若い人に震災を知ってほしいと思い書いた『海神』
──単行本最新刊の『海神(わだつみ)』(光文社、2021年)は、東日本大震災がもとになっていますね。
「そうですね。被災地で起こる復興支援金詐欺事件の話です。実はこの小説は、途中で書くのをやめようか悩みました。この小説が完成したところで、誰か救われるのだろうかという葛藤があったんです。
そのような時、今の若者の中には東日本大震災についてあまり知らない人もいることを知りました。震災時に生まれていない子はもちろん、その頃にまだ子どもだった人はあまり覚えていないんです。
震災時に取材をしていた記者から聞いた話だと、被災地では取材をする人もつらいということ。取材をしている場合ではないと嫌われることもあったそうです。ただこのことを後世に残さなければいけない。そのためには嫌がられても、自分たちが記録を残さなければという気持ちで続けたという言葉に勇気づけられました。
私の小説で若い人に少しでも震災のことを知ってもらえればという思いで、最後まで書くことができました」
──『正体』についてももとになるお話があったのですか?
「小説は未成年死刑囚が脱獄、逃亡する話です。書くきっかけになったのは、未成年でも死刑になることがあると知ったことでした。さらに世の中には冤罪(えんざい)事件が実はたくさんあり、罪を犯していないのに犯人にされてしまう人もいる。そのような理不尽さを小説で訴えたかったんです。イメージを膨らませるきっかけになったのは、警察署から逃走して自転車で日本一周を目指した容疑者でした」
──ドラマでは亀梨和也さん演じる逃亡犯は、未成年ではなかったですね。
「映像化についてはお任せしていたのでのですが、実際に見て主人公の年代が変わっていても違和感なくドラマになっていると感じました。ドラマのストーリーは小説とは異なる部分もあり、原作ファンには賛否両論だったようです。
実は小説でも2パターン結末を考えていて、ドラマの結末は小説では使われなかった結末に近いものでした。そのため私自身はドラマの結末もよかったなと思いました。
実は亀梨さんとは昔から勝手に縁があるような気がしていて……。ジャニーズのグループに所属していた元メンバーの兄弟と昔から知り合いで、プライベートでも仕事でも一緒になる機会がありました。そのため以前からなんとなく応援していて、苦労も多かったからか年齢を重ねるごとに哀愁が漂ってきた亀梨さんに注目していたんです。今回の脱獄犯という役と、今の亀梨さんの哀愁がすごくハマっているなと思いました」