「アイドルになれば救済されるのではないか」と

──学歴の暴力を結成したいきさつを教えてください。

えも「私からメールで声をかけました。なつぴが《就活して、地元の愛知へ帰る》とツイートしていたので、“同じ東海地方だったら、一緒に活動できるな”って。私も京大を卒業して就職で岐阜へ戻るし。それに私も落ち込みやすい性格だったので、二人でアイドル活動をやれば、彼女も私ももっと楽しく生きていけるんじゃないか。どちらも救済されるかな、と考えて

「ふたりでライブアイドルになれば、救済されるのではないかと思った」と語る 撮影/吉村智樹

──アイドルを志した理由が「救済」だったのですか。えもさんはアイドルに憧れていたのですか。

えもアイドルに憧れる気持ちは、まったくなかったですね。京大にいたころ、大阪日本橋(にっぽんばし)のメイドカフェでバイトをしていました。そのとき、“オタクの人と話をするの、楽しいな”と感じて。オタクの男性って、かわいくって大好き。オタクの人たちと関われる場所が、アイドルが出演するライブハウスだったんです

「オタクの人と話がしたい」。それがライブのモチベーション 撮影/吉村智樹

──好みの男性がアイドルライブの会場にたくさんいたわけですね。

えも「そうそう。“ここが彼ら生息地だったのか!”って。かわいい生き物の群生を発見した、みたいな。しかもライブアイドルはチェキタイム(※)にお客さんとお話ができるシステムだと知って。そうなるともうアイドルになるしかないじゃないですか

(※)チェキタイム……インスタントカメラ「チェキ」で、ライブアイドルと一緒に撮影できる時間。約2分間の会話が可能となる。

──お客さんと話がしたくてアイドルを志したのですか。なつさんは、えもさんから「アイドル活動しよう」と誘われ、どう返事したのですか。

なつ「やるやる! って、二つ返事。夢破れて故郷に戻って就職し、さらに気持ちが落ちていたので。『やりたい』を越えて『やるしかない』気持ちでした

幸せになるために「ライブアイドルをやるしかない」と考えた 撮影/吉村智樹

高学歴だからこそ虐げられる現状をユニット名に

──それにしても、学歴の暴力とは豪快なユニット名ですね。どなたの命名ですか。

えも私です。初めから『学歴の暴力』ありき。学歴の暴力以外の候補はなかったです。単体の高学歴アイドルさんは、けっこういるんです。でも“東大&京大”のユニットはない。だったら学歴を武器にしようと

なつ「突然もらったメールも、はじめから《学歴の暴力、やりませんか?》だったね」

──学歴をこんなにプッシュしているグループアイドルは他にいないでしょうね。しかもネーミングに「怒り」を感じるのですが。

えも高学歴のせいで悲しい目に遭ってきた女子をたくさん見てきたので、鬱憤(うっぷん)がたまっていたのもあります。たとえば、同じ京大卒で同じ地元の女の子が“高学歴だ”という理由で結婚できなかったんです

『学歴の暴力』というユニット名には高学歴のせいで悲しい想いをしてきた人たちの怒りが込められていた 撮影/吉村智樹

──現代でもまだそういうことがあるのですね。

えも私自身も、まったく関連がない職場の仕事を“京大だったらできるでしょ”って押しつけられたリ。理不尽を感じた経験が多々ありました

──ある意味で学歴差別ですね。東大だったら、さらにありそうですね。

なつ「ありますね。飲食店でアルバイトをすると、外国人のお客さんが来たときに、“ほらほら東大。相手しろよ”とか。機械が壊れたとき、“おい東大。修理しろ”とかね。できるわけないですよ。それでできなかったら、“へえ、東大生なのにできないんだ~”ってバカにされる。だいたい“東大生なのにできないんだ”までがセットなんです。そこまでのくだりがあって向こうの人が気持ちよくなるっていう。めっちゃイラっとします

──キツいですね。

なつ「初対面の男性に大学名を聞かれ、“東大です”って答えたら、“あ、俺も東大。東京なんとか大学だけど”みたいなギャグが返ってくる。そのギャグ、何回言われたか。いや、面白くないから! そういうこまごましたイヤな経験は日常茶飯事です」

──『学歴の暴力』というユニット名にしたくなる気持ち、わかります。

ユニット名は言わば所信表明。「それ以外に候補はなかった」という 撮影/吉村智樹