ガチャガチャこと「カプセルトイ」が熱い。1983年の『キン肉マン消しゴム』を皮切りに定期的なブームを巻き起こしたガチャガチャだが、ここ数年は「第4次ブーム」といわれ、専門店が増えている。今までは“お出かけのついで”だったのに、今は“ガチャガチャを回すため”に外出をする、という時代だ。
あの筐体(きょうたい)が発する魅力は本当に謎だ。「特別欲しいわけじゃないのに、なぜかついつい回しちゃう」という方もいるのではなかろうか。
「何これ最高。くだらなすぎて最高なんだが」と心で爆笑しながら、ついつい100円玉を投入し、品物をカバンにしまう。手に入れた瞬間はうっすら幸福感があるが、帰宅して品物を見ると「コレ……。なんで買ったんやコレ……」とわれに返る。でも行き場がなくて机の上とかに飾っちゃう。で、なんかいつの間にか自宅の風景に溶け込んでいる。
そんなガチャガチャについて、毎日のように発信をしているのが「ガチャガチャサラリーマン」さんだ。SNSの総フォロワー数は47万人以上。彼が投稿するガチャガチャの写真には、可愛らしいものから珍妙な品まで、あらゆる景品が並んでいる。
今回はそんな彼に「ガチャガチャの魅力に気づいたきっかけ」「人がガチャガチャにハマる理由」についてじっくり聞いてみた。
1年半で1000個以上!ららぽーとで衝撃を受け、ガチャガチャにハマる
――個人的にもガチャガチャサラリーマンさんの投稿を見ているんですが、毎日何かしらの景品を投稿されているのがスゴいなと。今までにいくつくらい買ったんですか?
「数えたことはないんですけど、1000個は確実に超えていますね。ガチャガチャを飾るためにいくつも棚を買ったんですけど、もう侵食されすぎて行き場がなくなりつつあり、本気で引っ越しを考えてます」
――(笑)。「ガチャガチャをやりすぎて引っ越し」はヤバすぎますね。いつごろからハマり始めたんですか?
「’21年の4月ごろからですね。いろんな方から”昔から好きなんですか?”と聞かれるんですけど、本格的にハマったのは意外と最近なんですよ」
――ってことは、1年半で1000個以上も回したってことですか……?
「はい、そうなりますね。高校まではたまに回してましたが、そのあとはまったくでした」
――大人になってから、そこまでハマってしまう理由が気になる……。何がきっかけで”ガチャガチャ沼”に足を踏み入れたんですか?
「はっきり覚えてるんですけど、近所のららぽーとに買い物に行ったんですよ。そうしたらガチャガチャ専門店があって、“え、いま専門店あるの?”って衝撃を受けたんです。で、何の気なしに入ったら、蚊取り線香(KINCHO)のパッケージを模したエコバッグがあったんですよ。これが自分としては、すごく驚きましたね」
――どういった部分に驚いたんですか?
「まず“ガチャガチャってこんなに実用的だったっけ?”っていう。自分が子どものときのガチャガチャって、もっとショボかった記憶があるんですよ。そもそもハズレばっかりでしたし、当たりの景品もなんか”ダメージ皆無の警棒”とか”音質ヤバすぎる盗聴器”とか……」
――たしかに! 私は今、三十路ですが、少なくとも私が子どものころは、その日のうちにゴミになってた気がします。
「そうですよね。その点、エコバッグって実用性あるじゃないですか。それと”大人向け”なんですよ。しかも、おもちゃであるガチャガチと、普通の会社がコラボしてる。これは自分が想像していたガチャガチャとは、ちょっとわけが違うぞ、と」
――そう言われると、ガチャガチャの商品っていつの間にか大人向けになってるのかもしれない……。
「専門店にも親子連れの方がいますが、子どもより親御さんのほうが興奮してますからね。私もしっかり蚊取り線香のエコバッグを買いまして。そこからガチャガチャに興味が出てきて、他のガチャガチャも回してみるか、と思ったんですよ」
TikTokでバズったある動画。創作に興味があった子ども時代
――SNSの活動も’21年4月ごろから始めたんでしょうか?
