インターネットの掲示板「2ちゃんねる」への書き込みを題材にしたラブストーリー『電車男』が大ブームになった、2000年代前半の「メイドカフェ」といえば、シャツをインしてリュックサックを背負った古きよきオタクたちが、ちょっとはにかみながらメイドさんとおしゃべりする場所だった。
あれから15年、今では「コンカフェ」(コンセプトカフェ。特定のテーマを取り入れ全面に押し出すことで、他店との差別化が図られたカフェ)という言葉が生まれ、「メイドさん」という言葉では収まらないほどの多種多様なお店が誕生している。客層も変わり、お店によっては『三代目J SOUL BROTHERS』ばりのサングラス&ツーブロック男子が集う店があったりもする。
秋葉原はここ数年、賛否両論の“メイドカフェ・コンカフェ論争”が続いているそうだ。そんな現状について、メイドカフェ黎明期から通い続けている「コンカフェ研究家」のふゅーちゃーさんに、興隆の歴史や「今のコンカフェの楽しみ方」についてお話を伺った。
【ふゅーちゃーさんが“コンカフェ沼”にハマったきっかけや、メイドカフェ黎明期についてのお話は第1弾で詳しくお聞きしました→「ネットとメイドカフェって似てる」100店舗以上回ったふゅーちゃーさんが語る“コンカフェ20年史”が面白すぎた】
まさかの「秋葉原より歌舞伎町のほうが安全かも」
──最近のメイドカフェやコンカフェはかなり多様化が進んでいますよね。『電車男』の時代は「オタクっぽいお店」というか、メイドさんしかいなかった。でも、最近だとお店によって、コンセプトも雰囲気も多種多様というか。
「そうですね。秋葉原では“メイドカフェ・コンカフェ論争”が続いています。いわゆる“昔ながらのメイドカフェ”は少なくなってきて、その代わりに、ぱっと見はイケイケのガールズバーのような、“キラキラ系コンカフェ”が次々にオープンしています」
──業界がだんだん変わってきている。
「ただ、これってメイドカフェ業界というより、“秋葉原という街自体が変わった”と思うんですよ。『Windows95』が出たくらいの時期は、サブカルチックな“パソコン街”だった。それから2000年代に入って“萌えの街”になった。当時のメイドカフェはオタクたちにとって、自分たちのヲタ活を許容してくれる“避難場所”だったと思うんですよね。
それから現在にかけて、秋葉原は再開発が進んで地価も高まった。すると一部のマニアからしか愛されない“オタク向けの店”は淘汰されます。だからメイドカフェに限らず、秋葉原のお店は必然的に“大衆受けする業態”にならざるを得ない。その流れの一環としてメイドカフェが減って、“キラキラ系コンカフェ”が増えたんじゃないかな」
──なるほど。決してメイドカフェに限った話じゃないんですね。
「はい。あくまで僕の考えですけどね。だから古参アキバ勢のなかには、“昔のメイドカフェと今のキラキラ系コンカフェを一緒にするなよ”って思っている人もいるんです。でも実際、炎上覚悟で言っちゃうと、もう“あのころのアキバは死んだ”と思っています」
──アキバは生まれ変わりつつある、と。
「そうですね。とはいえ、秋葉原って観光客からしたら、まだまだ“メイドカフェの聖地”です。何も知識がない人からしたら行きたくなると思うんですよ。それで何の気なしに呼び込みについていっちゃうお客さんもいる。“ザ・メイドカフェを期待して行った、想像と違うイケイケできらびやかなコンカフェだった”みたいなことが起こるんですよね」
──そう言われると、ちょっと怖いかも。
「そう。だから同じコンカフェが多いエリアでいったら、歌舞伎町のほうがトラブルは少ないですよ。秋葉原と違って歌舞伎町のコンカフェ勢は、前提として“SNSで見つけた可愛いキャストに会いたい”という強い目的があるんですよね。そのぶん、SNSでの競争も激しいので、結果的にフォロワーを獲得できる信用される店しか生き残らないっていう。
実際、キャストの子も、“秋葉原より歌舞伎町のほうが新規を獲れないんだよね”って言っています」
──だから秋葉原ではあんなにも大量のキャストが店前で呼び込みをしてるのか……。一方で歌舞伎町では、SNS上での競争も激しくなってるんですね。
「いやもうSNSは激化してますね。お客さんはみんなSNSで目当てのキャストさんを見つけて来るから、いくら可愛くてもフォロワーがいないとお客さんが来ないんですよ。歌舞伎町はすげぇなぁって(笑)」
──なるほど〜。
「さらに言うと、お客さんってお店じゃなくて“キャストのファン”というケースが多いんですよね。だからインフルエンサーのキャストは転生(※1)しても前世(※2)のお客さんを連れてきてくれるわけです。つまり、やっぱりフォロワー数によってキャストとしての価値が大きく左右される。だからみんなフォロワーを増やすことに躍起になるんですよね。
とはいえ、オタクの総数は決まってるんで、ちょっともう“奪い合い”みたいになっちゃって、SNSに過激な投稿をする子もいます。無理しないでほしいんですけどね……」
(※1 キャストがほかの店に移籍することを「転生」という)
(※2 キャストが前に勤めていた店のことを「前世」という)
キラキラコンカフェ嬢もいれば、サブカルオタクも
──令和のコンカフェは、ただ可愛いだけじゃダメなんだ……。
「そうですね。コンカフェ界隈では、“キラキラコンカフェ嬢”って言葉が、もうずっとホットワードです。もはやキラキラっていうか“ギラッギラッ”なんですけど(笑)。
