例えば、後輩や部下など、自分よりも立場が下である相手が、気のゆるみから、とんでもない失敗をしてしまったとき。あなたはどんな態度をとりますか?
これは、そんな場面で神対応をした、マンガ家・赤塚不二夫さんのエピソードです。
大失敗! 起きたときには自分以外のアシスタントは全員が仕事中
赤塚不二夫さんといえば『天才バカボン』『おそ松くん』『もーれつア太郎』など、たくさんのギャグマンガを生み出したレジェンド。バカボンのパパがよく口にする「これでいいのだ!」や、『おそ松くん』の登場人物・イヤミの「シェ―!」など、数々の流行語の生みの親でもあります。
そんな赤塚さんは、大のお酒好き。仕事で徹夜することが多い日々でも、原稿を描き終わればアシスタントや編集者を引き連れて飲み歩いていました。酒場での会話や酔っ払い客から、新しいギャグやキャラクターを思いつくこともあったといいます。
その仕事部屋の真ん中にはこたつが置かれ、時間が少し空くと、そこでお酒を飲みながらスタッフ相手にマージャンを楽しんだのですから、スタッフも毎日のようにお酒を飲んでいたのです。
さて、そんなある日のこと。若手アシスタントのひとりである、しいやみつのりさんが、仕事の後、つい飲み過ぎてしまいました。
酔っぱらって仕事場の隅(すみ)で眠ってしまい、ハッと気がついたときには、すっかりお昼。
周りを見ると、自分以外のアシスタントは全員が忙しそうに働いています。
「や、やってしまった!」
慌てて起きたものの二日酔いで頭はズキズキ。とても仕事ができる状態ではありません。
「と、とにかく、先生に謝らなければ……」
そう思ったしいやさん、見回すと、赤塚先生はすでに原稿を描き終えたのか、こちらに背を向けてこたつに入り、スタッフと麻雀の真っ最中。
その背中に向かって、おそるおそる言いました。
「先生、すみませんでした。つい、調子にのって……」
返ってきた、赤塚先生からの意外なひと言
ぺーぺーのアシスタントが、あろうことか二日酔いで仕事に穴を開けるなんて、考えられない大失態です。
厳しいマンガ家なら、その場でクビを言い渡してもおかしくありません。
しかし、しいやさんから謝罪の言葉を聞いた赤塚先生は、あっけらかんとした顔で、たったひと言、こう言ったのです。
「許すのだ!」
なんと、バカボンのパパのごとき、神対応のひと言!
このとき、しいやさんは、“この人に一生ついていこう”と誓ったそうです。そして、そのときの思いのとおり、フジオ・プロ(フジオ・プロダクション)に足かけ12年も所属し、のちにチーフ・アシスタントを務め、赤塚先生に恩返しをしたのです。
ある経営コンサルタントはこう言っています。
「器の大きい上司は、ミスをした部下に対して“おとがめなし”を基本にしている」
ミスを悔やみ、反省している相手には、おとがめなしで十分なのです。
そういえば、ビートたけしさんは、たけし軍団のメンバーが約束の時間に遅刻してきたとき、まったく怒らなかったそうです。理由は「ここに着くまでの間に、自分から怒られるのではないかと思って生きた心地がしなかっただろうから」。
もう罰は受けたから、怒る必要はないというわけです。
自分よりも立場が下の相手がミスしてしまったとき、「許すのだ!」の精神で、おとがめなしにする。
考えようによっては、器の大きさを見せるチャンスですね。
※出典:『赤塚不二夫先生との下落合呑んべえ日記』(しいやみつのり著 小学館)
(文/西沢泰生)