触れ、特にシングルB面曲だった「緑色のラグーン」が、代表曲「夏色のナンシー」の約半数も聴かれていることが興味深かった。
野口五郎、アラン・タムとのデュエット曲が人気! 香港での撮影秘話も語る
今回は、第5位、第6位のデュエット曲から語ってもらった。第5位の「愛が生まれた日」は、2017年2月に発表された野口五郎のアルバム『風輪』の収録曲。これは野口がさまざまな女性歌手と昭和から平成初期の名曲をカバーするという企画アルバムで、早見とは「愛が生まれた日」をデュエットしている。本作が30万回近く再生されているのは、藤谷美和子・大内義昭歌唱によるオリジナル曲が未配信ということで、“代わりとなるいいお手本”として選ばれていることも大きい。
「五郎さんはロングトーンの部分のビブラートがとても特徴的なので、その部分を”僕に合わせて“って言われて歌いました。選曲は五郎さんから指定されて、“えっ、私がこういう路線も歌えるのかな?”って心配だったんですが、意外とスムーズに歌えたので、その後も映画の挿入歌としてテレサ・テンさんの『時の流れに身をまかせ』を歌わせていただきました。(『Affection~YU HAYAMI 40th Anniversary Collecton~』にも収録。)メロディーがきれいな歌謡曲調の楽曲もいいですよね」
そして第6位には、’50年生まれで俳優・歌手として大スターとなっている香港生まれのアラン・タムさんとのデュエット曲で、’87年、早見優と共演した映画『恋のカウントダウン』の主題歌でもある「偏愛」。映画は日本未公開だが香港では大ヒットしたそうで、その主題歌は広東語と英語による壮大なバラードとなっている。早見いわく、「中国に住んでいる熱狂的なファンの方がいつも聴いてくれているか
「この映画は大学入学の直後に撮影して……その3週間は、超過密スケジュールでほぼ寝ていません(苦笑)。でも、とてもいい歌ですよ。これは撮影もかなり特殊だったんです。私は広東語のセリフがわからないので、アランさんが話し終えるタイミングがつかめなくて。だから、そのタイミングに合わせてアシスタント・ディレクターの方に私の脚をポンと叩いてもらい、それを合図に英語のセリフを言うという感じで、面白かったですね(笑)。
しかも、できあがった映画を観てビックリ! 私の英語がまったく使われておらず、私の声にそっくりな人が広東語でアフレコをしているんですよ。観ていて、“あれっ? 私ってこんなに広東語がうまかったっけ?”って錯覚するほどでした(笑)」
中原めいこの前でアカペラ披露!? 『AND I LOVE YOU』は海外でも好評
7位には「PASSION」がランクイン。本作は、早見優主演映画『Kids』の主題歌で、レコード売り上げはオリコン最高10位ながら、累計では11.7万枚と「誘惑光線・クラッ!」以来5作ぶりに10万枚を突破。また有線放送では年間70位と、代表曲「夏色のナンシー」よりも上位となっており、そのファンキーなポップスが早見にピッタリハマったヒット曲といえるだろう。作詞・作曲は、今、海外のシティポップ・ファンにも人気の中原めいこが手がけており、今後、さらに伸びる可能性がある。
「『PASSION』は、発売当時から本当に大好きな曲ですね。自分の路線をロック風のものやダンサブルなものに変更したいと考えていた時期に、めいこさんに作っていただけて、うれしかったです。私はレコーディングが深夜だったり、風邪ぎみだったりで思うように歌えないことが多かったんですが、この歌はたった3回でOKになったんですよ。
その後、めいこさんと『夜のヒットスタジオ』でご一緒したら、“あの歌、すごくうまく歌っているね! どこで息継ぎしてるの?”と尋ねられたので、めいこさんを目の前にしてアカペラで歌いました。フジテレビの廊下で(笑)。“あっ、そこね! 今度コンサートで歌うから、私もそこで息継ぎするわ”って言ってくださいました。めいこさんの歌は、どれもキャッチーで、今聴いてもキラキラしているんですよ。この歌のほかに『鏡の中のアクトレス』や『エモーション』なども素敵なので、海外で評価されているのもわかりますね」