歌舞伎町の『Bar Chainon(シェノン)』でキャストを務めている岩瀬唯奈さんが、“コンカフェ嬢”っていう言葉とともにシャンパンタワーの画像とかをSNSに上げ始めたのがきっかけだと思うんですけど。それで、“私もキラキラコンカフェ嬢になりたい”っていうキャストさんは増えていますね。
……とはいっても、この前、渋谷のコンカフェでドリンクを頼んだとき、“おいしくな~れ、森鴎外♪”(※)って魔法かけてくれる、サブカルなオタクっぽい子もいましたけど(笑)」
(※メイドカフェの決め台詞のひとつ。有名なものでは、メニューを頼んだときに「おいしくな〜れ、萌え萌えきゅん♪」というフレーズがある)
──(笑)。
「“なにそれ、斬新なんだけど”って返したら、“三島由紀夫のほうがよかった?”って(笑)」
──そういう問題じゃない(笑)。
「だから全員が全員、キラキラコンカフェ嬢を目指しているわけではないんですよね。令和でも“森鴎外♪”って言ってくれる子もいる」
──単純にお店のコンセプトが多様化しているんですね。
「そうなんですよね。だから簡単に“昔ながらのメイドカフェ”と“新興キラキラコンカフェ”みたいに二分できないと思います。
そういった点で最近おもしろいなと思ったのが、秋葉原の『OVERTURE(通称:おばちゅ)』というお店です。一見、キラキラ系なんですよ。店内の壁にはずら~っとシャンパンが並んでいて、最初はちょっとビビる(笑)。
でも、メニューにキャストドリンク(キャストにごちそうするための飲み物)はないし、シャンパンも入れられるけど、お手ごろなものが2種類しかない。キャバクラみたいに“恋愛”を感じさせるような接客もしない。で、見ているとお客さん同士がTwitter上で仲よく交流している。
つまりソフトとしては、アットホームな“昔ながらのメイドカフェの雰囲気”なんですよね。こうした新旧のよさを合わせ持つお店も出てきています」
推しを見つけたい人は「まずは5店舗」行ってほしい
──もうなんか、コンカフェ業界全体がカオスですよね。
「そう。初めてコンカフェに行く人から、“わかりやすくカテゴライズしてほしい”とメッセージをもらうことが多いので、私もいろいろ考えたんですよ。例えば、“シャンパンあるかどうか”とか、“風営法を取っているか”とか。でも、『OVERTURE』みたいなお店もあるし、そんな一概には“コンカフェ”っていうくくりでまとめるのって難しいんじゃないかな、って思いますね」
──なるほど。もうそれぞれのよさがある、と。多様化が進んでいる状況については、どうお考えですか?
「“うちの店はコンカフェです”って自己申告しているお店は、あるがままを許容して、“よし、行ってみよう”って思うことにしています。これは僕のポリシーですね。僕はやっぱりメイドカフェ・コンカフェの“進化”を見るのが好きなので、今の状況を楽しみたい、と」
──排他的でないところが、すごくすてきです。「コンカフェに行ってみたいけど、ちょっと怖そう」と考えている方にコンカフェ研究家としてアドバイスをするなら?
「まずは5店舗まわってください。本当にお店によって業態も接客も多様化しているので、1店舗だけ行って“なんか違うな”と諦めないでほしい(笑)。5店舗行ったら、きっと推しが見つかるはずですから」
変化を「進化」ととらえる、柔軟な“オタク力”
取材にあたって、秋葉原や歌舞伎町のコンカフェを10店舗ほど回ってみたら、これがマジでとんでもなく楽しかった。何の気なしに「いつから働いてるんですか?」って聞いたら、お店のコンセプトに合わせて「え~っと……3000年前です♪」とか返ってくる。「(え、なにこの生き物、超可愛いんですけど〜)」って思いながら「長寿〜! 大先輩~!」と世界観に没入してしまう。
それで完全に別世界に入っているうちに、自分の頭がちゃんとバカになってくる。もう現実のことなど忘れて脳死状態で「可愛い!」を連呼していたら、あっという間に1時間経つ。店を出たあとに「あ、そうか。ここ秋葉原……か……」と謎の喪失感でいっぱいになる。これは推しが出てるアニメを見終わったときの感覚に近い。
つまり、店内での時間は三次元とは完全に隔離されているので、そりゃもう恋愛感情など起こるはずもない。「はい最高でした。もう推します。ありがとうございまーす」という固い意志だけが残るのだ。色恋の空気が生まれがちな“夜のお店”に比べると、裏表のないむちゃくちゃ健康な感覚だ。そして、お財布にも優しい。
ふゅーちゃーさんが言うように、コンカフェは多様化している。お店によって雰囲気もコンセプトもばらばらだ。ついマウントを取りたくなる古参ヲタとしては「変化」を斜に構えて見てしまうこともあるだろう。しかし、その状況を「進化」ととらえて面白がること。そこに彼の「オタク力」がある。ふゅーちゃーさんは考えが柔軟だからこそ、ひとつのことを長年にわたって楽しめるのだろう。
ふゅーちゃーさんは「初心者の方にはどんどん質問してほしい。自分が推しているお店と、その方のニーズが合致したとき、うれしくなる」と笑う。「気になるけど、ちょっと怖い」と思っている方は、安心して楽しむためにも識者に質問をしたうえで、数店舗回ってみてはいかがだろうか。
(取材・文/ジュウ・ショ)
ふゅーちゃーさんのTwitterアカウント→@FutureX01
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