「そうです。もともと前職で雑貨・美容品などの店舗づくりとかポップづくりをしていたんですよ。それが好きだったんで、ガチャガチャの製品をTikTokで魅力的に見せてみよう、と思って、発信し始めました。
そうしたら序盤のほうで『魚ンパクトミラー』っていう魚の骨型のコームを紹介する動画がバズって、一気に5000人くらいフォロワーが増えたんですよね。コームとしては超小さいんですけど、逆に”前髪を直すのに便利”っていう理由で売れたみたいです。私の動画も、特に女子高生の子たちが見てくれましたね。
そこからはあれよあれよという間に、フォロワーさんが増えていって今に至ります。このあたりは前職のころの経験が生きているというか。“どうすれば、商品をよく見せられるか”を考えて発信するのが楽しいです」
――なるほど。ガチャガチャにハマる前から雑貨に対する感性が鋭かったんですね。それは子どものときから? 例えば創作とかしていたんですか?
「たしかに言われてみれば、部活は運動部だったんですけど、小学生のころからよく工作をしていました。超インドア派で、ひとりで木製のピンボール作って遊んだり……。あと高校生のときに、授業で描いた絵がなぜか美術の先生に刺さって、美術部でもないのに文化祭に展示したことがあります」
――すげぇ、ちなみにどんな絵だったんですか?
「いやなんか自分でもよくわからない“顔から花が生えた男”みたいな絵でしたね。なんで評価されたのかがマジでわからない(笑)」
――いやシュールすぎるでしょ(笑)。そのままガチャガチャの景品になってもおかしくないっすよ。
「そうなんですよ。思い返すと、小学生のときからヴィレッジヴァンガードの変な雑貨とか大好きだったんですよね。“何これ意味わかんねぇ。絶対いらねぇだろこれ”って思いながらも、なぜか欲しくなっちゃうっていう感覚は、ガチャガチャに近いものがありますね」
あまりに謎過ぎる「ガチャガチャの世界」
――「絶対いらねぇだろこれ」って気持ち、めっちゃわかります(笑)。やっぱり実用的な商品がある一方で、ガチャガチャ特有のくだらない商品もまだまだあるんですね。
「そうですね。動物モチーフの商品はシュールなのが多いです。例えば『偽サファリ』っていう、黒子(くろこ)の人間が動物の上半身を着てるフィギュアがあるんですけど、マジでどういう気持ちで作ったんだよっていう。
それとネギを入れるためだけに作られた『ネギ袋』とか。これすごく売れたんですよ。どんだけターゲット狭いんだよっていう、この感覚がたまらないんですよね。
あと『マジでピンポンダッシュ』も好きです。インターホンがミニカーの要領で勢いよく走るんですけど……。確かにマジでピンポンダッシュではあるが、それが何なんだよっていう。無駄にカラーバリエーションあるのも腹立ちますね」
――(笑)。
「それと個人的にガチャガチャ界において革命的だったのは『壊して遊ぶ壺マスコット』と『マジで鬼のように割れる瓦』ですね。要するに両方とも”壊して遊ぶ”んですよ。200円払って、1回壊したらもう終わりっていう……。最高に意味不明で興奮しますね。でもこれもすごく売れたんですよ。売れるのがいちばんの謎なんですけど」
――すごいたくさん出てきますね、もう最高です(笑)。でも買っちゃうんですよね。
「そうなんですよ。壊した瞬間は”無の表情”になりますけどね。ただ、くだらなくてもほとんど買ってたんですけど、中にはあまりに理解できなさすぎて買わなかったのもあって……」
――え、何ですか?
「それが『石』っていう。シンプルにリアルな石を再現した個体なんですけど、なぜか小物入れになってるんですよ。筐体のパッケージに“石の中に小物が隠せる⁉”って書いてあるんですけど……いや隠さねぇよ、と。そもそも、どんな場面で石の中に小物を隠すんだよ、と。これはあまりに謎すぎて怖くなっちゃって買わなかったですね。
ちなみに同じシリーズで『かぷせるジャガイモ』もあります。こっちは筐体に“ジャガイモのフタを外すと小物が入っちゃう!?”って書いてあって、石以上に謎のメッセージでした。
でもこういうフレーズに注目しちゃった時点でわれわれの負けなんですよ。まんまと刺さっちゃってるわけですからね。この腹立つ感じが、最高に興奮しますね」
――やっぱり、ガチャガチャサラリーマンさん自身がもともと小物の販売を手がけていたから、製品開発側の視点でも想像できるのが楽しめるポイントなんじゃないですか?
