今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では1980年代をメインに活動した歌手・アイドルの『Spotify』(2022年12月末時点で4億3300人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去・現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、本人または昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていく。
今回も、早見優のSpotifyでの人気曲を本人とともに振り返っていく。インタビュー第1弾は、シングルB面曲だった「緑色のラグーン」など、人気の高い筒美京平ポップスを中心に、第2弾では、国内外のデュエット曲や1stアルバム『AND I LOVE YOU』、そして意外な順位を獲得したシングル曲について語ってもらった。最終回となる第3弾では、アルバム収録曲や40周年記念アルバム『Affection』の魅力にも迫ってもらうが、その前に、同期や先輩歌手との交流について語ってもらった。特に、早見がデビューした1982年は、松本伊代、堀ちえみ、小泉今日子、石川秀美、中森明菜、シブがき隊と、早見を含めブレイクを経験したアイドルが多く、“花の82年組“と呼ばれるほどだ。
同期はもちろん、先輩・後輩とも仲よし。大ファンの西城秀樹さんとは共演多数!
「同期の方たちとは今も仲よしですよ! 当時からずっと仲がいいっていうのは、たぶん年齢が近いからでしょうね。40年間も仲間がいるというのはとてもうれしいですし、当時、交流が深かった石川秀美ちゃんが’90年に引退したあとも、(秀美の夫である)薬丸裕英さんを通して今もいい関係が続いているというのは、やっぱり同期だからなんだなって。後輩では、ドラマ『キャッツ・アイ』(’88年)で共演した立花理佐ちゃんや、事務所の後輩だった岡田有希子ちゃんと仲よしでした」
また、距離が近かった先輩としては、共演することが多く、優しくしてもらった河合奈保子のほか、早見が大ファンという歌手の話で、明らかにスイッチが入った(笑)。
「西城秀樹さんは『キャッツ・アイ』でも共演しましたが、そのずっと前から私が大ファンなんです!! ’80年代は音楽番組『夜のヒットスタジオ』でも同じ回に出演していたり、その後も、NHKの『青春のポップス』の司会とアシスタントとしてご一緒したり(早見は’99年~’00年を担当)、秀樹さんとの共演はすごく多かったんですよ。……単に私がファンだから、そう思っているだけかもしれませんが(笑)。
秀樹さんは、本当にカッコよくて、歌もお上手で、私がよくリハーサルの様子を見学していたら、こちらに向かって決めポーズをしてくださるんですね。森口博子ちゃんもよく一緒に見ていたのですが、ふたりして“今のは、ヒデキが私のためにやってくれたんだわ”、“いやいや、私のためよ!”と言い合っていました(笑)。私がいちばん好きな秀樹さんの歌は『南十字星』ですね。『ギャランドゥ』もカッコよくて好きです」
『LANAI』の名づけ親は早見自身。ランクインして特にうれしかった曲は?
