大人気のブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』で、’16年の初演、’19年の再演に続いて3度目の主演を務める、俳優・小池徹平さん。
インタビュー第1弾では、出演を決めるまでの葛藤や、前回まで、ともに主演した三浦春馬さん、今回から三浦さんが演じた役を引き継ぐ城田優さんへの熱い気持ちを語っていただきました(記事→小池徹平、『キンキーブーツ』3度目主演は「深く悩みました」それでも踏み出した理由と旧友・城田優への“思い”)。第2弾では、お芝居の世界にのめり込んだきっかけや、今回の舞台にかける意気込みをお聞きします!
城田優らとともに「春馬に“俺も出たかったな”と思わせる舞台を作りたい」
『キンキーブーツ』で僕が演じる主人公・チャーリーは、倒産しかけているイギリスの靴工場「プライス&サン」のオーナーです。ロンドンで出会い、最初は仲たがいしていたドラァグクイーンのローラから、紳士用フォーマル靴の製造をやめてドラァグクイーン用のセクシーなブーツの製造へ移行するアイデアを得て、ふたりで協力し合いながら靴工場を再建していきます。
チャーリーは保守的な人間ですが、温かい心の持ち主で人情家。ただ、自分の胸の内ときちんと向き合ったことがない、子どもっぽい人間です。窮地に立たされたとき、ローラに出会ったことによって新しい打開策を見つけ、どんどん刺激を受けて変わっていく。意見の違う相手を受け入れることで、人間として成長していく姿が魅力的です。もちろん、目立つ役はローラなのですが、この作品の主軸、ストーリーを進めていく上で欠かせない役がチャーリーという人物なので、屋台骨でもあります。
役作りは前回までと変えるつもりはありませんが、春馬(三浦春馬さん)に代わって今回からローラ役を務める(城田)優の出方しだいで、自分の表現方法がどんなふうに変わっていくかは予測がつかないです。圧倒的な存在感でキラキラしている、そんなローラを演じてくれるのは確かですが、優の作るローラがどんな方向性でくるのか、今から楽しみで仕方ないですね。
これまでに再演の経験はあるのですが、 同じ作品で3回目の上演を迎えるのは初めてになります。過去2回演じてみて、自分の中でチャーリーという人物像がきちんと消化されてきたと感じてはいますが、改めて台本を読むと、印象が変わった部分もあります。
『キンキーブーツ』は、ブロードウェイをはじめ、世界中で何度も上演されている人気作品ですから、すでに完成された舞台です。世界共通の脚本があり、役者が同じ動きをする。それを受け入れながらも、自分だけの表現方法を探っていかなければなりません。
「こういう動きをしたら面白そうだな」「言い方を変えたらウケるかな」
と思いつくまま、さまざまな表現を自分の中で昇華させながらクオリティーの高いものを作っていく過程は、役者として、いちばんやりがいのある作業かもしれません。
それから、3度目となると、やはりお客さまからの期待値も上がっていると思います。コロナ禍でお客さまが感情をなかなか表に出せないという状況でもあるので、今までやってきた舞台とは、客席のテンションも異なるものになるでしょう。
初演、2回目の再演でローラ役を演じた春馬が不在となり、それでも「やっぱり最高のチームだね」と評価されなければならない。そうでないと春馬も納得しないだろうし、春馬に「いいなぁ、俺も出たかったな」と思わせるぐらいのものを作らなければならない。そうなるように、主演3回目の僕が引っ張っていかなければなりません。
将来の目標を見失ったとき、宮本亞門のミュージカルと出会い日々が激変
今はこんな感じでどっぷり芝居に浸っているのですが、実は、役者をめざして芸能界に入ろうとは思ったことはなく、どちらかというと目立つのが嫌いなタイプだったんです。人前で演じるなんて、考えたこともなかったですね。
高校1年のとき、地元の大阪で映画のオーディションがあり、親から「受けてみたら」と言われて何の気なしに行ってみたんです。会場に着いたら僕以外は、本気で映画に出たい人ばかりが集まっている。同年代の子たちが、芸能界に入りたいと頑張っている。そんな、やる気に満ちた熱い雰囲気の中に突然入って、周囲の必死な姿にとんでもなく衝撃と刺激を受けました。「こんなふうに自己表現ができるってすごいな」と圧倒されるとともに、「そういえば、これまで“何かになりたい”と考えたこともなかったな」と気づかされたんです。
自分は、「自己紹介してください」と審査員の方に言われても、前の人たちのマネをするのが精一杯。「これは落ちたな」と思っていたところ、なんとトントン拍子に3次審査まで進み、大阪最終審査の7人に選ばれたんです。後日、東京で最終審査があったのですが、「ここまで3回も通ったんだから、もしかしてこの業界に向いているのでは」とワクワク感を抑えられませんでした。芸能界への入口を間近に感じてしまったことで、「これはチャンスだ」と本気で東京のオーディションに臨んだのですが結局、落ちてしまって。これほどの挫折感は初めてでした。
その悔しさが忘れられなくて、「芸能界になんとしても入りたい」と思いが募り、登竜門である『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリに選ばれたんです。音楽が好きだったので、「大勢の前で歌えたら」と未来を描きました。事務所からは「役者もやってみれば」と言われて勉強させていただいているうちに、どんどんその面白さにのめりこんでいきました。
