メンバー5人の関係性も変わった

──それまでも、連絡を取りあったり、頻繁に会ったりしていたのですか?

「いいえ。私たちはいつだって会えると思っていたから、ぜんぜん会おうとしなかったし、たまに個々で会って、ごはんを食べたりはしてたけど、5人で集合して会うってことを特別重要視していなかったので、16年の間も数回しか会ってなかったんです

──1年限定の再結成を振り返って、改めて思われることは?

「スタートはライブを数本やって、その収益を義援金として今一番困っているところに寄付できたらいいね、っていう話で始まったんですけど。いろいろな方の協力を得て、活動のベースが整って。ライブの規模を検討するなかで東京ドームっていうのが出てきて。そしたら赤字にならないためにドームをいっぱいにしなきゃねってことで、“テレビとかも出るか”とか。ライブは最初、東北と関東だけで考えていましたけど、“西のほうのファンに不公平だから、フェスだけ出る?”とか。徐々に広がっていった感じなんです。最終的にはNHK紅白歌合戦まで出ちゃって(笑)。

 あの年の再結成の活動は、なんか誰かに操られているみたいに、ストーリーが展開して、“どうなってるの?”って全員思っていたくらい、すごく大きくなっちゃって。でもおかげさまで、想像を超える額の義援金が集まったので、それはよかったと思ってます

──1年間の再結成の活動があって、メンバー5人とのその後の関係はどんなふうに変わりましたか?

5人くくりでもそうですけど、1対1の関係性も変わったと思いますね。今野(登茂子)さんと富田(京子)さんに関してはママ友っていうジャンルの感情がわいてきて、受験の話とか、お母さん同士の会話もできたりしますし。あっこちゃん(渡辺敦子)は音楽専門学校の副校長だし。かなちゃん(中山加奈子)は変わらずだけど。16年ぶりに会ったメンバーは、それぞれが今まではプリプリってグループの中のひとかけらだったのが、枠がなくなってその人の特徴が年月分、増幅されていて面白いです。それぞれ違う人生を生きている友達という感じですね

岸谷香さん 撮影/高梨俊浩

再結成を終え、母としての日常生活に戻って気づいたこと

──2月13日の「岸谷香感謝祭」のライブを拝見しました。香さんは変わらぬカッコよさだなと思いましたし、香さん自身の音楽をやれていることの幸せ感がとても感じられました。今、音楽制作やライブで大切にされていることはどんなことですか?

すごく嬉しい感想です。プリプリのころは、一生懸命に音楽をやっていたと思うし、私の人生は音楽しかなかったから、大きな意味で音楽がすべてだと思っていました。それが、プリプリ再結成後の活動っていうのは、お母さんの立場があっての活動なので、だから名前も岸谷香でやっていますし。アーティストとしての名前を変えたことは、私にとってはすごくいい選択だったなと思っていて。

 かと言って、過去の作品が自分のものじゃなくなるわけでもないし、奥居香やプリプリが全く関係ない人になるわけでもないし。ただ、今、岸谷香で歌っていることは自分にとって、今の気持ちや愛情ひとつ歌にするにも、例えばそれが、子どもへの気持ちや愛情だったりしても、岸谷香だったらいい。でも奥居香だと違うんだと思うんですよね。奥居香は恋の歌を歌ってないとダメでしょ、“彼氏ラブ”みたいな(笑)。それが奥居香だったと思うし。そういう意味では、すごく自分が楽にできる選択だったんだなって思ったりもします。

 私個人の考えとして、現役のミュージシャンっていうのは、求められようが求められまいが、今考えていることを音楽に乗せて発信するものだと思っているので。だから、ライブでも無理せずできる。それがありがたいなと思って。ファンのみなさんもそういう私を受け入れてくれて見に来てくれていると思うから。でも、冗談でポニーテールとかすると、すっごく喜んでもらえたりします(笑)」

──岸谷香としてのソロの活動を本格的に再スタートされるときは、決断や勇気が必要でしたか?

「またこれが、計画性がないっていうところの極致なんですけど、プリプリの再結成を計画性もなくやることになって。子どもを置いて仕事に出たり、しかも地方に行くとか、10年間隠居していたわけだから、そういうのも初めてだったので、ありえないと思っていたのが、周りのママ友たちの協力もあって、思いのほかできたんですよね。

 で、再結成の活動を終えて。紅白の翌日の1月1日から、息子の中学受験があったので、私はお母さんに戻ったんです。車で学校や塾へ送り迎えしたりする日常生活に戻ってしばらくしたら、“最近、なんか物足りない気がする”って思ったんですよね。それで、最近バカみたいに笑っていないかもって気づいて。よくよく考えたら、“去年はプリプリの再結成があって、音楽があって、メンバーがいて、バカみたいに笑ってたな~”って。なくなってみて、私は音楽をやってると楽しいんだって、思い出しちゃったんです。自分の今の日常生活は何も不満じゃないんだけど、音楽がないってことに気づいてしまったんですよ

──それでどうされたんですか?

でも、子どもの受験が終わるまでは責任をもって子育てはやろうと思って。去年は楽しかったなと思いながら、1年間はお迎えをしたり、必死になって願書を取りに行ったり、バタバタと子どものためのさまざまなことをやりながら過ごして。それで、志望校に無事に合格したので、“お疲れさん、よかったね”って。“あなたはここからスタート。これはゴールじゃなから、ここから頑張れ!”と息子にエールを送って。下の娘も小学校から付属に入れてたので、母としての役目は半分くらい終わったかなと思って。“お母さんは、あなたたちが部活やってるみたいに、音楽やりたいんだけど、いいかな?”って聞いたら、反抗期のそっけない感じで“どうぞ”って(笑)。それで、すぐにママ友でもあるレコード会社の親しいスタッフに、“音楽そろそろやろっかな~”って連絡して、再び現役ミュージシャンとしてのソロ活動が始まりました

岸谷香さん 撮影/高梨俊浩

──本格的なアーティスト活動を再開されて、母親業との両立は大変ではなかったですか?

「とにかく、少しずつ焦らずのんびりと。それもさほど計画性もなかったので、まあゆっくりやりましょうということで始まって、今に至るんですけど。本当にありがたいことに、“好きにやっていいよ”っていう環境だったので、子どもたちの成長と、母親の手の必要具合を考えながらやらせてもらってきました。

 子どもたちも今年、21歳と19歳になりますし、子どもって言っても半ば大人なので、物理的なところでは手は離れているので。結果、今一番、音楽を楽しめている状況ではあると思います。昔は音楽をやっている時間が日常だったのが、今は家事や母親としての時間が日常だから、音楽をやれている時間は私の日常じゃないんですよね。だからこそ特別な時間なんです。もう“飲みに行くぞ!”って感じで“ウワ! 今日は音楽やる日だ!”みたいな。そんなふうに音楽を考えられるようになって、なんだ最初から、もっとそう思っておけばよかったなって(笑)