では、ここからはSpotify第17位から大量にランクインしているアルバム収録曲について語ってもらおう。多くのアーティストの場合、1、2枚のアルバムの中に人気曲が偏る傾向にあるが、早見の場合は、前回語ってもらったデビュー・アルバムの『AND I LOVE YOU』以外にも、早見の最大ヒットアルバム(オリコン最高5位、累計売上約10.2万枚)である『LANAI』から、オリコンTOP100にはチャートインしなかった『Moments』まで、当時のセールスとは関係なく、ほぼまんべんなく聴かれている。これも、早見優の作品だからこそ信頼して聴くリスナーが多いという何よりの証拠だろう。
「『LANAI』からは『Rainy Boy』(第17位)も入っていることが、めちゃくちゃうれしいです! このアルバムのタイトルを考える際、収録された4曲を提供してくださった筒美京平先生が“自由につけていいよ”ってディレクターさんにおっしゃったんです。それで、ハワイというコンセプトがあったので、私がラナイ島から“LANAI”とタイトルをつけた思い出がありますね」
『LANAI』は、シングル「夏色のナンシー」がヒットしていた’83年の初夏に発売され、陽気なサウンドや歌声が魅力的だ。『LANAI』同様に人気曲が多いのが、同年末に発売されたアルバム『COLORFUL BOX』。こちらは、レコーディングの際にのどの調子が最悪だったそうで、’12年の30周年BOXのインタビュー時にも“最もやり直したい作品”と本人が語るほどだった。ただ、力んだ歌唱が少ないことや、冬の発売ということもあってか、夜や宇宙を感じさせる内容となっている。
「確かに、23位の『AZIES』は “SEIZA”の逆読みなので、間違いなくスペイシー路線ですね(笑)」
第24位の「ダウンタウン・チャーミング」は’86年のアルバム『Burning illusion』に収録。当時、“学園祭クイーン”と呼ばれた白井貴子が作曲を手がけただけあって疾走感が心地よい。
「これは、“ライブでもっと盛り上がれる楽曲が欲しい”と思って作ったアルバムですね。ほかにライブと言えば、第30位の『Mr.J』! これは、最近聴き返していて、好きな曲だな、今度ライブで歌ってみたいな、と思っていたところなので、この順位にランクインしていて、とてもうれしいです」
収録されているアルバム『Shadows of the knight』からは’86年当時、辻仁成作詞・作曲の「風になれ」や佐野元春作詞・作曲の「彼はデリケート」がテレビなどで披露されていた気がするが、今、ストリーミングサービスで最も聴かれているのが、このミディアム調のロックンロール。そして、それを偶然にも早見が“最近、あらためて聴いて好きな曲”と言い、ここでもその感性の鋭さに改めて驚かされる。
そして、さらに本人が喜んだのが、’88年のアルバム『Moments』から3曲もTOP50に入っている点だ。
「当時、“もう歌は売れないからアルバムは作れないよ”と宣告を受けていたんですよ。だから、こうして今でも聴いていただけているのは、すっごく幸せです! このころ、ようやくアーティストとして、レコーディングの進め方と自分の声の出し方が一致したんですよ。“遅いぞっ!”って(笑)。中でも、バラードの『BEYOND THE WORDS』は作詞家の吉元由美さんと四谷の喫茶店で直接打ち合わせをして作っていただいたので、特に思い出深いですね」
もっと聴かれてほしい曲を熱弁! 本田美奈子.からの想いを継いだ大切な作品も
こんな風に、さまざまな作家から提供された楽曲が上位入りしている一方で、近年サブスクなどでも大人気の林哲司から提供された2曲、「Me☆セーラーマン」は第27位、「ペンギン・ロコモーション」は第55位とさほど目立っていないのも、ある意味珍しい。
「林哲司さんが杏里さんに提供されたような大人っぽい雰囲気の楽曲が好きで、私も歌いたいとディレクターさんにお願いしたら、私にはちょっと可愛い曲をいただいて……たぶん、ディレクターさんの発注の仕方が私の予想とは違っていたのかもしれませんね」
逆に、もっと上位になってほしい曲を尋ねてみたところ、
「第38位の『XANADU』はもっと上位でもおかしくないですね。これもいい歌だから気づいてほしい!」
