『舞いあがれ!』第24週の初日(3月13日)、舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)に女の子が生まれた。名前は歩(あゆみ)。候補は他にもあって、どれもよい名前ばかりだったが、「何があっても負けんと、前に進んでほしい」という舞の願いから歩となった。
決定は舞に委ねるという展開が、貴司の非マッチョさを象徴していてうれしいシーンだった。そして出産祝いにやってきた舞の兄・悠人(横山裕)とのやりとりで、貴司の歌集がすごく売れ、講演や雑誌の連載も増えていることがさりげなく報告された。貴司の成功は喜ばしいのだが、デラシネ度が下がりはしないかとちょっと心配だ。「デラシネ度」とは「弱きものへの温かさ」のようなものを貴司の古本屋から勝手にそう呼んでいるのだが、それこそが『舞いあがれ!』の骨格だと思っている。
杞憂(きゆう)に終わることを願いつつ貴司の話を続けると、とてもよい父親だった。「舞ちゃん、もっと頼って。2人で親になったんやから」という台詞は、SNS界で称賛されたそうだ。《こうして2人で助け合いながら子育てを続けて、あっという間にひと月がたちました》とナレーションが入ったと思うと、次には2年がたっていた。
舞は保育園の帽子をかぶせながら、「今日は何して遊ぶやろなー」「お仕事終わったら迎えに行くからな」と歩に話しかける。貴司が「ほな行ってきます」と言い、「送り=貴司、お迎え=舞」と分担もわかる。2人を見ながら、朝ドラらしい光景だなーと思う。というのも、朝ドラヒロインは「女の子の一人っ子を育てる」率が高いと思っていたからで、今回、それを調べてみた。
共感を得やすい「母と娘の物語」
調査対象(!)としたのは、私が朝ドラにハマったきっかけの『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)から『舞いあがれ!』まで26作。ヒロインは『カムカムエヴリバディ』(’21年度後期)が3人だったので、合計28人。うち結婚しない、または結婚しても母にならないヒロインが7人いて、母になったのは21人。子ども(養子も含む)をみると、「女の子を1人育てた」が11人。「男の子を1人育てた」が4人、「2人以上を育てた」が6人。ということで、やはり一人っ子率が高く、それも女の子の一人っ子が最大派閥だとわかった。
この世には男女がおおよそ半々ずつ生まれるわけで、朝ドラヒロインの出産は明らかに偏っている。ヒロインにモデルがいてモデルの実人生に合わせている場合もあるが、それはさておき私なりにその理由を考えてみた。結論は(1)ヒロインだから、(2)それどころじゃないから──だと思う。
まず(1)だが、「朝ドラは女(ヒロイン)の一代記」によることが大きいだろう。最近では『カムカムエヴリバディ』がそうだった。安子(上白石萌音・森山良子)から始まる3世代の物語だったが、安子の一代記でもあった。夫を戦争で亡くし、一人娘るい(深津絵里)とは離れ離れになった安子。母へのわだかまりを抱えて生きるるいだったが、最後に2人は和解する。そこへと導いたのは、るいの娘・ひなた(川栄李奈)だった。
「大人の女3人」がそれぞれの人生を経て、それぞれを理解するのだ。ひなたには弟もいるが、年が離れた設定だったのはそういう訳だと思う。男子は母の人生を理解しないのかと言われると困るが、「娘の母へのさまざまな思い」は朝ドラの主たる視聴者である女性なら、みなわかるはずだ。つまり、視聴者の共感が得られる物語を展開しやすい。だから女の子が生まれる。
限られた放送時間で描かれる「子育て」
次の(2)は「一人っ子」問題への答えだ。『舞いあがれ!』が典型だと思う。歩が生まれた24週のタイトル「ばんばの歩み」だった。ばんば=祖母・祥子(高畑淳子)の歩んだ人生と、生まれてきた歩。ふたつが重なるタイトルだが、主眼はばんばだった。軽い脳梗塞を起こし一人暮らしができなくなった祥子と、離れて暮らす娘(めぐみ=永作博美)の葛藤が描かれて、脚本家の桑原亮子さん(24週から戻ってきた!)が描きたかったのは、「子育て」より「老い」。そう理解した。
桑原さんは今回、自立が次第に難しくなっていく親と離れて暮らす娘を描いた。女性が年齢を重ねると遭遇する「よくある事態」で、双方の判断はとても難しい。社長をしているめぐみは祥子に、大阪であなたの面倒を見たい、社長は降りる、うまくいかないなら2人で五島に帰ろう。そう説得し、祥子は大阪に来た。それでハッピーエンドではないはずで、これからの展開を期待している。
というわけで、女性の人生、テーマはいくらでもある。どこに注目するかは脚本家次第だ。とはいえ、「出産」「子育て」をする人が多い以上、なしにはできない。だったら、とりあえず1人は産んでもらおう。制作サイドの頭の中を想像してみたが、限られた放送時間だから、きょうだいを描く余裕はそうそうないだろう。そんなわけでヒロインは「一人っ子の親」になりがちだ。(1)と合わせ、女の子を1人育てるヒロインが多数派となり、舞もそのひとり。
という分析をしてみたのだが、どうもこのところ、舞の人生が見えないなあと感じている。予告編によると、再び「空」が出てくるようだ。あと2週、舞の人生が見えるといいな。そう願う今日このごろだ。
(文/矢部万紀子)