「初めて月9に出させてもらったのが『愛し君へ』(2004年)という作品で、10歳のとき。それこそ病院に入院している少女の役でした。医療ドラマには何作か出演していますが、ずっと患者さんの側で今回初めて医師の側になりました」
月9ドラマ『PICU 小児集中治療室』に出演中の菅野莉央。演じる河本舞は主人公の小児科医・志子田武四郎(吉沢亮)と幼なじみで同級生。ともに北海道で生まれ育ち、同じ札幌の病院で働いているという設定だ。
子役からキャリアをスタートさせ、いま29歳。つちかってきた演技力で、近年とみに役柄の幅が広がってきた菅野莉央に今日までの歩みを聞く──。
お互いに気心が知れた関係性
──注目の「月9」枠にレギュラー出演。オファーを受けた思いは?
「『監察医 朝顔』や『SUPER RICH』でお世話になった金城綾香プロデューサーと平野眞監督のチームですよ、とうかがって。また1年たって呼んでいただけてうれしかったですし、ご期待に沿えるように、いい姿を見せられるようにと思って臨んでいます」
──初めての医師役ということで、どういう準備をされましたか?
「まず実際のPICU(小児専門のICU=集中治療室)の現場を見学させていただく機会を設けてもらいました。どんなふうに患者さんが運ばれてきて、医療スタッフがどんなふうに対応して、という流れを細かく見せていただいたので、そのとき目にした現場の空気感やプロフェッショナルな方たちのチームワークの感じが、演じるうえですごく助けになりました。自分でも調べられる範囲で資料を調べました。
ですが、やっぱり現場に入って実際に器具を手にして、どういう動線で動いてっていうのはもう専門の方じゃないとわからないので、そこは医療監修のチームの方にお世話になって。毎回細かく指導していただいています」
──命の現場にいる方って、相当なプレッシャーの中でお仕事をされていますよね。
「今回参加して本当にそう思いました。どんなお仕事も大変だとは思うんですけど、自分の判断や選択で人の命が左右されるとか、今後の人生が変わってしまうって、相当なプレッシャーだと思うので、その中でお仕事されてるって、やっぱりすごいなっていうか。あらためて尊敬の念を抱くというか恐れ多いなって。
特に今回は患者さんが子ども。その子のこれからの人生を考えると(治療の選択についても)何がベストなのか、すごく葛藤されるところだろうと思います」
──菅野さん演じる舞は、主人公の武四郎(吉沢亮)とはPICUチームで同僚の医師で、子どものころからの幼なじみでもあります。悠太(高杉真宙)、桃子(生田絵梨花)を含めた同級生4人の関係性もドラマのもうひとつの魅力ですね。
「はい。お互いに気心が知れた関係性をしっかり表現できるよう、4人のかけ合いのシーンでは、丁寧になりすぎないように意識しています。会話するときもあんまり目を見て話さないとか、何か動きながら言葉を投げたりとか。
あと、返事をするときも生返事みたいな感じになるよなぁと思って。気心が知れているがゆえの、ちょっと雑な感じとか(笑)。リアルな生っぽさが出るといいなって意識しています」
「実年齢は吉沢亮さんと私が同学年で、高杉真宙さんと生田絵梨花さんが3つ下なんですが、最初に北海道ロケがあって、みんなでカヌーを漕いだりとか自転車に乗ったりする時間があって、打ちとけて話せるようになりました。
生田さんとは移動の車も一緒で。北海道なのでだいぶ距離があったんですけど、1時間半ぐらいずっと話してくれました。私、彼女のお姉ちゃんに似てるって言われました(笑)。すごくしっかりしていて、サバサバしてる感じらしく(笑)」
──男性ふたりは、ちょっと人見知りっぽく見えますが。
「私も寡黙な方のイメージだったんですが、北海道ロケがありましたし、最近よく現場でも話すようになりました」
吉沢亮さんと重なり合って
──吉沢亮さんとは大河ドラマ『青天を衝け』でも共演しています。どういう方なんですか?
「実はピュアな方なんだなって最近すごく思います。少年っぽいというか、自分が感じたことに素直な方なんだなって。
もともと本人の要素として持っている素直で嘘をつけない感じが、武四郎の役を演じるうえでも生きている。武四郎と重なって見えてきます。すごくしっくりくるのは、きっと吉沢さんの中に武四郎っぽい要素があるんだなって思って」
──ご自身は自分の地と役柄の関係性で、意識されることはありますか?