ちなみに、本作は’85年のシングル「PASSION」のB面曲で、こちらもA面同様に中原めいこが作詞・作曲を担当。夏の恋の駆け引きがテーマとなったサンバ調の楽曲で、ファン投票をもとにした早見の35周年記念ベスト『Celebration』にも収録されているので、コアなファンにはすでに人気のようだ。そして、もう1曲どうしても聴いてほしい曲として、
「このTOP100には入っていませんが、 ’92年のシングル『ほほ笑みあえる』のカップリング曲『眠れる森の美女』も40周年ベスト盤に入れたかったほど大好きなんですよ~。なので、これも聴いてください!」
と本人の推薦があった。
こちらは作家の氷室冴子が作詞を手がけ、今井美樹への提供作でヒット作の多いシンガーソングライターの上田知華が作曲を手がけた、クールで幻想的なナンバー。早見のかなり抑えたボーカルも、この後に歌うようになったジャズ・ナンバーに通じるものがある。
なお、’21年に配信された、Yu Hayami・Yoshiko Hanzaki with Love Earth Project名義で配信限定にてリリースされた「Dear Earth」は94位にランクイン。ほかの曲より集計期間が短い分、今後さらに伸びる可能性がある。
「(白血病で亡くなった歌手の)本田美奈子.ちゃんの生前の想いを受け、難病の方々を支援してきたチャリティ・コンサート『LIVE FOR LIFE 音楽彩』というのがあって、私が司会をさせていただいてるんですね。そのテーマ曲を作ろうということで、美奈子ちゃんが残してくれた散文をもとに、半崎美子さんが曲を作ってくださることにになり、私が英詞を担当しました。この歌が入っているのもうれしいです。メッセージ性がありますし、大切に歌っていきたい楽曲です」
最新アルバム収録の新曲3曲、それぞれの思い出は? 2023年はコンサートに意欲
ここからは「Dear Earth~Affection mix~」も収録されている40周年記念アルバム『Affection ~YU HAYAMI 40thAnniversary Collection~』を紹介したい。本作は、これまで発売された7インチシングルのA面30曲に、近年のアルバム収録曲やレア・トラック、さらには早見にゆかりのある人たちとともに作り上げた新曲3曲が収録されている。
新曲について、まずは早見優、松本伊代、森口博子の3人で歌った明るい王道のアイドルポップス「今が一番好き」から語ってもらった。
「新曲は、いずれも川原伸司さんがプロデュースしてくださいました。『今が一番好き』を3人で歌ったのも川原さんのアイデアで、ビクターにいらしたときに、ディレクターを担当していたThe Good-Byeの野村義男さんに歌詞を書いてもらえました。伊代ちゃんと博子ちゃんとはもう10年近く全国のライブ会場を回っていますね。3人の仲のよさは客席からもよくわかるようで、お客様からは“みんな、すごく若返った!”と言ってもらえます。なので、博子ちゃんが、“自称・若返るコンサートですから”ってMCで言うくらいなんです(笑)。
博子ちゃんは3年後輩ですが、『青春のポップス』あたりから共演が増えました。最初に3人が共演したのは、たまたま(イベント出演などの)営業活動が一緒になったからで、そこから回を重ねるたびに息がピッタリになりました。いつも、“練習しましょうよ、先輩!”と博子ちゃんが声をかけてくれて、伊代ちゃんと私がスタジオを予約してLINEで連絡し合うといったことが、とても自然にできる仲なんです」
また、「make lemonade」は早見と、早見の2人のお嬢さんとのコラボ曲で、3人が気負わず穏やかに歌っているのが印象的だ。
「『Dear Earth』の英語バージョンの仮歌を私の声で録る際、半崎さんのキーがとても高くて不安だったので、川原さんの了解を得たうえで、海外にいる娘たちにリモートで歌ってもらったデータをミックスしたんですよ。そうしたら川原さんがとても気に入ってくださって、親子3人の新曲を提案してくださったんですね。
長女のありさは小さいころから歌が大好きで、Spotifyでも楽曲を発表しているほど。次女のかれんは今回が初めてですが、作詞の共同作業も含め、とても楽しくできました!」
作詞は、歌唱同様に“早見優/ありさ/かれん”名義となっているが、英語フレーズが多いのに加え、「懐かしいne」「ひとりじゃないんda」など、日本語の語尾に遊び心が添えられているのもほほえましい。