「そうですね。謎な製品を見ると“これ大人が会議して決めたんだろうなぁ”って想像しちゃいますよね。“石、いいんじゃないですか? 小物入れの機能とかどうですか?”みたいな。いやどんな会議?っていう(笑)」
これが東急ハンズにあってもたぶん買わない
――確かにガチャガチャの製品ってすごく面白いですが、そこまでずっと買い続けられるのはそれ自体が才能だと思います。どうしてガチャガチャにここまでハマり続けられるんでしょうか。
「まずやっぱり、ガチャガチャという“ランダム性”が楽しいんだと思います。ガチャガチャの商品が東急ハンズに売ってても、たぶんこんなに買わないです(笑)。
どんなにくだらない商品でも、一応“これが出てほしい”っていう希望があって、外れるとなんとなく悔しいですし、希望どおりだったらなんとなく嬉しいですね。あくまでガチャガチャは雑貨店ではない。個人的には“テーマパーク”なのかな、と」
――テーマパーク……。な、なるほど……。
「それと単純に“飽きない”という部分はあります。ガチャガチャの新商品リリースのサイクルって、想像よりも早いんですよ。一度、各メーカーのInstagramの投稿を確認したことがあるんですが、月に300種類以上は商品が出ていました。’22年11月時点で来年2月まで新商品のラインアップが出てるくらい、新陳代謝がいいんです」
――そんなにサイクルが早いんですね! 次々に売れ筋商品が出てきそう。
「そうですね。ブームの移り変わりに注目するのも、ハマり続けられるポイントだと思います。最近だと“コアラのマーチ型リング”“ピュレグミ型リング”“おにぎりん具”みたいな、アクセサリー系の商品がすごく人気でしたね。
それで新商品をチェックしていくと、メーカーごとに商品の特徴が違うことに気づくんですよ。個人的にはTAMA-KYUさんの商品が好きですね。毎回攻めたラインアップを発表するんで、売り場で見かけたら“まーた、わけわかんないの作ったなぁ”ってテンション上がりますね」
――メーカーにハマると、もうガチ勢ですね(笑)。
「毎回こっちの想像を超えてくるレベルの”謎商品”を作るので本当に脱帽ですよ。メーカーさんが尖(とが)り続けているから、ハマり続けられるのは間違いないですね。
今後は私も自分で商品を作ってみたいな、と思っています。今までは買うことで楽しんでいましたが、売る側の面白みも体感してみたいです。わけがわからない商品を作って、それを買う人を見ながらニヤニヤしたいな、と(笑)」
“不必要”を愛せるというすばらしさ
ガチャガチャの景品ほどユーモアにあふれたモノは、他にないのではなかろうか。なんてったって要らないものが多い。しかし「こんなくだらないもの、誰が買うんだよ(笑)」と心で爆笑しながら、100円を投入するという謎のパラドックスに陥ってしまう。
ひと言でいうと、ガチャガチャには「無駄」が詰まっている。「そんなわけのわからないモノを買うなんて、非効率的じゃないか」と思う方もいるかもしれない。しかし個人的には「不必要なものに情熱を注ぐ」という行為にこそ、真の豊かさがあるのだと思った。
だからこそガチャガチャをはじめ「つい無駄なものを買って部屋を散らかしてしまう方」は、反省する必要なんかない。むしろ「今日も余裕で生きてるぜ」と自分をほめてあげるべきだ。
インタビュー中、ガチャガチャサラリーマンさんは「ガチャガチャでこんな盛り上がれるなんて、ほんっと平和ですよね」と笑っていた。その余裕あふれる姿勢にこそ、彼の魅力が詰まっている。
(取材・文/ジュウ・ショ 編集/FM中西)