「なぜか売れるマトリョーシカ」が売れる瞬間

 では、ここで、マトリョーシカを買いにきたお客さんが、このマトリョーシカを選ぶ場面を、店員との会話で再現してみましょう。

客「えーと、マトリョーシカってありますか?」

店員「いらっしゃいませ、こちらにそろっています」

客「いろいろなマトリョーシカがあるんですね」

店員「どうぞ、お好きなものを」

客「人気のマトリョーシカってあるんですか?」

店員「それでしたら、このマトリョーシカがいちばん売れていますね」

客「えっ、これですか? 見たところ普通のマトリョーシカに見えますが……」

店員「一見はそうですよね。でも、この店で圧倒的に売上ナンバーワンのマトリョーシカなんです

客「不思議だな~、どうしてこのマトリョーシカだけそんなに売れるんですか?」

店員「実は、このマトリョーシカ、ロシアで最初につくられた、“元祖マトリョーシカ”と言われているものと同じデザインなんです」

客「えーーっ、そうなんですね! じゃあ、それいただけますか」

 いかがですか?

 このマトリョーシカが売れるときは、だいたい、こんな流れなのです。

 それまで、何の変哲もない……というより、ちょっと古くさいデザインにしか見えなかったマトリョーシカが、実は「元祖マトリョーシカと同じデザイン」だと知ったとたん、お客様のなかで急に「付加価値があるもの」に変わる→欲しくなる、というわけです。

消費者は、「○○がある商品」に強く惹かれる

 この消費者の行動は、次のたったひと言で説明できます。

「消費者は、『物語がある商品』に強く惹かれる」

 ある程度の「よいモノ」が、格安であふれかえる現代。

 そこそこの品質でオーケーなら、驚くほど安く、しかも簡単に望む品が手に入ります。

 そんな状況下で、多くの人は一部のハイブランド以外、モノ自体には、もうそれほどの興味を示さなくなってしまいました。

 では、何に興味を示すかというと……「物語」なんですね。