「最初は、“英語曲を歌ってみては?”と提案されたのですが、私たちは日常的に日本語と英語をミックスして会話をしているので、その感覚で書いたら、こんな風になりました。語尾の“ne”や“da”は可愛い感じにしたかったんですね」
確かに、このほうが“make lemonade”ということわざの意味、“よくない状況下でもポジティブなことを見い出す”のとおり、よりリラックスした気持ちが伝わってくる。
そして、もうひとつの新曲「Your Last Woman」は、親友のアン・ルイスによる作詞(Annie名義)、彼女の息子である美勇士による作曲の落ち着いたラブ・バラードだ。
「実は、アンには2回断られているんです。“何も思いつかない”って言われたのですが、“今(概要を)しゃべったから、もう思いつくでしょ?”って再度お願いしたら、2週間後にすてきな歌詞が送られてきました。アンとは、ロスに行くたびに必ず会いますね。初対面のデビュー当時、アンは大先輩なのでかしこまって話をしていたんですが、“そんなの抜きで仲よくなろうよ!”って、アンのほうから言ってくれたのがきっかけです。あるときアンに、ロック系の歌を歌いたいって相談したら、“そういうことは、ちゃんとディレクターさんに伝えたほうがいいよ“って背中を押してくれました」
そうして当時、アン・ルイスの楽曲をカバーして発売したのが’85年のシングル「Tonight」で、その後、何度かの再ブレイクを果たしている。最後に、今後の活動の予定について語ってもらった。
「実は昨年、契約の関係で一時期、私の楽曲がSpotifyから一斉に消えてしまったときに、海外のリスナーの方が何十人も“何かあったの?“って、メッセージをくださって。“ああ、ちゃんと聴いてくださっているんだ”って、とてもうれしかったんです。ストリーミングサービスやSNSのおかげで、ファンの方との距離が近くなりましたよね。
今年は、『夏色のナンシー』の発売から40年なので、コンサートを積極的にやっていきたいです。昨年できなかった、デビュー40周年のコンサートもぜひ! ここでのSpotifyでの上位曲を歌えたら面白そうですね!」
早見優について、“花の82年組アイドル”、“バイリンガル・タレント”といった、華やかでスマートなイメージを持つ人も多いことだろう。それはある意味正しいのだが、実際には音楽活動において何度かの紆余曲折があり、その時々において新たな路線に懸命にトライしてきたことが、この楽曲リストからもよくわかる。彼女の楽曲を聴いてみれば、“こんなに歌がうまかったっけ?”、“こういう歌も歌えるんだ!”と驚く人も多いことだろう。リアルタイムで「夏色のナンシー」を聞いていた世代の方々にも今一度、彼女の歌を聴いてもらいたい。あなたの中の何かが変わるはずだ。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
早見優(はやみ・ゆう) ◎日本生まれ。3歳から14歳までグアム、ハワイで過ごす。14歳でスカウトされ、’82年「急いで!初恋」で歌手デビュー。「夏色のナンシー」「PASSION」などのヒット曲がある。上智大学比較文化学部日本文化学科卒業。特有の国際感覚とバイリンガルを生かし幅広く活躍。’18年にはデビュー35周年記念ベストアルバム「Celebration」を、’22年にはデビュー40周年記念ベストアルバム「Affection」を発売。現在、NHK WORLD「Dining with the Chef」 、NHK ラジオ「深夜便ビギナーズ」にレギュラー出演中のほか、JCV(世界のこどもにワクチンを日本委員会)のスペシャルサポーターとしても活動している。
【CD】Affection〜YU HAYAMI 40thAnniversary Collection〜
デビュー40周年を迎える早見優のアニバーサリーアイテム第3弾。40年のヒストリーを感じさせる輝かしい代表曲の数々、今回初CD化のレア曲、そして新曲3曲までを網羅した41曲、3CDアルバム! 定価6600円(税込)
◎早見優オフィシャルサイト→https://www.yu-hayami.com/
◎公式Blog→https://ameblo.jp/hayami-yu/
◎公式Instagram→https://www.instagram.com/yuyuhayami/?hl=ja