ワニガメは敵じゃない

 捕獲作戦を始めたころは、ワニガメが捕食する池の魚をブイ付近に集めるため撒(ま)き餌をしたり、エサを入れた罠(わな)を仕掛けるなど試行錯誤を繰り返した。

 白輪園長は罠について「ワニガメは警戒心が強く、捕食スタイルは“待ち伏せ型”なので罠のエサを食べに行く可能性は低かった」と話し、これきり罠を仕掛けるのはやめた。

「ワニガメは陸に上がって生活することはない。動物を主食としておらず、ワニガメのほうから人間を襲ってくることはない。陸上で活動するアミメニシキヘビとは異なり、池に不用意に近づかなければ被害は避けられる」

 と話したこともある。

 ただし、あまりのんびりもできなかった。

「カメは10、11月ごろから来春まで冬眠に入ってしまう。冬眠中は居場所の特定は無理。暖かい日が続いているうちが捕獲のチャンスで、気温が10度を下回るようになると難しくなるから」(白輪園長)

 それはワニガメを怖がる人間のためだけではない。

「この池にワニガメの天敵はおらず生態系のトップに君臨する。在来種ではないため池の生態系は破壊されてしまう。ワニガメのためにも早く無傷で捕まえてちゃんと飼ってくれるところに引き渡してあげたい」(白輪園長)

 今年5月に横浜市戸塚区のアパートから逃げたペットの巨大アミメニシキヘビについて、「まだ室内にいるはず」と推理をはたらかせて屋根裏にのぼると、あっという間に捕まえてみせた“名探偵”。地元警察が捜索済みの場所だったにもかかわらず、アパート所有者に直談判し、部屋を損壊したときは自腹を切る約束までして捕獲につなげた。

“対戦相手”がワニガメに変わっても、捕獲時になるべく傷つけないよう配慮した。

 捕獲後、白輪園長に聞いた。

 こんどの敵は手ごわかったか──。

「手ごわかったからこそ時間がかかった。初日の15分で捕まえられると思っていたから。ワニガメの能力をみくびっていた。それと、ワニガメは敵じゃない。仲間だからね」

 そう言って笑った。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する。ウェブ版の『週刊女性PRIME』『fumufumu news』でも記事を担当