──プライベートでほっとされるのはどんなときですか?
「いま0歳と4歳の子どもがいるので、やっぱり子どもたちといる時間ですね。大変ではありますし疲れますけど、楽しいです」
──お子さんが生まれたことで、作品作りに変化などはありましたか?
「子どもたちが楽しめるような作品に対して、なるほどなって思うことは多くなってきたし、教育的な観点でも何か面白いことを、多くの子どもたちと一緒にできたらいいなと思ったりすることはありますけど。自分が作っている作品の中身自体には影響はないかな」
人は誰しも突然、真っ暗な世界に行くことがありうる
──今後の作品で手がけたいテーマはどんなものですか?
「今回の『僕はまだ死んでない』もそうなんですけど、パラリンピック開会式をやらせてもらったり、ここのところ、いろいろなご縁があって。それまでも、障がいのあるアーティストと作品作りはしていたのですが、それは障がいがあるアーティストのためということでもなくて。将来、僕らはみんな必ず年をとって足が動かなくなったり、目が悪くなったりすることは間違いないわけだし、『僕はまだ死んでない』のようにある日突然、それがやってくることもあるし。
つまり今、健常な人でも潜在的にはいつなんどき、誰もが障がいを持つことは考えられるわけで。自分も含めて、そういうときに人生が途端に終わっちゃうみたいな気持ちになる社会はやっぱりよくないと思うし。できれば、そういうシステムを変えていくことが、演劇の力で手伝えることだなと思っているので、そういうアプローチは続けていきたいです」
──最後に、いま、ご自身の人生で大切にされていることは何でしょうか?
「最後にすごい速いボールの質問がきましたね(笑)……うまく伝えられるかどうかわからないですけど、チャレンジしてみます。
僕は、阪神淡路大震災で被災していまして。1995年、まさに今作の主人公みたいに、ある日突然に、です。そのとき僕は生き埋めになって、クラッシュ・シンドローム(※2)という病気になり、約2週間、集中治療室にいました。その後もリハビリを入れて3か月くらい病院に通っていたんですね。
(※2)編集部注:重量物の下敷きになって長時間身体を挟まれたとき、挫滅した筋肉から発生した毒性物質が救出による圧迫開放で血流に乗って全身に運ばれ、臓器に致命的な損害を及ぼし、死亡したり重篤な症状になること。
その経験をしたのは、もう30年くらい前なんですけど、それ自体が、僕の生き方とか作品に強く影響を与えているわけではないなと、ずっと思っているんです。でも、自分の中の人生観というか、大事にしている思いがあるとしたら、“人は誰しも突然、真っ暗な世界に行くことがありうる”ということだと思っていて。僕は“そんな真っ暗な世界に行くことはない”みたいな楽観的な生き方はできないですし、たとえ真っ暗な世界に行っても、そこからもう一回、明るい場所に出ることだってたくさんあるはず。そういう、ある日突然やってくる“人生の大きな転換”みたいなものを楽しめたらベストだなと思いますね」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
ウォーリー・きのした 1971年12月20日、東京都出身。’93年、神戸大学在学中に演劇活動を始め、劇団☆世界一団(現 sunday)を結成。全ての作品の作・演出を担当。戯曲家・演出家として、外部公演も数多く手がけ、役者の身体性に音楽と映像とを融合させた演出を特徴としている。また、言葉を発しないノンバーバルパフォーマンス集団「THE PRIGINAL TEMPO」のプロデュースにおいてはエジンバラ演劇祭にて五つ星を獲得するなど、海外で高い評価を得る。10か国以上の国際フェスティバルに招請され、演出家として韓国およびスロベニアでの国際共同製作も行う。2018年4月より「神戸アートビレッジセンター(KAVC)」舞台芸術プログラム・ディレクターに就任。最近の作品に、手塚治虫生誕90周年記念「MANGA Performance W3(ワンダースリー)」(‘17)、舞台「スタンディングオベーション」(’21)、「バクマン。」THE STAGE(’21)、「東京2020パラリンピック」開会式(’21)、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」(’15〜’21)など幅広いジャンルの演出を手がける。
原案・演出:ウォーリー木下
脚本:広田淳一
出演:矢田悠佑 上口耕平 中村静香/松澤一之・彩吹真央
日程・会場:2022年2月17日(木)~28日(月)銀座・博品館劇場
詳細はWEBサイトにて https://stagegate-vr.jp/
公式サイト
https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2022/bokumada2022/index.html
公式Twitter @bokumada2020