「私もけっこう舞と似ているところがあって。気持ちの切り替えが早い感じとか、思ったことをわりとすぐ言ってしまうところは似てると思うので、あんまり作らずに臨めていると思います。
一緒にご飯を食べたり、こういうことあったんだよねって話をしたときに率直な意見を言ってくれそうで、こんな子がお友達にいたらいいだろうなって」
──それにしても幼なじみ4人のうち、3人が医師になるってすごいことかもしれません。
「そこは私の想像なんですけれど、同じ地元で同じコミュニティーで育つと、けっこう同じものを目指したり、お互い影響を受けたりすると思うんです。やっぱり地元愛があるわけで。
となると、地元で役に立ちたいとか、足りないものを補いたいとか、何か貢献したいみたいなところで(医療を)目指してきたのかなって」
──まだ自分が何者でもない時代から、お互いに知っている仲間がいるって心強いですよね。菅野さんにもそういう仲間がいますか?
「います。俳優さんではないんですが。私は韓国に留学していたことがあるんですけど、向こうで知り合って仲良くなった日本人の子がいて。その子が偶然、その後スタイリストになって。
今も仕事の話をしたりとか、何でも打ち明けられる仲っていう感じです。ちょっと近い業界にいて、お互い理解できることも多いので。よく電話で話したり、ドラマの中の舞たちみたいにビデオチャットしたりしています(笑)」
かわいくってしょうがない
──安田顕さん、木村文乃さんら先輩俳優たちも含めて、PICUチームはどんな雰囲気ですか?
「大人チームは待っている間も(スタジオの)前室でコーヒー飲んだりしながら、ずっと皆さんお話しされていて。和気あいあいとして楽しそうです。
私は……見守ってます。さすがに大先輩なので。そこに割って入る勇気はあまり(笑)」
──吉沢亮さんは主演ですから、大人チームに入って?
「幼なじみ同士ではけっこうお話しされるんですけど、PICUの撮影の日は集中されています。シリアスなシーンが多いということもあって、モードが違う気がします。
私も感覚的にけっこう別のドラマを撮ってるんじゃないかっていうぐらい、あの武四郎の家のほのぼのしたシーンの撮影の日と、お医者さんチームの撮影の日では空気が違うのを感じます」
──現場には患者さん役で子役がいると思います。子役からスタートした菅野さんとしては、彼ら彼女らを見て思うところはありますか?
「あ、自分と重ねてですか? 子どもたちというか、(付き添いで現場に来ている)彼らのお母さんを見ていて “私の母もこうだったんだろうな” と。ずっとそばにいて気を遣ってとか、おとなしくさせるとか。
そういうところが母も大変だったんだろうなって、あらためて思いましたね」
──患者役だから病気をしている設定ですが、やっぱり元気なんですね(笑)。
「元気ですね。ものすごく元気です。おとなしくさせるのに必死です。スタッフさんとか、“はい、寝るよー” みたいな感じで(笑)。
でも、すごくかわいいです。クランクアップの日にお手紙をくれたり。(出番が終わって)どんどん卒業していっちゃうから寂しいんですけど、一緒に写真撮ろうって言ってくれたり、かわいくてかわいくてしょうがない」
香取慎吾さんはお兄ちゃんのように……
──そもそも子役を始められたのは?
