「簡単にたどり着けない」場所がいい

 そんなふたりが望むのが実店舗をもつこと。アイテムが増え、実際に見てもらえる場所があったらいいと考えているという。

 里奈さんが言う。

「お店は最終的な集大成かな。わたしはカメレオンのように環境に合わせて自分の色を変えていくので、お店ができたらどんな色になるのか楽しみです。でも、どうなるかは流れに任せて。今までも流れに任せて、その都度、勘で判断してきたから。何かあったら、そのときに考えればいい。起こらないかもしれない未来を心配するのは杞憂(きゆう)でしかないですよね。

 ふたりとも同じで、今日までのことに反映されてるかな。持ち金0円になっても生きていく、みたいな感じで、わたしたちけっこう危険かも(笑)。わたしは行動は早いほうですけど、それ以上に慶くんは早いし悩まない。よくそんなに図太くいられるな、って思います。そこは尊敬するところではあるんです

撮影/伊藤和幸

 慶さんが言う。

お店の場所は、わざわざ来ないとたどり着かない場所がいいですね。巡り合わせだと思うので実際に店舗を探しているわけではないんですけど。きっかけをずーっと考えているのは事実です。気持ちいい場所で気負わない雰囲気が出せればね。ただ、接客が好きじゃないので、どうなのかな、とも思っています」

 軸にあるのは、「顔の見える相手に」「目の届く範囲のものづくり」。規模を大きくするつもりもないし、あちこちで買えるような量産品にするつもりもない。だからこそ、「その場所でしか買えないモノ」が大切で、お店を開くなら「簡単にたどり着けない」場所がいい。

 里奈さんが言う。

「その場所でしか買えない、は意図的ではないんです。ただ、それじゃないと『atelierBluebottle』で開発する意味がないから。いつも、こうしたら意味がない、ということを考えている。他にあるなら、うちで出す意味はないから

 慶さんは言う。

毎日ずーっとミシンを踏んでいても、毎日のように出来栄えが違う。完成品を単純に比べてもわからないんですけど、作る過程ですべてがスムーズに進むとか進まないとか。惰性で作ることはないですね、集中してないと失敗するんですよ。

 工芸品でも、職人のおじいちゃんが『今までに完璧なものは作ったことがない』と言うことがありますが、わかる気もするんです。まだ上達すると思うんでしょうね。不思議だなあ。僕のリュックは工芸品でもなんでもないんですけど、工芸品を作る気持ちで作っているんですよ

(取材・文/吉川亜香子)

《PROFILE》
辻岡 慶 TSUJIOKA Kei
辻岡里奈 TSUJIOKA Rina

夫婦ともに職人でありデザイナー。「顔の見える相手にバッグを作りたい」と2013年、登山ブランド『atelierBluebottle』をスタート。自分たちで企画デザインし、縫製販売までを行うのをモットーとしている。
https://www.atelierbluebottle.com