──著書『世界が仏教であふれだす』(集英社)の中で、ハロープロジェクト! の世界観を仏教に例えたりされていますが、周りから不謹慎という反応は出ませんでしたか?

「あまりなかったですね。学生時代には、ブッダのAIを考案したと書いた記事がバズったこともあるんです」

──どういう内容でしたか?

7000くらいあるすべてのお経をディープランニング(注:人工知能)すれば、擬似的にブッダの人格みたいなものが造れる“釈迦Alpha”という内容を書いたんです。うちの寺のブログがあったので、“そこに載せてもいい? ”って聞いたら、親が“この内容はうちのブログなんかに載せるのがもったいない。別の媒体に寄稿しなさい”って言ってくれたんです。そこで、『インターネット寺院・彼岸寺』というインターネット上のお寺を模したサイトに寄稿しました」

──反響はいかがでしたか。

「そうしたら、バズりすぎて寺のサーバーを落としたんです」

──それは見事ですね!

「寺を落としたぞ(笑)って。でも地域のお坊さんのLINEグループがあって、メンバーが80人くらいいるんですが、若いお坊さんがその記事を見つけてくれて、“稲田君がこういう記事を書いています”ってメッセージを送ってきた。既読79なのに、ノーコメントだったんですよ(笑)

寺は沈みゆく斜陽産業。生き残る手段とは?

──かつては、僧侶が表立った活動をされると檀家さんなどから批判されることもあったと思うのですが……。

「『フリースタイルな僧侶たち』(注:稲田さんが編集長を務めるフリーペーパー)が創刊された13年前はそういう空気だったそうです。“お坊さんは前に出るべきではない”って言われていた。でも今って、僕以外もそう。みんな必死なんですよ。寺は沈みゆく斜陽産業。業界だってそれを意識している。いろいろやってて当たり前という空気を檀家さんも持っているところは多いですね

編集長を務める『フリースタイルな僧侶たち』を手に

──寺を継がないという選択肢は考えたりしなかったのですか?

「歴史の中の一部であるのを選ぶのか。自分の人生を大事にするのか。僕は常に中間をとっている。どんなものに対しても、精いっぱい愛せる角度を見つける。そういう人生なんだと思います」

──今は、住職をされながら作家活動をしたり、ちょうどいいバランスなのでしょうか。

「なぜか今、漫画原作やキャラクター原案の依頼などもあり、もともとやってみたい仕事ができているのですが、計画を立てて動かなくても望んでいたものが叶った形なんです。希望を持っているとそういうチャンスに恵まれると思う。誰かが差し伸べてくれた手をつかんで、期待に応えていく」

──チャンスをつかむ方法ってあるんでしょうか。

「チャンスを見逃さないことですかね。そのためには幼少時の、一番古い記憶をたどることが大事だと思っています。そのとき好きだったものって、その人の初動を作っているから。純粋なその人の欲望というか願いが、何気ない日常の一瞬をチャンスとして見せてくれるんですよ」

 自然体に見えて、実に的確に世相を読む力。まさに今の時代に必要な能力を、稲田さんは生まれつき兼ね備えているのかもしれない。第2回では、つんく♂を始めとするジャパニーズカルチャーからみる仏教観について語ってもらった。

第2回《「ハロプロは大般若経」革新的僧侶・稲田ズイキ氏が考えるアイドルと仏教の共通点》はこちら

(取材・文/池守りぜね)

《PROFILE》
稲田ズイキ(いなだ・ずいき)
僧侶。1992年、京都久御山町の月仲山称名寺生まれで副住職。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、アーティストたかくらかずきとの共同プロジェクト「浄土開発機構」など、時々家出をしながら、多方面にわたり活動中。フリーペーパー『フリースタイルな僧侶たち』の編集長。