管理理容師で、ヘッドスパ専門店としては日本最多の店舗数を誇る『PULA(プーラ)』創業者の辻敦哉さんが、自らを実験台にし、生み出したのが辻式白髪予防法。#1では白髪対策のキモは「ミネラルとたんぱく質」を摂取することだとわかったが、#2では、日常生活でできる具体的な白髪予防法について辻さんに聞いていく。
(#1はこちら→【白髪対策#1】理美容師が数多く目撃している「白髪が黒髪に変わる事例」。普段の生活からできる改善法とは?)
白髪対策、まずは自炊することと「黒い食材」を食べることから
ついつい手を出しがちな加工食品がミネラル不足の原因となり、さらにはこの飽食の時代にあってさえ、食料難の戦後直後と変わらないほどたんぱく質が足りていないとは……。
でも多忙な毎日、加工食品をゼロにするのは難しいし、肉や魚を増やすのも、物価高騰の昨今ではなかなか難しい。ではいったいどうすれば……?
辻さんは自炊と、ある食材をちょっとプラスすることから始めようと提案する。
「白髪を予防したいのなら、まずは自炊するところから始めてください。すでに自炊している方なら、食材を吟味してからテーブルに並べるようにしてみましょう」(辻さん)
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自炊の際には「レンジでチン!」するパックご飯ではなく、自分の好みに合った銘柄の米を、炊飯器で炊いて食べるようにしたい。さらには白米でなく、五分つき米など、糠を残した米ならさらにいい。糠には玄米の栄養素の9割が含まれていて、ビタミンやミネラルなど、黒髪に欠かせない微量元素の宝庫だからだ。
「江戸時代、“江戸患い”という病気があったのをご存じですか? 玄米が主食だった人が江戸に来て、白米を食べられるようになると起こる病のことで、今では“脚気(かっけ)”と呼ばれています。しびれやむくみ、倦怠感といった症状が起こります。
実は、この病気を防ぐために生まれたのが糠漬け。糠には脚気を予防するビタミンB1が豊富だからです。こうした例からもわかるように、糠は髪のみならず、身体にも欠かせないビタミンやミネラルといった微量栄養素の宝庫。五分つき米なら、それほど白米との違和感を感じることなく食べられると思います」(辻さん)
五分つき米を食べることで体調の変化を感じはじめたら、黒ゴマを常備するようにしよう。特に天日干しで作られた黒ゴマには、素晴らしい白髪予防効果があると辻さん。
「黒い食材、例えばブルーベリーやナス、黒豆、あずき、コンブ、紫キャベツなど、色の濃い食材にはアントシアニンという成分が豊富に含まれています。中でも黒ゴマはカルシウム豊富で食べやすく、おすすめです」(辻さん)
黒ゴマをすって、ご飯やみそ汁、ドリンクに混ぜたりして、あらゆる機会に食べることをすすめる。辻さんはラーメンにも入れるという。
そして、すり黒ゴマがしょうゆやこしょう、塩のように、テーブルに欠かせないものになったら、次は生活習慣の見直し。ポイントは、運動習慣と頭皮マッサージをプラスすることだ。
血行を促進して、栄養を頭皮に行き渡らせる
いくら食生活を改善し、身体が必要な栄養で満たされたとしても、それが頭皮にまで運ばれなければ白髪を予防し、改善することはできない。栄養を頭皮まで運び、毛根まで届けるもの。それこそが血液だ。
「でも血管は、心臓から離れれば離れるほど細くなります。頭部なんて、その最たるもの。そんな細い血管に栄養を届けるためには、意識して血流をよくする行動、すなわち運動が欠かせません」(辻さん)
運動不足の自覚があるのなら、何かしらの運動を取り入れよう。
球技、ウォーキング、あるいはラジオ体操やストレッチなど、運動ならなんでもいい。まずは気軽にできて“楽しい”と思える運動から取り入れてほしいと辻さん。そして運動習慣が毎日の生活に根づいたら、次は頭皮の健康の見直しだ。
「具体的には側頭筋マッサージと洗髪です」(辻さん)
すき間時間に頭皮マッサージを取り入れ、シャンプーを見直す
運動習慣とともに頭部への血行を促し、メラノサイトが働く毛根に血液中の栄養を届ける方法として辻さんが推薦するのが、側頭筋へのマッサージだ。側頭筋とは、こめかみから耳上部にあって後頭部に向かって伸びる筋肉のことをいう。
「白髪予防には、この側頭筋へのマッサージが有効です。下のイラストを参考に、準備運動としてひじを曲げて大きく回したあと、机などにひじを載せて、手のひらのつけ根でもみ上げからこめかみのあたりをうずを描くようにマッサージしてください。朝起きたら1回、トイレやお風呂に行ったら1回やるなど決めるといいでしょう。このマッサージはやればやるほど効果があります」(辻さん)
