昔のテレビゲームでは「セーブポイント」がありました。名前のとおり、その場所へ行くとセーブして進行状況を保存できるというもので、RPG(ロールプレイングゲーム)で特によく見られたものです。
しかし、現代のゲームではセーブポイントが激減しています。なぜなら、自動的にセーブしてくれる「オートセーブ」が存在するからです。
改めて考えてみると、ゲームの世界がいくらファンタジーとはいえ、セーブポイントというものは奇妙で不自然な存在です。そして同時に、セーブポイントはとてもアイコニックで懐かしい存在です。はたしてなぜ、消えてしまったのでしょうか?
古いゲームはセーブ自体が特別だった
そもそも、なぜ古いゲームにはセーブポイントが存在したのでしょうか。その理由はいくつかありますが、チェックポイントとしての意味合いが大きかったと考えられます。
たとえばRPGにおいて、ダンジョンを乗り越えたあとにセーブできるようになっていれば、それはクリアした人のためのチェックポイントという役割になっているわけですよね。あるいは、ボス戦前にセーブポイントを用意して、そこまでの道中をやり直さなくてよいようにもできます。
『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』の「ロンダルキアのほこら」のように、セーブポイントとは難関を抜けた先の休憩所であり、ひとつのフェーズのクリアでもあったと考えられます。
また、詰み(※)防止の意味もあったと思われます。どこでもセーブできる仕様にすると、後戻りできない状態でセーブして詰み状態に陥(おちい)ってしまいます。『ロマンシング サ・ガ』シリーズなどはいつでもセーブできるため、詰む可能性が高いゲームでした。
※詰み:ゲームにおいて、何をしてもクリアできなくなる状況に陥ること
いずれにせよ、昔のゲームではセーブポイントを特別なものにする意味があったわけです。そうなるとセーブできる箇所は重要になるので、わかりやすい「セーブポイント」が存在したのでしょう。
とにかく便利すぎるオートセーブ
とはいえ、前述のように現在はオートセーブが主流になっています。これはゲーム機やゲーム内容の進化にともなって、自然と変わっていきました。
インターネット環境が広まって花開いたオンラインゲームのようなジャンルでは、任意セーブができるとランダム要素(※)のやり直しができてしまいます。これはアイテム課金などにも絡みうる重要な要素なわけで、セーブは常に自動で行われないと運営側は困るわけですよね。
※ランダム要素:ガチャによるキャラクター獲得や、モンスター討伐時にドロップされるアイテム、装備が合成された後の結果など
また、そうでないゲームでもオートセーブが主流になっていきます。ゲーム機が進歩した結果としてメモリーカードなどはなくなり、備え付けのハードディスクなどにセーブデータが保存されるようになり、セーブも素早く自動的に行われるようになりました。
何よりオートセーブは非常に便利です。若い人がオートセーブのないゲームを遊ぶと「セーブし忘れてゲームをやめてしまう」なんてケースが起こりうるほどで、もはや現代のゲーマーになくてはならない存在になっています。
また、ゲームそのもののプレイ時間が昔より長くなりました。古いゲームは容量の問題で同じ場面を何度もやり直させるような仕組みでしたが、いまは一本の作品をスムーズに体験させるのがベターになっています。そのためにはオートセーブのほうがよいわけですね。
加えて、古いゲームに存在したチェックポイントとしての役割は、セーブ以外の要素で十分に表現できています。『エルデンリング』では「祝福」がチェックポイントの役割を兼ねていますし、展開の節目に特に理由なくチェックポイントが存在してもおかしくありません。
詰みに関しては、そもそも詰むような作り自体が問題でしょう。いまでは詰んでしまう状況があると大きな問題になりますし、あったとしてもアップデートですぐ改善されます。オートセーブで複数のセーブデータが保存されていれば、少し前からやり直すのも容易です。
心に残り、消えゆくセーブポイント
このような理屈から、セーブポイントが希少なものになっていくのは必然だったといえるでしょう。そもそも写実的なゲームであればセーブポイントの存在自体が不自然なものになります。デフォルメされた表現が多い昔だからこそ許されていたのかもしれません。
しかし、セーブポイントはいかにもゲームらしくアイコニックな存在です。これを生かした作品もあり、『ファイナルファンタジーXII』ではセーブポイントに擬態した敵が存在していましたし、『MOTHER2 ギーグの逆襲』ではセーブポイントが電話でしかも父親のアイコンでもありました。
残念なことに、テレビゲームの象徴的存在といえるセーブポイントは、歴史の進歩とともに姿を消していくでしょう。しかしながら、ゲーム好きの心に強く刻まれた大きな存在なのです。
(文・渡邉卓也/編集・FM中西)