街の片隅や屋上などにポツンと一坪ほどのお社を見かけることがある。通り過ぎてしまいそうな小さな神社、実は強力なパワースポットで……。銀座の裏路地に多い理由は? お稲荷さんは怖い神様? 参拝は昼間が効果的? 身近にあっても意外と知らない神社の謎を取材した。
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東京・中央区銀座──。
都内有数のショッピング街であり歓楽街。この華やかな街に鳥居と小さなお社(やしろ)だけの小さな神社が点在しているのをご存じだろうか?
路地裏やビルの谷間、屋上にあることが多い。
「銀座は都内でも小さな神社が多いエリア。代々祀(まつ)られており、企業や地域の人たちに愛されています。最近ではパワースポットとしても注目され、各神社を巡る人も多い。人気なのは縁結びで有名な豊岩稲荷神社。徒歩圏内にある朝日稲荷神社も商売繁盛のご利益があるそうです」(ガイドブック編集者)
ただ、なぜこんな街中に神社が多くあるのだろうか。その謎に迫ってみた。
【1】なぜ裏路地に多い?
『銀座の街研究会』顧問で、銀座の歴史や土地柄に詳しい田中淳夫さんに聞いた。
「今も残る小さな神社の多くは徳川家康が江戸の街づくりを始めたころに建てられました。かつての銀座は職住一体の街でした。店舗の裏に路地があり、その両側の長屋に人々は住んでいました」
店舗と長屋はブロックごとにまとめられ、現在の銀座の区画もその当時の名残だ。
「各ブロックには共同の井戸やトイレとともに氏神様として祀る神社があったと考えられます。昔はもっとたくさんのお社が町中にあって、住民は生活していくうえでお参りを欠かさなかったと思います」(前出の田中さん、以下同)
【2】荒れると火事が起こる?
「開発の計画の話が出るたびに銀座では路地を残し、神社を守ってきたんです」
戦後、高度経済成長期になると人々の心から小さな神社への信仰が薄れていった。
こんな不思議な話もある。
銀座の荒れた神社の周辺で火事が頻発。そこで地域の人は「神社を大切にしないからだ」と反省、神社を再興した。すると火事もぴたりと収まったとか……。
【3】祀っている神様は?
「銀座1丁目、7丁目と8丁目は戦時中の空襲で焼け残ったエリアのため、多くのお社が残っているんです」
そのうちのひとつが同区京橋の東貸ビルの屋上に鎮座する小さな社。ビルの入居者など限られた人しか参拝できない。
「年1回、日枝神社の神主さんに祈祷(きとう)をお願いしています。ですが、実はこのお社は誰が何の目的で設置し、本当はどんな神様が祀られているのかはわからないんです」(ビルの管理者)
管理者によると昭和27(1952)年、当時のビル所有者が前の所有者不明のまま払い下げでこの土地と建物を取得。建物は昭和8(1933)年に建造されたもので、当時から屋上にお社があったそう。
建物もお社も戦争で焼け残り、ビルは建て替えてもなお代々お社は守ってきたという。
小さな神社は銀座以外にも日本橋や神田、上野など各地にある。その多くが震災や戦災で焼失したり、住民の信仰心が薄れて廃れたり、再開発で撤去され、数を減らした。
台東区上野にある下谷箭弓(やきゅう)稲荷神社も地域が守り続けている小さな神社のひとつ。
「御利益は勝利祈願、商売繁盛などです。大正時代にはすでにあり、現在は埼玉県の箭弓稲荷神社の分社ですが、神社の由緒や本来の神様は誰もわからないんです」(神社の世話人の女性)