「本当に戦車が走っている」SNSで知る若者たち
──なぜ若者はそんなにメディアリテラシーが高いのですか。
アレクサンドラ:ウクライナとロシアって深いつながりがあって、お互いの国に友達がいることも多いんです。だからウクライナにいる友達から、映像が送られてくることもあるんですよ。「見て。今、私の家の窓からの景色を映してる。男の人が走っていって、射殺された」って。それがロシア内で拡散されていっているんです。どこかのメディアが撮ったとされるニュースじゃなくて、実際にその場にいる友達からの情報だから、信じられるんじゃないかな。「本当に今、戦車が走っている」「本当に今、人が殺されているんだ」と知った若い人たちは危機感を感じて、必死に止めようとしています。
ブラス:あと、もともとロシアの中では、反プーチン派の若者が多いんです。若者はSNSで多くの情報を見て、欧米のいろいろな文化にも触れて「自由があるほうがいい」と考えている人もいる。「このプーチン独裁状態は嫌だ」と。
──今、ロシアの中で、若者を中心に反戦運動の熱は高まっているのでしょうか。
ブラス:高まっているけれども、そのぶん、どんどん規制がかかっています。例えば、プーチン大統領は今年3月、ロシア政府の説明に反する情報を拡散する人たちに対し、最大で「15年の懲役刑」を宣告する法案に署名しています。
また、今ロシアには死刑制度がないんですが、死刑を導入するべきだという話題が出ている、とも言われています。
──より一層、戦争反対の声を上げにくくなっている状態ということですか。
アレクサンドラ:そうですね、身の危険があるから。自分が死ぬかもしれない。
ブラス:今、反対運動の声をあげている人たちは、本当に命がけですよ。多分、私たちがロシアに行ったら、すぐにでも刑務所入りでしょうね。
アレクサンドラ:実際に、知り合いが送ってきた動画があるんです。ロシアにいる若い男の子が「戦争反対だ」って表明したら拘束されて、ボコボコにされて外に放置されたのを、その知り合いがタクシーを拾って助けてあげた。そのときの動画です。本当に身の危険を感じながら戦っているような状態です。
ブラス:ロシア第2の石油会社であるルクオイルが、ウクライナ侵攻を非難する声明を発表するなど、徐々に状況が変化しているのもわかります。同時に怖いのは、プーチンがかなり追い詰められているということ。この記事が出るころにはどうなっているかわかりませんが、追い詰められている人が核のボタンを握っていることが、いちばん恐ろしい。自国の国民もどんどん戦地に送り込んで、殺してしまっている。それに、これまでロシアの文化に興味を持ってくれていた人たちも、この状況で興味を持たなくなっていますよね。今のロシア政府は、国を守るどころか、ロシアを崩壊させにいっているんじゃないかって思いますよ。
アレクサンドラ:最近はロシア国内に食品が入らなくなってきているみたいです。ちょっとしたフルーツが入っているような食べ物でさえ、7000円くらいするんですよ。
──世界が「ロシア内の反戦運動を応援しますよ」という空気感をつくることで、ロシア在住の方々も反戦の声を上げやすくなり、政府も諦めざるをえない状況になるといいんじゃないかって私は思うんですけれども、それは難しいと思いますか。
アレクサンドラ:たとえ反戦運動をする人たちが増えたとしても、「反戦運動をしたらその場で殺してもいい」なんて許可が出てしまった場合は、声をあげられなくなってしまう。今は小学生でも檻(おり)の中に入れられるんです。小学生ですよ。毎日のように法律が激しく変わっている状態で、国民が反発すればするほど、もっと厳しくしてやるっていう状態。ロシア国内にいる人たちは、必死に自分なりにできることをやっているけれど、やっぱり厳しくなってきていると思います。私たちは日本にいるので頑張ろうと思っていますが、それでも怯(おび)えながらです。私たちだって怖いですよ。
ブラス:私もよく「ロシアに行って反戦活動をしろ」とメッセージをもらうんですが、ロシアの空港に降りた瞬間に逮捕されてしまう可能性がある。でも今、ロシアの中で徐々に反戦運動が高まってきてはいるので、そういう人たちを応援したいです。ただ、反戦運動をしてプーチンを追い詰めることによって、核のボタンを押されてしまうかもしれない、という恐れを忘れてはならない。
──どちらに転ぶか、わからないということですね。