ミステリアスな個性派『ラーメンショップ』
「どこの店舗でも安定して同じ味が楽しめる」というチェーン店の常識とは真逆の発展が話題のラーメンチェーンもある。「うまい ラーメンショップ うまい」と書かれた赤看板が目印の、東京都大田区の椿食堂管理有限会社が運営する『ラーメンショップ』だ。その独特のチェーン体系は、現代のSNS社会と相まって今大きなブームを起こしている。
「昭和のラーメンといって思い浮かぶのは、あっさりした醤油(しょうゆ)ベースの中華そばかもしれませんが、ラーメンショップのラーメンはそれとは対極。店によって濃淡はさまざまですが、豚骨を煮出したスープと醤油ダレを合わせた東京豚骨と呼ばれるスタイルです」
そう教えてくれたのは、『ラーメン系譜学』(辰巳出版)の著書もある、大衆食ライターの刈部山本さん。しっかりとした東京豚骨の味はタクシードライバーや現場作業員などの間で支持を得て、1970年代から90年代にかけてラーメンショップの店舗は爆発的に増加していったという。ところが、ラーメンショップのチェーン展開にはミステリアスな部分が多い。
「基本的に本部は取材を受け付けておらず、チェーンの全貌は謎に包まれています。ラーメンショップ加盟店は本部を通して麺やスープなどの具材や調味料などを仕入れることもできますが、逆を言えば、本部を通さずに独自で材料を仕入れてもいい。そのため、同じ看板を掲げていても、その味はお店によって千差万別なんです」(刈部さん)
その真相を確かめるべく、『ラーメンショップ 堀切店』へ向かったところ、店主の清水良之さんがお話を聞かせてくれた。
「たしかに、ラーメンショップは店舗ごとに味もメニューもかなり違って、“この味こそラーメンショップの王道”というもの自体がわかりにくいですよね。これだけは仕入れてくださいといったリストもなく、かなり縛りは緩いです」(清水さん)
堀切店では、ラーメンショップの味の基本となる醤油ダレ、味噌ダレ、らあじゃんやクマノテと呼ばれる代わりのきかない調味料は本部から取り寄せ、特製の麺やそのほかの食材は個人で仕入れているそうだ。
さっそく人気の『ネギラーメン』(並・850円)をいただいた。思ったよりこってりしすぎない豚骨醤油のスープに、太めでもちもちの麺がよく絡む。トッピングの大ぶりなワカメも、どことなく懐かしい味わいだ。また、半熟卵は他のラーメンショップでは別料金がかかるところも多いが、堀切店では無料でトッピングされている。
「卓上に置いているらあじゃんやラー油で味を変えながら、お客さんに自由に食べてほしいので、全体の味は若干あっさりめに仕上げています。昔に比べると、背油は少し多めに、麺はやや固めに仕上げるようになりましたね」(清水さん)
この2年ほどは、ネットで口コミを見た「ラーメンショップ」愛好家の来店も増えているそうだ。実際、Facebookのファンコミュニティー「ラーメンショップ同好会」はメンバー数1・8万人を超え、SNSにも「#ラーメンショップ」のタグがついた投稿が日々あふれている。
「たしかにここ数年の盛り上がりはすごく感じます。わざわざ遠方から来てくれている人も多くて、恐縮しちゃいますね。前にお客さんに聞かれて、全店舗のリストがないか本部にたずねたことがあるんだけど、“リストはないので、ざっくり300店舗ぐらいって答えてください”って(笑)。そういう謎の部分も含めて、情報を持ち寄って楽しむ文化ができたんでしょうね」(清水さん)
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各店舗を取材してまわり、「子どものころに食べたことのある、懐かしさ」という思い出こそ、昭和ラーメンチェーンのいちばんの強みかもしれないと感じた。実際に、各店舗のラーメンを食べて楽しい思い出をつくった子どもたちが、今は大人になり、今度は自分の子どもと一緒に各チェーンを訪れるといった好循環も生まれている。
ラーメンブームは激化し、こだわりの個人店も乱立する百家争鳴(ひゃっかそうめい)の時代。肩肘張らずに気軽に入ることができて、ホッとひと息つけるような味わいの昭和ラーメンチェーンが、いまあらためて求められている。人は故郷を離れても、故郷は人を離さない──ラーメンファンにとって、昭和ラーメンチェーンは懐かしの故郷のような存在なのかもしれない。
登場した店舗情報
スガキヤ イオンモール名古屋ノリタケガーデン店
愛知県名古屋市西区則武新町3丁目1番17号
イオンモール名古屋ノリタケガーデン3F
080-6993-9678
10:00〜21:00(LO20:30)
くるまやラーメン 奥戸店
東京都葛飾区奥戸6-5-4
03-3696-6158
11:00~翌2:00(L.O. 翌1:45)
定休日 毎週火曜日
どさん子ラーメン 下前津店
愛知県名古屋市中区橘1-11-4
052-324-6061
11:00~22:00(L.O. 21:50)
ラーメンショップ 堀切店
東京都葛飾区堀切7丁目3-1
03-3604-1556
7:00~15:00
定休日 毎週日曜・木曜/祝日
(取材・文/吉信 武)