20代半ばぐらいまで、映画もドラマも歌も経験させてもらって、目まぐるしく日々が過ぎていったのですが、それがいったん落ち着いて時間ができたとき、気づいたら将来の目標が見えなくなっていたんです。そんな苦境をどうしたら抜け出せるのか、もがき続けていました。
そんなころ、舞台との出会いをきっかけに転機が訪れました。’12年に初めてストレートプレイ(セリフに歌唱を含まない、ミュージカルやオペラ以外の一般的な演劇)に出演できて、芝居の面白さを知ったんです。その後、宮本亞門さんの舞台『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(’13年)を皮切りにミュージカルの舞台に立つ機会にもめぐまれ、「自分をもっと磨かなくては、洗練させていかなければ」と、スキルアップの必要性を痛感しました。
初ミュージカルは、何もわからず飛び込んでいき、ゼロから学ばせていただきましたね。たまたま『メリリー・ウィー・ロール・アロング』は20代の出演者ばかりで、同世代の役者たちが切磋琢磨していた現場だったので、とんでもなく刺激を受けたんです。「いちばん何もできないのが自分だな」と、不甲斐なさにかなり落ち込みました。
でも、自分に足りないものを探して這い上がっていくしかない、と奮起し、そこからはひたすら、研究と練習に励む日々。「自分を鍛えるための場所を見つけることができた、自分がやりたいことはこれだったんだ!」と、新天地でたどり着いた最高の着地点でした。
その後もさまざまなミュージカルを経験するなかで、大きな転機となったのは’16年の『1789 -バスティーユの恋人たち- 』でした。ミュージカルの殿堂・帝国劇場で上演される大作で、初めて主演として抜てきしていただいたんです。フランス革命のなかで繰り広げられる恋愛物語で、伝統ある劇場や、その時代の世界観を大切にしなければならない大舞台。全力で演じたところ、同年に主演を務めた『キンキーブーツ』(初演)とともに『菊田一夫演劇賞』もいただけて、信じられない経験でした。
最高の仲間たちと「新たな道を切り拓いていきたい」と気合い十分!
今回の『キンキーブーツ』は初演時、2回目の再演時にも共演したメンバーがほとんどです。3回目を上演するにあたってどんなことを伝えたいか、演者それぞれ思いは違うかもしれませんが、顔合わせで集まって初めて意見をぶつけ合ったときに、みんなの思いを聞いて「なんて温かくて、家族みたいな仲間なんだろう」と感激しました。
春馬がいない中で、また上演していいものだろうか。できるのだろうか。 3回目の上演をするうえで、たくさん葛藤はあったけれど、やっぱり「その一歩を踏み出してよかった」。みんなでその思いをシェアできたことがうれしかったですね。どこかでくすぶっていた火が、ジワジワと暖かくなっていったような感覚でした。一気に燃えるというより、ジワジワとなんです。
それに、僕たちのそばには、みんなをまとめ、包み込んでくれる日本版演出協力の岸谷五朗さんも寄り添ってくれている。今は『キンキーブーツ』のストーリーそのままに、自分たちでさまざまな問題を解決しながら、新たな道を切り拓いていきたいと思っています。
このミュージカルが大ヒットした理由のひとつに、シンディ・ローパーの楽曲のよさがあるのですが、ポップ、ファンク、タンゴ風など幅広く、自分にとってはすべてが名曲です。ミュージカルは、歌詞が台詞としてしっかり観客に伝わることが何より大切。歌唱指導の方には、「優との声の相性が最高だね」と言われているので、唯一無二のハーモニーを奏でられることを今から待ち望んでいるところです!
舞台で味わう臨場感は、やはり最高です。将来的には、古田新太さん率いる『劇団☆新感線』の疾走感ある舞台に出てみたい。それから、ミュージカル好きで劇団『大人計画』主宰の松尾スズキさんが作品を作ることがあれば、ぜひまたご一緒させてもらいたいですね。
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita )
【PROFILE】
小池徹平(こいけ・てっぺい) ◎1986年、大阪府生まれ。’01年に『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリを受賞し芸能界入り。俳優デビュー後、ウエンツ瑛士と音楽ユニット『WaT』を結成し、’16年まで活動。音楽活動のほかにも、ドラマ・映画と幅広く活躍するなか、’13年に宮本亞門演出の舞台『メリリー・ウィー・ロール・アロング 』でミュージカル初出演。’16年には『1789-バスティーユの恋人たち-』『キンキーブーツ』での演技が評価され、菊田一夫演劇賞を受賞。’22年後半は『キンキーブーツ』3度目の主演や、『科捜研の女 2022』(テレビ朝日系)への出演が決まっている。
【舞台情報】
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン/音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル/日本版演出協力・上演台本:岸谷五朗/訳詞:森 雪之丞
出演:小池徹平、城田 優、ソニン、玉置成実、勝矢、ひのあらた 他
◎東京公演
2022年10月 1 日(土)~11月 3 日(木・祝)@ 東急シアターオーブ
大阪公演
2022年11月10日(木)~11月20日(日) @オリックス劇場
※公演詳細やチケット情報は公式サイトにて→http://www.kinkyboots.jp/