白髪を防ぐ! 側頭筋マッサージ
(1)ひじを折り、鎖骨のあたりに手を添えてから上から下、下から上への数回大きくまわし、肩甲骨まわりのリンパと血行を促進する。
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(2)机などにひじをおき、手根(手のひらのつけ根のふくらんだ部分)をもみ上げにあて、ギュッギュと上に持ち上げるようにマッサージする。このとき頭の重さを手根に預けながらマッサージすると、もみあげる力がさらに強くなる。入浴時に行うときは、ひざにひじを置くようにするといい。
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(3)こめかみのあたりまでをマッサージしたら、手根でこめかみを後ろに円を描くように回す。
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シャンプーは天然成分にこだわる
そして、辻さんが白髪予防にぜひ気にかけてほしいと語るのが、シャンプー選びとシャンプーの回数、そして洗い方だ。白髪を防ぎたいのなら、シャンプーはアミノ酸ベースのもので、できればミネラル分たっぷりの天然素材で作られたものを選び、シャンプーは毎日、2度洗いするようにすべきだと語る。
「1回目のシャンプーは、汗やほこり、油汚れを落とすためのもの。2回目のシャンプーで初めて頭皮の雑菌まで洗い落とせるようになるのです。シャンプーに書かれた効果も、実は2回洗って初めて期待できるもの。そしてシャンプー時には、地肌を指でつまみ上げるようにして洗ってください」(辻さん)。
正しいシャンプー選びと洗い方ができたうえで、頭皮に付着しなければ、コンディショナーやトリートメント、洗髪後のスタイリング剤は仕上がりの好みで選んで構わない。こうしたものは本来、髪の毛だけに働くもので、頭皮にはさほど大きなダメージがないからだ。ただし、頭皮用トリートメントの商品で「頭皮に塗布すること」と表記がある場合は、使用方法の通りにするのがおすすめ。
ではシャンプーは、どんなものを選べばいいのか?
辻さんがすすめるのは、フルボ酸というミネラルと相性がいい成分が含まれ、洗浄成分がアミノ酸のシャンプー。フルボ酸とはもともとは森林の土中に含まれる有機酸の一種で、植物に対しては土中のミネラルを運び、人に対してはミネラルを運ぶととともに、体内に循環させる働きがあるという。
アミノ酸はその名のとおり、皮膚や髪と同じアミノ酸系の洗浄成分を配合したシャンプーで、髪や地肌にやさしいのが特徴だ。ネットで「フルボ酸」「アミノ酸シャンプー」で検索すれば、価格もこだわりもさまざまなシャンプーがヒットするから、予算と仕上がりにあった製品を選ぶといいだろう。
とはいえ、仕上がりのよさから、どうしても従来のシャンプーを使いたいという人もいることだろう。
「その場合はすすぎの時間を長くして、シャンプーの残量物をよく洗い流すようにしてください。自然派志向の方でしたら、2%程度の濃度の重曹水(500ミリリットルのペットボトルに10グラムの重曹)で地肌を洗う、いわゆる重曹シャンプーにトライするのもいいでしょう」(辻さん)
重曹には油脂を乳化させる作用があるので、毛穴に詰まった皮脂の除去効果が期待できる。ただし、弱アルカリ性のため石鹸シャンプーを使ったあとのようなきしみが残るので、トリートメントやコンディショナー、リンスなどを使用し、髪がきしまないようにケアを忘れないようにしよう。
「白髪予防は健康な頭皮を育み、そこに黒髪に必要な栄養を届けることから始まります。これができれば、白髪予防や改善は決して難しくはありません。その効果は、髪を見ればわかります。髪は1か月に1センチ伸びるといわれますが、白髪予防を始めれば、白髪が黒くなり、ゼブラ模様になっていくことでしょう」(辻さん)
〈PROFILE〉
辻敦哉(つじ・あつや)
ヘッドスパ専門店としては日本最多の店舗数を誇る『PULA(プーラ)』創業者。管理理容師、元ヘアサロン店長。東京文化美容学校、ロンドンTONI&GUYアカデミー修了。アジアの優れた企業家に贈られる『アジアゴールデンスターアワード2017』で日本人で2人だけにしか授与されていないマスター大賞を受賞。『白髪は防げる!』(かんき出版刊)など著書多数。現在は後進の育成と、自身が考案したプーラ式のヘッドスパを習得した仲間とともに、ヘッドスパ専門店を全国展開中