フムニューで絶賛週替わり連載中のサブカル解説YouTuber・おませちゃんブラザーズ。今年もあっという間に年の瀬ということで、メンバーのわるい本田さん、矢崎さん、池田ビッグベイビーさんが2022年のベストムービーを教えてくれました!
今回の企画のもとになった彼らのラジオ「今週観たもの聴いたもの」や、YouTubeで公開中の「サブカル解説YouTuberが選ぶ2022年ベストアルバム(邦楽編、洋楽編)」も合わせてぜひ。年末年始も映画・音楽三昧しちゃってください!!
わるい本田 『さかなのこ』
僕の人生の「主旋律」は何だろう、と考えることがある。
小学校の頃は地元のサッカークラブで万年二軍のベンチだった。中学校ではサッカーから逃げるように陸上部に入るも記録が伸びず、高校ではいよいよスポーツから逃げて軽音部に入った。あれだけバンドで有名になると息巻いていたのに、大人になってなぜか放送作家になり、更にそこからも逃げ出して今はYouTuberとして生きている。
逃避を繰り返す僕の人生は全く出鱈目で、筋が通っていないように思える。多くの人間は就活のタイミングで行う「自己分析」とやらで自分の人生を一旦整理するのだろうが、就活からも逃げてしまった僕は自分の人生が未だにぼんやりしたままだ。
2022年に公開された沖田修一監督の映画『さかなのこ』で描かれた「さかなクン」の人生の主旋律が「魚」である事は明白だ。小さい頃からおさかな博士になるという目標を持ち、そこからブレずに大人になったという半生は僕にとって憧れの対象そのものであると同時に、自分からは遠く離れた事のような虚しさを覚えた。
だが映画を観ていくうちに、そんなさかなクンもまた苦悩の中にいた事を知った。逃れようのない自身の過剰さは様々な不利益を生んでいた。だが、さかなクンは自らを押し潰して安全に生きる道を選ばなかった。彼(彼女)は好きなものを好きでいる努力を怠らなかったのである。
それは紛れもなく自分の人生を定義づける努力だ、と僕は震えた。と同時に、そんな努力をしてこなかった自分に気がついた。主旋律とは自分次第で人生の途中からでも鳴り始めるものなのかもしれない、とさえ思えるような感動があった。
そして、この映画の最も偉大な点は彼(彼女)の特異な主旋律を「呪い」にしなかったことだろう。魚への執着はあくまでも本人や周囲を幸せにする一つのメロディであるという主張が貫かれている。ファンタジーにもなり得る嘘のような本当の物語を現実に生きる我々への福音へと昇華させたこの作品は、傑作と呼ぶに相応しい映画であると思う。
矢崎 『RRR』
ワサビを食べられるようになり、ミョウガを美味しく感じ、コーヒーで一息つくような大人になった今でも、結局ジャンクフードが好きだったりする。天ぷらを「塩でお召し上がりください」と言われても、天つゆにどっぷり浸けたいと思う自分がどこかにいる。
今年、映画館で『RRR』という3時間あるインド映画を観た。イギリス植民地時代のインドを舞台に、イギリス軍に捕らえられた少女を救う男と、イギリスの警察官が育む友情と闘いを描いたアクションエンターテイメントなこの作品は、まさにびしゃびしゃにつゆをかけられた天ぷらのような作品だった。濃い味で力強く僕の心の舌鼓を何度も鳴らした。
僕はアクション映画が正直苦手だ。ドカドカ爆発して情緒や風情を楽しめない人の為のものに思えてしまうからだ。顔だけで女を選ぶ下品な男のように思えてしまう。
しかし、この『RRR』は格好良すぎた。圧倒的な格好良さの前には、僕のお洒落気取りのアクション嫌いなど無意味だった。下品な男と思われても、この映画が好きだと叫びたかった。
例えば、漫画の好きな見開きを思い出してほしい。スラムダンクの桜木と流川のハイタッチだったり、からくりサーカスの勝と加藤が背中合わせで戦うシーンだったり、見開きはとにかくアツいシーンであり、ここぞという時に使われる。その漫画の見開きが『RRR』では3時間ぶっ通しで楽しめるのだ。心は常に揺さぶられ、脳が常に踊る。今年色々とお洒落な映画や暗い映画も観たが、それを全て踏み潰す3時間だった。
今年のベスト映画は『RRR』。個人的には、この時代に完全に勧善懲悪を突き通す感じも好きだった。
池田ビッグベイビー 『TITANE/チタン』
監督は『RAW 少女のめざめ』のジュリア・デュクルノー。
幼少期にチタンプレートを脳に埋め込む手術を受けた女性が主人公ということで、『RAW 少女のめざめ』のように、徐々に狂気に走っていくのかと思いきや、冒頭から狂気。痛々しい描写が続く。
「先端恐怖症の人は絶対に観ない方が良い」と友人から聞いていたが、そうでない自分も先端恐怖症になるのではないかというくらいの不快指数だ。
ただ作品としては本年観た中で比類なきほどに重厚な内容で、圧倒的な見応えと余韻をもたらしてくれた。
主人公の女性はもはや性別を超えて、別の生き物のように見えるレベル。
彼女が演じる「狂気」は圧巻だった。
だが、私がそれ以上の衝撃を食らったのは、むしろ男の「狂気」であった。
それは女の衝動的なものと違う、心の奥底に孕む暗澹たる「孤独としての狂気」であった。
去年の年末に長年付き合った彼女にフラれた私にとって、2022年は、孤独との戦いだった。
今でも誰もいない部屋に帰るのは何だか違和感があるし、5分に1回くらいは別れた時のことを考えて辛い気持ちになる。
だから尚更、愛する人を喪失した男の孤独は、気味が悪くも沈痛な思いにさせられた。
そして、女の得体の知れなさが、男が愛を注ぐ対象を不明瞭に感じさせ、その孤独は彼だけのものでないように思わされた。
その圧倒的な演技と秀逸な演出には、パルムドール受賞も納得である。
というわけで、孤独だった2022年のマイベストムービーは『TITANE/チタン』。
来年の今頃には、バカな恋愛映画なんかを選びたいと願うばかりだ。
良いお年を!!!
(文/わるい本田、矢崎、池田ビッグベイビー、編集/福アニー)
【Profile】
●おませちゃんブラザーズ
ニッチでおませなサブカルチャーを紹介するYouTuberトリオ。クラスで2~3人しか知らない映画や音楽、漫画をわかりやすく伝える。