演劇界のみならず、音楽シーンでも活躍する鬼才・KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さん(以下、ケラさん)が主宰する劇団『ナイロン100℃』(以下、ナイロン)。その看板女優のひとりであり、近年はNHK大河ドラマ『真田丸』、朝ドラ『エール』、『あなたの番です』(日本テレビ系)など話題の作品でも活躍している女優・峯村リエさん。
2023年4月1日からは、東京・世田谷パブリックシアターで上演される『帰ってきたマイ・ブラザー』にも出演。水谷豊さんや段田安則さんといった実力派ぞろいの舞台で、どのような演技を見せてくれるのでしょうか。ご自身の半生を振り返りながら語ってもらいました。
水谷豊は「身のこなしが軽やか」池谷のぶえとのソックリ説にも言及
──現在、稽古中の『帰ってきたマイ・ブラザー』の現場はどのような雰囲気ですか?
「段田(安則)さんと(高橋)克実さん、(池谷)のぶえちゃんは以前にも舞台でご一緒させていただいたのですが、ほかの出演者は初めての共演なんです。堤(真一)さん、段田さん、克実さんは事務所の先輩ということもあって、会うとすごく緊張しちゃうんですよ。でも実際に稽古が始まってみたら、“こんなにも自由な人たちなんだ~”って、気が楽になりましたね」
──ベテラン勢が多いですが、和やかな稽古場なのですね。
「“おじさん4人衆”(笑)が楽しそうなので、私たちはそれを見て笑っている感じですね。基本的には台本に忠実なのですが、高橋さんは台本にある台詞(せりふ)から外れない範囲でアレンジを効かせてすごく面白くしていて、さすがだなと思いました」
──水谷豊さんは『相棒』シリーズなど、テレビドラマでの活躍の印象が強いですが、どのような方ですか?
「水谷さんは、長い芸能生活の中でも、舞台は今回が3本目だそうです。キャストの中でも最年長で、台詞の量もいちばん多いくらいなんですが、誰よりも身のこなしが軽やかで、台詞覚えがものすごく早い! 何作も連続ドラマに主演されていると、(台詞を)頭に叩き込むスピードが上がるんでしょうね。コツがあれば教えてもらいたいです(笑)」
──池谷のぶえさんとは、ネット上で「顔が似ている」と話題になったことがありましたね。
「そうそう。私ものぶえちゃんの記事を見て、“あれ、なんで私が写ってるの!?”って、自分と間違えちゃったことがあるくらい(笑)。骨格が近いせいか、高めの声質も似ているんですよ。のぶえちゃんとはプライベートでも仲がいいので、改善案もすぐに伝え合ったりできて、やりやすいですね」
演劇好きの母親との観劇の日々が“芝居人生”の原点だった
──もともと、お芝居に興味を持ったきっかけは何でしたか?
「母親がすごく演劇好きで、小さいころから一緒に連れて行かれていたんですよ。記憶に強く残っているのが、『はなれ瞽女(ごぜ)おりん』(有馬稲子さん主演の舞台)を観に行ったとき、男性器をちょんぎるシーンがあって。子どもだったから、わけもわからず、“えっどうして?”、“あれはどこを切ったの?”と、大きな声で母に聞いてしまったんです。母は慌てて”シー!”って。あの話を子どもに見せる母親もすごいですよね(笑)。でも、母がいろいろな芝居を見に連れて行ってくれたおかげで、舞台が身近に感じられていたんでしょうね。“いつか私も演じる仕事がしてみたいな……”という思いは、心のどこかにあったのかもしれません」
──お母さんは、峯村さんが出演される芝居を見たことはありますか?
「あります。やっぱり、母は身内にはすっごく厳しいですね。しかも、私が言われたら嫌だなっていう部分をついてくるんですよ。ダメ出しをくらうと、“わかっているけど、それができないんだよ!”って、ちょっとケンカになったりもしますが(笑)、だからこそ、母にほめられたときはすごくうれしいですね」
演出志望から役者の道へ。「全然面白くない」と言われ──
──’80年代には、野田秀樹さんや三谷幸喜さんを中心とした小劇団ブームが起こりました。数多くの小劇団が活動する中、どうしてナイロンに所属されたのでしょうか。
「最初は、『五月舎』(’71年~’91年まで活動していた演劇団体)という養成所に通っていたんです。『五月舎』はレッスン費がかからなかった。ほかに『無名塾』(仲代達矢が主催する演劇団体)も無料と聞いていましたが、私の中で無名塾は、美男美女しか入れないイメージだったんですよ。(目を見開きながら)女性は目がパッチリして、髪の毛が長くて……っていう、まさに王道、みたいな」
──(笑)。
「『五月舎』に入ったら、そこに犬山イヌコさんがいたんです。実は私、最初は俳優ではなく、脚本を書いたりしたくて演出部志望で入所したんですよ。だけど、演出部も俳優のレッスンを受けなくてはならなくて、卒業公演で『11匹のねこ』を演じたときに“あ、役者側も楽しいな”と感じたんです。2年にわたる養成期間が終わったころに、犬山さんから“面白いことを始めようと思うのだけれど、一緒にやらない?”って誘われて。それが『劇団健康』(ナイロンの前身)だったんです」
──『劇団健康』には、田口トモロヲさんや手塚とおるさんなど、現在も活躍されている役者が出演していましたね。
「手塚さんがオーディションを受けにいらしたときは、私も審査に立ち会ったんです。手塚さんは最初から“すごく面白い人が来た!”って、みんながざわつきました」
──『劇団健康』は実験的な演劇が多い印象ですが、演じている側としてはどうでしたか?
