50年の歴史を誇るスパリゾートハワイアンズ(福島県いわき市)のファイヤーナイフダンスショーとは、両端に火をつけた棒をバトンのように自在に回したり、投げたりする迫力満点のショーです。前半ではその歴史や楽しみ方のコツを聞きました。
【前編:アイドル並みの人気! 裸の男たちが勇敢に炎を操る、ファイヤーナイフダンスショーチーム「Siva Ola(シバオラ)」とは?】
後編も引き続き、日本で唯一のファイヤーナイフダンスチーム「Siva Ola(シバオラ)」の現役ダンサー2名、リーダーのジンLEONさんと最年少のエディ勇人さんにインタビュー。「どうやって練習しているの?」「大変なことは?」など、素朴な疑問をぶつけてみました!
わずか3か月! ステージデビューまでの道のりとは
炎を使うファイヤーナイフダンスショーは、危険と隣り合わせ。万が一に備え、シバオラショーのステージ袖には消火器を持ったスタッフもいる。超人的とも思える技をいったいどうやって習得するのか。
「本番ではナイフに火をつけているのですが、未経験者がいきなりそれをすることはありません。練習では手作りの棒を使います。ホームセンター等で手ごろなサイズの棒を買ってきて、両端にタオルを巻き、ビニールテープを巻けば完成。安全第一の棒です(笑)」(ジンLEONさん)
シバオラに加入してステージデビューまでの期間は人によるが、3か月をひとつの目安にしているという。
「最初はこの技を練習して次はこの技……と、ある程度流れは決まっていますが、基礎ができるようになったら、あとは自分次第。やりたい技をやったり、教えてもらった技を自己流でどんどん進化させたり。私自身はケン青木さん(ハワイアンズでファイヤーナイフダンスを始めた第一人者。前編参照)からすべてを教わり、青木さんの技をベースに自己流に進化させてきました。技の数は無限にあるといえます」(ジンLEONさん)
最近ソロステージデビューをしたエディ勇人さんは、2020年にシバオラに加入。2017年にハワイアンズに入社するも当時シバオラメンバーの募集がなく、約3年間ホテルのウェイターとして働いていた。
「シバオラ加入後、ステージデビューまでの約3か月は、毎日5時間くらいぶっ通しで練習しましたね。火のついた棒を持ったのは練習を始めて1か月後くらいですが、感覚がまったく違いました。ガソリンを含むので重くなるし、火の抵抗のようなものも感じて、慣れるまで大変でした」(エディ勇人さん)
実はシバオラではステージデビューの1~2年後に、もう1度大きなデビューがある。ソロデビューだ。このとき見せるのは、2丁ナイフショー。1丁のナイフよりはるかに難易度が高い2丁のナイフを操る。
「2丁使えて初めてファイヤーナイフダンサーとしては一人前。世界大会にも出られるようになります。1丁から2丁へ増やすときも、ステージデビュー前と同様、安全な手作りの棒で練習します」(ジンLEONさん)
「世界大会の評価は、技の難易度もありますが、表現力、スピード、高さなどが総合的に評価されます。衣装やメイクも審査の対象。衣装は腰に布を巻き、骨やバナナの皮などの首飾りをします。顔にはサモアの戦士のメイクを。衣装は専任の担当者が用意してくれますが、メイクは自分でやります」(ジンLEONさん)
本番は熱くない! 魅力は火を使うからこその「カッコよさ」
実はダンサーたちは腕の毛がない。あまりに炎に近いので、焼けてしまうのだそう。もちろん火に触れたらヤケドもするし、鼻毛が燃えることもあるという。火を扱うからこそ、ショーは過酷。だが、2人がファイヤーナイフダンスに惹かれるのも、火を使うからこそだという。
「やっぱり炎を操るのは、カッコいいし、強く見えると思うんですよね」(ジンLEONさん)
「本当にそう! もちろん、火は熱いし、怖さもあります。でも怖さを消せるのは練習だけ。これだけ練習したから大丈夫、と思えるか。失敗したらどうしよう、と自信がない状態でやると、まず失敗しますね」(エディ勇人さん)
ステージデビュー前の練習でいちばん怖いのは火をつけたときだという。
「今までできた技が、火がついた途端にできなかったりする。火への恐怖を消さないとパフォーマンスはできません」(ジンLEONさん)
ちなみに毎回、火をつけて練習するわけではないそうだ。
「何か新しい技をやりたいときや、ショーが変わるとき、スランプのときなどに火をつけて練習します。でも練習の火は本番より熱く感じるから、あんまりやりたくないんですよ(笑)。やっぱり本番中はアドレナリンが出ているから、火も熱くないし、ぶつけても痛くないんだと思います」(ジンLEONさん)