「私、2歳のときに事務所に入ったんですけど、それは母の友人が赤ちゃん雑誌のモデルみたいなのに応募したら? ってすすめてくれて。小っちゃいときの写真が残ったらいいねっていう、記念のような軽い気持ちで事務所に入ったので、こんなに長く続くとは思ってなかったみたいです」
──幼いころって、まだ明確に自分の意志ではありませんよね。
「そうですね。ドラマや映画はオーディションがあるので、台詞をいただいて受けに行ってた記憶はあるんですけど。お仕事というとらえ方ではなくて習い事に行ってる感じというか。みんながピアノに行ったりとかしてる感じで、私はこれに行ってるみたいな認識でした。
あと現場に大人の方がたくさんいて、そこに交じって何かできるってことが、子どもにとってはすごく刺激的で楽しかったです。とにかく現場に行きたいっていう」
──そんななかで映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)といった、のちのち語り継がれる作品に出演してきました。池脇千鶴さんが演じたジョゼの少女時代は印象的でした。
「ありがとうございます。『ジョゼ〜』はこの業界の方で見ていらっしゃる方が本当に多いので、大人になってからも言っていただくことが多い作品です」
──月9では『西遊記』(2006年)にもゲストで出演されていますね。三蔵法師が深津絵里さんで、悟空が香取慎吾さんで。旅の途中で出会うチャイナ服の少女が菅野さん。
「悟空をちょっと騙(だま)そうとする、ウソをついちゃう役でした。懐かしいですね。
香取さんはとても気さくっていうか、たぶんみなさんが持たれているイメージそのもので。ゲストの私たちができている輪のところに入っていけるように、すごくケアしてくださって。本当にお兄ちゃんのように話しかけてくださった思い出があります」
「あと覚えているのは、スタジオにロケのような大きなセットが作られていて。ふだんの日常と違うことを味わえるのが、楽しかったです。大人の方たちのプロフェッショナルなお仕事を間近で見られる。
当時は私、メイクさんにも興味をもったり現場のいろいろな工程に興味があって、チームでひとつの作品を作ってるっていうプロセスに魅力的を感じてましたね」
──そこに目をつけるというのは、ちょっと変わった子どものような(笑)。
「そうですね。たしかにそうかもしれません(笑)」
──そうしたなかで、はっきりご自分の意思で、俳優を続けていこうと思われたきっかけは何でしょうか。
「要所要所でいろんな出会いがあったんですが、『いちばんきれいな水』(2006年)という映画でまるまる1か月ロケ撮影の期間があって、そのときに現場の楽しさを強く感じたんです。加藤ローサさんと姉妹の話で、本当にふたりで毎日撮影してたなっていう。
スタッフの方とも家族みたいになりましたし、すごく刺激的で濃密な1か月っていう感じで。子役を卒業してもこれをずっと続けていきたいなと、小学6年の年に思ったんですね。それが転機だったと思います」
「もともと子役の事務所で、大人になってもいられる環境ではなかったので、だいたいそこでみんな進路を決めるんです。俳優を続けるなら大人の事務所に移らなきゃいけないっていうことで、両親とも話をして。中学校に入るタイミングで学業に専念する選択肢も考えたんですけど、やっぱり仕事はやりたいと伝えて。
そこから母が一緒に事務所を探すのを手伝ってくれました。で、アミューズさんの面接に行って、って感じです」
19歳のときには是枝裕和監督が脚本・演出・編集を手がけたドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(2012年)に出演。女優を続けるかたわら法政大学に学び、交換留学で韓国に渡ったのは前述したとおり。ソウルの名門・延世大学で韓国語と英語を学んだ。
『ゴーイング マイ ホーム』で共演した阿部寛とは『下町ロケット』(2018年)で、江口のりことは『SUPER RICH』(2021年)で再会を果たした。これからも出会いを重ねていくに違いない。
(取材・文/川合文哉)
《番組情報》
『PICU 小児集中治療室』
フジテレビ系 月曜 午後9:00〜9:54
出演:吉沢亮
安田顕 木村文乃 高杉真宙 高梨臨 菅野莉央
生田絵梨花 中尾明慶 菊地凛子
松尾諭 正名僕蔵 野間口徹 甲本雅裕 イッセー尾形 大竹しのぶ
脚本:倉光泰子
《PROFILE》
菅野莉央(かんの・りお) 1993年9月25日生まれ。埼玉県出身。身長162cm。子役として2歳からキャリアをスタートさせ、2002年公開『仄暗い水の底から』で映画初出演。『ジョゼと虎と魚たち』『世界の中心で、愛をさけぶ』『いちばんきれいな水』『悪の教典』『生贄のジレンマ』などの映画、NHK連続テレビ小説『風のハルカ』、大河ドラマ『風林火山』、『ゴーイング マイ ホーム』『下町ロケット』などのドラマに出演。近年の作品に『エロい彼氏が私を魅わす』(FOD)、『SUPER RICH』(フジテレビ)、映画『わたし達はおとな』など。
撮影/矢島泰輔
スタイリスト/九(Yolken)
ヘアメイク/木内真奈美(Otie)
衣装協力/RE SYU RYU ジャケット80,000円 パンツ52,000円(税抜)