「いや~。当時の事件を風刺したものとか、ちょっとした差別ネタとか、今だとがっつり怒られそうなネタもありましたね。最初のうちは普通にお芝居をしていたんですが、ケラさんが“ダメ、ダメ。全然違う。面白くないんだよね”って言うんです。そこで逆ギレして(笑)、台詞を思いっきり棒読みにしたんですよ。そうしたら、“それ、それだよ!”って。『健康』での指導を受けているうちに、さまざまな価値観がぶっ飛びましたね」
──ナイロンの芝居は、きれいな女優さんでも、“美人”という立ち位置ではない役柄であることも多いですよね。
「そうですね。犬山さんは、『予定外』という芝居では立ちションするシーンまでありましたからね(笑)。でもケラさんは、女性を描くのがうまいし、好きなんですよ。“女の人って、それまでさめざめ泣いていたのに、次の瞬間、アハハハ〜って笑ったりもするでしょう。そういうところが面白くて書きやすいんだよ”って言っていました」
──ナイロンの芝居の中では、男性器の名称などを叫んだりするシーンもありましたが、やりたくない役や言いたくない台詞などあったりしましたか?
「あ~。そういう台詞もありましたね。でも慣れちゃうのかな(笑)。まったく嫌だと思ったことはないです。(芝居が)楽しいから、いいんでしょうね。逆に楽しくなかったら、“絶対に言いたくない”って主張していると思います」
ほぼノーギャラで働き、アルバイトと実家暮らしで乗り切った過去も
──’23年3月、ケラさんが自身のTwitterで《1月の収入1万6千円、2月の収入2万8千円て、こんなに働いてるのに》とつぶやいて、話題となりました。峯村さんも金銭面での苦労などありましたか?
「最初のころなんて、お金をもらった記憶はほぼないですね……(笑)。ナイロンになってからも、初期の公演はノーギャラでした。ただ、『健康』のメンバーは、『冗談画報』(’85年~’88年、フジテレビ系で放送されたバラエティ番組)などに出ていたので、その出演料はもらっていましたが。劇団『大人計画』と一緒に深夜番組に出たこともありますね。あとはみんなバイトをしたり、実家暮らしで乗り切ったり。私も実家だったからなんとかやっていけたけれど、あのころ家賃まで払っていたらちょっと無理かな(笑)」
──峯村さんは、どのようなアルバイトをされていたのですか?
「某ファーストフード店でクルーをやっていました。意外と普通なんですよ(笑)。仕事内容が精神的に合わず、1日で辞めたバイトもあります」
憧れの芸能事務所への所属が転機に。舞台と映像では演じ分けている?
──『健康』で着々と実力をつけてきた峯村さんですが、仕事におけるターニングポイントは何ですか?
「2010年、シス(現所属事務所、シス・カンパニー)に入れてもらったことですね。事務所に所属してから、舞台だけではなく映像の仕事もたくさんさせていただくようになって。認知度が広まったことで、結果的にいろいろな舞台にも客演で呼んでいただけるようになり、そこから仕事の幅も増えていきました。事務所の力ってすごいな、って改めて思いましたね(笑)」
──現事務所に入るきっかけは何でしたか?
「演劇を始めたころから憧れていたシスに、いつか入りたいなと思っていたんです。それで前の事務所を辞めてから、シスの方にダメもとで所属俳優を募集していないか聞いてみたら、シスの社長と面談させていただけることになりまして。やっぱり緊張しましたよ。だって、世界でいちばん怖い人なんです(笑)」
──面談ではどのようなことを聞かれたのですか?
「“社長と話してダメだったらもうしょうがない”って気持ちだったけれど、会ってみたら“うちはね、出演料のパーセンテージはこれくらい”って、いきなり数字の話から入って。“それで大丈夫です”って答えたら、いつの間にか面談が終了していて、“え!? これ、もしかして私……入れたの!?”って感じでしたね(笑)。でも、シスに所属できて本当にうれしかったし、夢がひとつ叶(かな)いました」
──舞台に映画、ドラマと幅広い分野で活躍されていますが、それぞれを演じる際には何か違いを感じていますか?
「昔は感じていたのですが、最近は一緒だなと思っています。正直、最初のころは“映像って苦手”と感じていたのですが、映像でも舞台でも、ちゃんと楽しく演じられる作品もあれば、“これはどうなんだろう”って思う作品もあることは同じだなと。演じるにあたって、声の大きさの違いなどはあるものの、心持ち的には区別していないですね」
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お芝居が好きで、真摯(しんし)に向き合っていることが強く伝わってくる峯村さん。インタビュー第2弾では、最近ハマっていることや、忘れられない失敗談などもお聞きしています!
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
峯村リエ(みねむら・りえ) ◎1964年、東京都生まれ。身長173センチ。『ナイロン100℃』所属。数々の舞台・ドラマ・映画に出演を続ける。’16年以降の出演作に、映画『あなたの番です 劇場版』『犬も食わねどチャーリーは笑う』、大河ドラマ『真田丸』『青天を衝け』、連続テレビ小説『エール』、テレビドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)、『最愛』(TBS系)、『漂着者』(テレビ朝日系)、舞台『ザ・ウェルキン』など。’23年4月からはテレビ朝日系『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』、舞台『帰ってきたマイ・ブラザー』、7月~8月は舞台『ピエタ』に出演。
シス・カンパニー公演『帰ってきたマイ・ブラザー』
作:マギー/演出:小林顕作
出演:水谷豊/段田安則/高橋克実/堤真一/池谷のぶえ/峯村リエ/寺脇康文
【東京公演】2022年4月1日(土)~4月23日(日) @世田谷パブリックシアター
※東京公演後、名古屋、大阪、福岡、西宮、新潟、札幌、仙台、京都と各地で上演
《ライブ配信決定》4月15日(土)にライブ配信を実施! 詳細は公式サイト(https://www.siscompany.com/brother/)をご覧ください