火の扱い以外で大変なのは、体調管理だと口をそろえる。
「デビュー前は細くて食べても太れなかったのに、今は食べれば簡単に太ってしまう(笑)。やっぱり大変なのは身体づくりですね」(ジンLEONさん)
「僕は食べないとやせてしまうので、意識的に食べるようにしていますが、体型維持も含め、体調管理は大変。ケガや病気をしないのはもちろん、ショーの本番に合わせてコンディションをベストな状態にもっていく必要がある。やはり体調はパフォーマンスに直結しますから」(エディ勇人さん)
特定の大会に合わせてコンディションを整えていくアスリートと違い、ファイヤーナイフダンサーたちは、いわば毎日が本番。圧倒的なプロ意識がなければ続けるのは難しい。
これからもファイヤーナイフダンサーとして生きていく
ジンLEONさんもエディ勇人さんも地元はハワイアンズがある福島県いわき市。ここでファイヤーナイフダンスショーを観て感動して、ダンサーを志したという。
ダンサーとして印象に残っているエピソードを聞くと、ジンLEONさんは東日本大震災を挙げた。
「3月11日はちょうどハワイアンズのお昼のショーが終わって休憩をしていたんですけど。ものすごい揺れでした。その後はお客さんを避難させたり、食事や布団を運んだり。日が変わるころに自宅へ戻りました」(ジンLEONさん)
その後しばらく、ハワイアンズは休業を余儀なくされる。フラガールたちは全国をキャラバンで巡り、踊りを披露したが、火を使うファイヤーナイフダンスショーは危険が伴うため実施できなかった。キャラバンには同行はしたが、フラガールのスーツケース運びなど完全な裏方に徹したという。2011年10月にできた仮設ステージでも火は使えず、ようやくファイヤーナイフダンスショーが再開できたのは2012年2月のこと。
「再びステージに立てたときは、うれしさより安心が先に来ました。このままファイヤーナイフダンスの火が消えてしまうのでは、という不安もどこかにあったので。今は、いろいろなお客さんと会えるのがやりがい。ショーの最中も声は聞こえるので、難易度の高い技を決めて歓声が上がると、心の中で“よしっ”と思いますね」(ジンLEONさん)
エディ勇人さんにとって思い出深いのは、2020年10月のステージデビューの日だという。
「緊張もしましたし、シバオラのファンにちゃんと受け入れてもらえるかという不安もありました。ただ、緊張すると記憶が飛びやすく、正直、当日のパフォーマンス中のことはあんまり覚えていないんですけど(笑)。
やりがいはお客さんの反応を直接見られること。“エディくんを見たから明日の仕事頑張れる”とか“生きる原動力だよ”なんて言ってもらえると、自分の存在意義を感じられて、もうそれだけで満足です。ファイヤーナイフダンサーになりたいと思ったのは、子どものころにショーを観てカッコいいと思ったからですが、今思うと、お客さんが喜んでいる姿に感動していたのもあると思いますね」(エディ勇人さん)
実はエディ勇人さんはインタビューの翌日にソロデビューだったが、すばらしい演技で初舞台を飾った。
「これからもパフォーマンスや技を究めて、観る人を圧倒しつつ、ダンサーとしての人気も欲しい。プロのダンサーとして大成するために、努力を続けたいです」(エディ勇人さん)
すでにリーダーとしてチームを率いるジンLEONさんも、さらに上を目指す。
「後輩には負けたくないから、練習しますよ。世界大会にも3回出場していますが、まだ結果を残せていないので、そこにもチャレンジしていきたい。身体がもつ限り、踊り続けたいですね」(ジンLEONさん)
名物ショーの裏側には、炎に魅了された男たちの日々のひたむきな努力と、たぐいまれなる情熱があった。ショーは毎日、昼と夜の2回行われている。パワフルなパフォーマンスをぜひ一度現地で体験してほしい。
(取材・文/古屋江美子)
☆ファイヤーナイフダンスチーム「Siva Ola(シバオラ)」はショーに毎日出演中!
昼ショー『Kukuna(ククナ)太陽の光』(13:30~)、夜ショー『未来 Hau’Oli(ハウオリ)』(20:35~)ではソロの演技で会場を盛り上げる。夜のショーでは迫力満点な2丁ナイフの演技も。そして、シバオラ単独ショー『THE FIRE』(20:30~)ではチームの力を合わせた群舞の演技を披露。
☆各ショーの詳細や席のご予約はこちらから→https://www.hawaiians.co.jp/show/
ホームページ:https://www.hawaiians.co.jp/sivaola/
シバオラ公式インスタグラム:https://www.instagram.com/sivaola0703/