『舞いあがれ!』の最終回、舞(福原遥)の操縦するカササギ号が空を飛んだ。2027年1月という設定だった。現実世界の話だが、大阪万博に向けて「空飛ぶクルマ」のテスト飛行が行われたというニュースを3月14日に見た。だから、’27年の“空飛ぶクルマ実用化”は現実的なのかもしれない。
とはいうものの、舞のフライトは夢物語にしか思えなかった。最終週、説得力ゼロ、とは言わないけれど、かなり低かった。短くまとめるとこうだ。悩める貴司(赤楚衛二)が’20年1月にパリに行き、ロックダウンでコーヒーも買いに行けないけど家族に会いたくなってエッセーを書き始め、日本も緊急事態宣言が出たけど帰国できて、舞はドローン会社「アビキル」の執行役員になって投資も呼び込み、6年がたち、貴司の新刊が出版され、舞は大学&航空学校時代の仲間や家族が見守る中、空を飛びましたとさ──。うーん。
『舞いあがれ!』の優しい目線が好きだった。傑作ではないけど、佳作には違いない。ずっとそう思って応援していたけれど、期待どおりとはいえない結果となった。だが、それもしょうがない。『舞いあがれ!』は2つの意味で、「コロナと朝ドラ」に足跡を残してくれた。それは次につながることで、つまり歴史的意義を果たしたと思う。という話を、『舞いあがれ!』のまとめとしたい。
『舞いあがれ!』は、初めて「コロナ禍の日々」を正面から描いた朝ドラだ。それまでも描かれなかったわけではないが、遠景だった。’21年放送の『おかえりモネ』はヒロイン(清原果耶)の恋人(坂口健太郎)が内科医で、「詳しくはわからないが、感染症なら人手がいるから」と正月休み中に呼び出しを受けるシーンが最終週に描かれた。最終回は2年半後で、マスクなしの2人がハグしていた。希望を余韻に幕を閉じる。そのためにコロナ禍にも触れたのだと感じた。『カムカムエヴリバディ』も、最終回近くには3代目ヒロイン(川栄李奈)がマスクをしていたが、描きたいことは他にあり、風景としてのマスクだった。
ウイズコロナの放送スケジュールを体現
『舞いあがれ!』のマスクは風景ではなかった。すごく駆け足ではあったが、ロックダウン下のパリや緊急事態宣言下の日本で戸惑い、悩む人々の様子が最終回に確かに描かれた。貴司があっさり帰国できてしまったり、開発の遅れを懸念するアビキルも消毒と密回避で何だか事態が好転したり、ゆるいと言えば限りなくゆるい描写ではあった。だが、2020年以後の世界を描くなら、コロナ禍はなかったことにできない。そのことをはっきりさせてくれたという意味で、朝ドラ史上に名を刻んだと思う。
そして『舞いあがれ!』はウイズコロナを体現するドラマでもあった。何かというと、’22年度の後期にきちんと放送が収まっていたのだ(’22年10月3日〜’23年3月31日)。実はこれ、’19年度後期の『スカーレット』以来で、コロナ禍による混乱を少しずつ脱却した証(あかし)なのだ。
混乱の始まりは『エール』だった。’20年3月30日の放送開始直後、4月7日に緊急事態宣言が出され、撮影が止まった。完成済みの“在庫”がなくなり、6月末から9月中旬までは初回からの再放送をし、最終的には10話減らした全120話を11月27日まで放送した。以来、『おちょやん』が11月30日〜’21年5月14日、『おかえりモネ』が5月17日〜10月29日、『カムカムエヴリバディ』11月1日〜’22年4月8日、『ちむどんどん』が4月11日〜9月30日に放送された。大幅から小幅にはなったものの、年度とのズレが残っていたのだ。
5月や11月スタートでは普通のドラマと違わない!?
この間、何が起きたかというと、視聴率低下だった。ビデオリサーチ社のデータで期間平均視聴率(関東地区)を見てみると、『エール』の20.1%が『おちょやん』で17.4%とガクッと落ち、『おかえりモネ』が16.3%、『カムカムエヴリバディ』で17.1%と少し盛り返したが、『ちむどんどん』が15.8%。
この凋落傾向には「年度とのズレ」が関係している。そうにらんでいるのは、年度と朝ドラは親和性が高いと思うから。そもそも月曜から金曜まで毎日放送されるのが朝ドラで、月曜から金曜ないし土曜まで行くべき会社や学校との相性がよいと思うのだ。しかも年度始めと折り返し地点で始まるから、実生活での「新たなスタート」と「新しい朝ドラ」が重なる。だから、朝ドラを見よう。視聴のきっかけになる。
そう実感したのは、タイミングがズレてから。5月や11月に始まる朝ドラを見始め、これでは普通のドラマと変わらず、「なんとなく見ない」人が増えそうだなと思った次第だ。だから『舞いあがれ!』が視聴率回復への一歩となるかというと、そうはなりそうにない。毎週の平均視聴率が15%あたりで推移していて、最終的に『ちむどんどん』超えも微妙は気配ではある。だけど『らんまん』が4月3日にきっちり始まる。3月31日に終わった『舞いあがれ!』が平常運転、つまりウィズコロナへの一歩となったことは間違いない。
コロナ禍の間にテレビ離れはますます進み、リモートワークも日常化した。「リモート」と朝ドラの相性はあまりよくないかもしれず、その意味では『らんまん』も先行き不透明だ。が、当たり前だが肝心なのは内容だ。『らんまん』が視聴率回復の一歩になることを期待したい。
《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。