そして、Spotify第8位と第9位には1stアルバム『AND I LOVE YOU』から、「Love Light」の英語バージョン「LOVE-LIGHT」と、ミリオンヒット曲の「異邦人」で有名な久保田早紀が作曲した「ゴンドラ・ムーン」の2曲がランクイン。ほかにも同アルバムからは「I Love,who?」「ハニーな昼下がり」「青いSea Side」「太陽の恋人」「私を見つめて…」など、先行シングル「急いで!初恋」も含め、なんと8曲もTOP50入りしている。同作は、バラエティー豊かな楽曲が集められていて、必ずしもシティポップ的な作家で固められたわけではないが、これだけ人気なのは、早見の歌声の魅力によるところも大きいのだろう。
「ここで人気となっている『ゴンドラ・ムーン』と『ハニーな昼下がり』は両方大好きですね。当時、15歳で歌うには大人っぽいと思ったのですが、だから今でも好きなのかも。
先日、アメリカのニューオリンズから日本のカルチャー情報を配信しているポッドキャスト『クリューオブジャパン』でインタビューを受けたのですが、DJの方のうちのひとりが、この『AND I LOVE YOU』のアルバムレコードを持っていてくださったんです! その方に、“なぜ、このジャケット写真では牛乳を持っているのですか?”って、恐る恐る尋ねられました(笑)。一時期、全米では牛乳を普及させようというキャンペーンがあったんですって。もちろん関係なくて、当時のディレクターさんが私の顔色とのコントラストでデザイン的に考えられたんですよ(笑)。このアルバムからは、『I Love Who?』も19位なんですね、うれしいです!」
早見が「本作でいちばんのお気に入り」と語る9位の楽曲『ゴンドラ・ムーン』は、ちょっと切ないミディアム・チューンで、アイドルポップスとしてはやや落ち着いた仕上がりとなっているが、ここでも早見のセンスが時代を先行しているのが興味深い。逆に、歌うのが大変だった曲はあるのだろうか。
「58位の『サテン サンバ72☆』ですね。♪トロピカル シェモア サンセット オーロラ~、と当時の喫茶店の名前が72コ並べられた歌なんですが、コンサートでどうやって覚えたらいいんだろう……って悶絶しました(笑)」
そして、10位からは、さまざまなシングルが登場するのだが、ここでは当時のシングル売り上げ以上に人気となっている曲を中心に語ってもらった。まず、「アンサーソングは哀愁」は、’82年に発売された3作目のシングルで、しっとりとしたマイナー調のミディアム・チューン。途中に英語のセリフが入るのも早見らしい。
「これは阿久悠先生の作品ですよね。当時の新人賞関連では、ほとんどこの曲を歌っていましたから、それに合わせてのことだったんだろうと思います」
「BEAT LOVER」「CLASH」の上位ランクインは、早見自身も「衝撃的」
次に、13位の「BEAT LOVER」は、’89年に自身が出演したコーセー化粧品のキャンペーンソング。前年の同キャンペーンソングだった「GET UP」と同じ葛口雅行が作曲したファンキーなナンバーだが、「GET UP」のSpotify80位に比べ、こちらは大人気だ。
「『BEAT LOVER』は、Night Tempoさん(日本のシティポップや’80年代歌謡曲を発掘した韓国のDJ兼プロデューサー)が気に入ってくださっていますよね。私も大好きですが、あまりプロモーションで歌った記憶がないんです。もしかすると、ほかのお仕事で忙しかったのかもしれません。でも、『BEAT LOVER』が(数々のランキング番組でTOP10入りしていた)『抱いてマイ・ラブ』よりも上位なんて……聴いてくださっているみなさんに、どうして好きなのか尋ねてみたいくらいです(笑)」
そして、15位と16位には、シングル「哀愁情句」とそのB面曲「不意打ちのランデブー」がランクイン。秋のリリースを意識した、しっとりとした「哀愁情句」よりも、ややスペイシーな雰囲気でアップテンポの「不意打ちのランデブー」のほうが若干、人気だが、ともに筒美京平の作曲ゆえ、国内外の昭和ポップスファンが掘り当てて今でも人気なのかもしれない。
「『哀愁情句』は、今聴いてもしっくりくる大人な作品ですね。当時よりも今のほうが好きかもしれません」
