保健所からのヒアリング
スマホの音が鳴るように設定して3時間ほど寝ていると、保健所から電話がかかってきた。所要時間は30分ほどだった。症状が出た時期や症状の内容、直近2週間の行動、これまでにかかった病気、手術歴などを聞かれた。
保健師の判断は、私の場合は病院入院になるというものだった。「ホテル療養じゃないんですか」と、思わず言ってしまった。ホテルならWi-Fiもつながるし、仕事ができるのに。
フリーランスは仕事をしなければ収入がないので焦った。だが、保健所の判断は絶対だ。
「だめです。病院入院は確定だと思ってください」
陽性が確定してショックを受けている感染者に対して冷たい保健師だな、と感じた。
しかし、今振り返ると、それは私が動揺していたからだ。保健所の忙しさを想像できていなかった。
濃厚接触者は、昨日のPCR検査の結果がまだ出ていない夫だけだった。夫と完全に部屋を分けるように言われ、入院に必要な物の説明を受けた。入院期間は長くなるかもしれないが、もちろん家族や友人との面会はできない。
聞きながら、以前にテレビ番組で目にした映像を思い出した。オンラインで家族に見守られながら、最期のときを迎えた重症患者。死因が新型コロナだったせいで感染の恐れがあり、死後も会えないまま火葬しなければならなかった、志村けんさんのご遺族。
私は高齢者でも重症者でもない。それなのに大げさだと自分でも思う。だが、彼らが直面した苦しみは、私にとって、もう人ごとではなかった。
電話中、泣きそうになったがこらえた。えたいの知れない「感染症」が、形をなしていった。
「重症患者ではないので大部屋なら無料、個室ならプラスで3万円以上かかると思うが、どちらがよいか」と聞かれた。睡眠障害があるので「結婚前の貯金を切り崩そう」と決め、個室を希望した。
明日の朝に体調確認の電話をすると伝えられ、通話は終わった。入院は病院が決まり次第、恐らく次の日からになるそうだ。
夜、医師から電話があり、夫のPCR検査の結果が伝えられた。陽性だった。