──これからの仕事については、どう考えられていますか?

仕事がずっとあるかは、わからないですけどね。(事務所を)独立すると頼まれたことを断れないので、さまざまな細かい仕事があって(※編集部注:2021年4月に個人事務所を設立)。今、それをこなしていくのが大変なので、何を受けるかを考えて、自分がやりたい夢に向かって整理していかなくちゃいけないと思うんです。

 今は、自分で映画を撮る準備をしているんです。資金集めからスタッフ集め、興行会社探しまですべてやりながら、脚本を書くための取材も続けてきました。シベリア抑留の話で、抑留者50万人の中にいた600人の女性のことを書いています。撮影は4年かかる予定で、春夏秋冬のシーンが必要なので、今年、春のシーンだけでも撮りたいと思っているんです。それから、7月と11月に『オフィス3〇〇』の舞台の演出の仕事があります。ただ、全部お金にならない仕事なんですね。だから、生活するために必要な仕事も受けなくちゃいけない。やりたいことは、なぜかお金にならないので、困ってますね(笑)

ひとつひとつの質問に真摯に答えてくださいました 撮影/伊藤和幸

ジュリーを見ると、気持ちが浮上します

──ご多忙ですけど、健康には気を使っていますか?

「黒柳徹子さんはいまだに10時間寝ているとか、長生きされている方は睡眠時間が長いって聞くので、たくさん寝たいと思うんですけど、やっぱり年を取ると5~6時間しか眠れないですよね。脳を活性化させるために寝ないとダメだけど、眠れないってことは、もうダメなのかなと思ったりして、不安ですけどね」

──イキイキと元気に生きていくために欠かせないと思うことは?

「やっぱり、憧れの人がいるとぜんぜん違うと思いますね。私は、ジュリー(沢田研二)のDVDとかYouTubeを見ると、ほんと気持ちが浮上しますから。悩んでいるときには、スターでも誰でもいいから、自分の好きな人を見る。最近は、カザフスタン出身の歌手で6オクターブ半の美声のディマシュ・クダイベルゲンという人の映像を見て、すごく癒やされてます。そういう恋心っていうか、憧れを持つっていうのは、いくつになっても必要だなと思いますね」

──ジュリー歴は長いんですか?

「小学校6年生のときから好きで、最初に買ったLPはザ・タイガースの『ヒューマン・ルネッサンス』でした。それで、バロック音楽が好きになり、その後ロックが好きになって、それからジャズが好きになり……。タイガースは、自分の音楽の大元を作ってくれた人たちなので。そのグループのボーカルの沢田研二さんが、ずっと今も現役でいてくれるっていうのは、本当にありがたいことだなって

──そういう人は心の支えでもありますよね。

ええ。離婚して寂しくて、事務所も独立して、本当にひとりになりましたから、本当に孤独で、毎日泣いていましたからね。そういう自分を支えるものがあったっていうのは、よかったなと思います。

 女性は人としゃべったり、愚痴をこぼしたりしてガス抜きする必要があるのに、コロナでそれを封じ込められてしまって。人と話すことで悩んでいるのは自分だけじゃないって確認していたと思うんですよ。それができないと、自分の中に入り込んで追い詰めてしまう。私もそうならないために演劇や歌をやっているので、ガス抜きとして『有頂天作家』の舞台を観ていただきたい。お客様が観てくださることで、こちらも生かされるのだと思います

(取材・文/井ノ口裕子)

《PROFILE》
わたなべ・えり 1955年1月5日、山形県出身。1978年に劇団2〇〇(その後劇団3〇〇に改名)を結成。小劇場ブームをけん引する。現在は「オフィス3〇〇」主宰。作・演出・出演の3役を担い、1983年『ゲゲゲのげ~逢魔が時に揺れるブランコ』で岸田國士戯曲賞、1987年『瞼の母―まだ見ぬ海からの手紙』で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞するなど、多くの話題作を発表。2004年『今昔桃太郎』、2009年『新版 舌切雀』では歌舞伎の作・演出も手がけた。舞台のみならず、ドラマ、映画、執筆活動など、各分野で活躍。近年、歌手活動にも精力的に取り組んでいる。2019年より日本劇作家協会会長。2021年4月には個人事務所を立ち上げ再スタートを切った。

●公演情報
《喜劇名作劇場》恋ぶみ屋一葉『有頂天作家』
作・演出:齋藤雅文
出演:渡辺えり キムラ緑子/大和田美帆 影山拓也(IMPACTors/ジャニーズJr.)春本由香 瀬戸摩純 長谷川純 宇梶剛士/渡辺 徹 ほか
日程・会場:【京都公演】2022年1月15日(土)~28日(金)南座 ※公演終了
【東京公演】2月1日(火)~15日(火)新橋演舞場
公演ホームページ https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/enbujo_202202/
チケットに関するお問い合わせ先/チケットホン松竹 0570-000-489