サヨナラホームランを打たれたときに見せた、意外な姿
新庄さんが、プロ野球全体の未来を考えているということが垣間見られるエピソード。
最後は、3月13日に行われた、対広島カープとのオープン戦で見せた、ある姿です。
試合は、0対0のまま9回裏、広島の攻撃。ここで、広島の選手がサヨナラホームランを放ちます。
いくらオープン戦とはいえ、自分のチームがサヨナラ負けをすれば、悔しそうな顔をしてもしかるべきところ。
しかし新庄さんは、ホームランを打たれた瞬間にベンチを飛び出し、サヨナラ弾を放った相手選手に対して両手をあげて拍手を送ったのです。
まるで、「劇的なサヨナラホームランをありがとう!」とでも言っているような姿。
そして続けて、勝利に歓喜する広島ファンの観客席に向かっても拍手を送る。
そんな姿を見せられた広島ファンから、今度は新庄さんと日本ハムの選手たちへと拍手が起こりました。
こんな場面、私は初めて見ました。
新庄さんは試合後に、「打たれたのは、自分がフォークボールを投げろと言ったせい。それがあまり落ちなかった」とピッチャーをかばい、ふたたびサヨナラホームランを打った広島の選手を讃えるコメントをしています。
その表情は笑顔。新庄さんは、かねがね「強いチームの選手は悔しい負け方をしても、気持ちの切り替えが速い」と言っていて、そのことを選手たちに伝えるかのような表情でした。
もっとも重視する目標を、「優勝を目指して勝つこと」から、「ファンに喜んでもらう。笑顔になってもらう」に変えた瞬間。新庄さんが目指す、新しいプロ野球の姿が見えてくるのかもしれません。
今シーズンの日本ハムは、シーズンを終えたとき、その順位とは関係なく、「あの年、日本ハムから日本のプロ野球のマインドは変わったんだよな」と言われるのではないか……という気がします。
(文/西沢泰生)