続いて20位には、’85年のシングル「CLASH」がランクイン。本作は、早見の切れ味鋭いボーカルも、男を振り切っていくメッセージも、そして激しいブラスアレンジも強い感じで統一されているアッパーチューン。だが、「夏色のナンシー」から10作連続キープしたオリコンTOP10入り、または累計売り上げ10万枚以上のいずれも逃してしまった(オリコン最高12位、累計5.5万枚)。楽曲があまりに衝撃的だったことで、多少ファンが離れたのかもしれないが、これが今では、当時の売り上げ3番手の「ラッキィ・リップス」よりも上位とはかなり意外だ。
「『CLASH』がこんなに上位なんて、ある意味、衝撃的ですね。この歌は、今聴いても“難しい歌だな~”って思います。私自身も、なぜこの歌がシングルなんだろうって不思議でした。でも、(当時ヒットした)『Tonight』(Spotify第26位)や『STAND UP』(Spotify第78位)よりも今人気なのは、アレンジの面白さがあるからかもしれませんね。ちなみに、ジャケット写真の後ろ髪には針金を入れていました(笑)」
今年2月にアルバム『YU HAYAMI 40th Anniversary Collection』も配信されたので、これでシングルA面曲は全体的にさらに聴かれやすくなるかもしれない。さらに、早見はシングル「CLASH」のB面「渚のフーガ」が第48位となっていることを目ざとく見つけてくれた。
「『渚のフーガ』! これも、数年前のライブで歌って、改めていい歌だな~と感じていますね。こちらがA面でもよかったんじゃないかと思うくらいキャッチーで(笑)」
確かに、これはフォークダンスで踊るようなリズミカルな楽曲をロックテイストにアレンジしたユニークな楽曲だ。こうした作品も早見のレパートリーにあり、それが決して少なくないリスナーに届いているというのが興味深い。
「私たちの時代って、ちょっと年上の方々がすすめてくれた音楽を聴くしかなかったけれど、今はストリーミングサービスがあるおかげで、自分で気軽に調べられますよね。先日も、私が聴いている音楽を娘に尋ねられて、“エルヴィス・プレスリーよ”って答えたら、自分で調べて“これいいね”!ってすぐ返してくれて。そうやってアクセスがしやすいからこそ、昭和の歌も“古い歌”という感覚がないんでしょうね」
早見は、自身の楽曲が人気となっている理由を一つひとつ真剣に考えつつも、受け答えが明朗で、現場は明るくポジティブな雰囲気となり、さらに話が進む。この知性と華やかさの絶妙なバランス感覚こそが、早見優が40年以上にわたって活躍する大きな秘訣なんだと改めて認識した。最終回となる第3弾では、アルバム収録曲や、40周年記念アルバム『Affection』の魅力にも迫ってみたい。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
早見優(はやみ・ゆう) ◎日本生まれ。3歳から14歳までグアム、ハワイで過ごす。14歳でスカウトされ、’82年「急いで!初恋」で歌手デビュー。「夏色のナンシー」「PASSION」などのヒット曲がある。上智大学比較文化学部日本文化学科卒業。特有の国際感覚とバイリンガルを生かし幅広く活躍。’18年にはデビュー35周年記念ベストアルバム「Celebration」を、’22年にはデビュー40周年記念ベストアルバム「Affection」を発売。現在、NHK WORLD「Dining with the Chef」 、NHK ラジオ「深夜便ビギナーズ」にレギュラー出演中のほか、JCV(世界のこどもにワクチンを日本委員会)のスペシャルサポーターとしても活動している。
【CD】Affection〜YU HAYAMI 40thAnniversary Collection〜
デビュー40周年を迎える早見優のアニバーサリーアイテム第3弾。40年のヒストリーを感じさせる輝かしい代表曲の数々、今回初CD化のレア曲、そして新曲3曲までを網羅した41曲、3CDアルバム! 定価6600円(税込)
◎早見優オフィシャルサイト→https://www.yu-hayami.com/
◎公式Blog→https://ameblo.jp/hayami-yu/
◎公式Instagram→https://www.instagram.com/yuyuhayami/?hl=ja