今後も“追い詰められた時の自分”に期待
──今後はどのような作品を書いていきたいですか?
「最近まで月刊誌『小説推理』(双葉社)で『鎮魂』という小説を連載していましたが、こちらは半グレ組織を題材にした少し裏の世界のお話です。今までも私の小説では詐欺や脱獄、オレオレ詐欺、不正受給など、犯罪が絡むストーリーが多かったと思います。
特にミステリーというジャンルにこだわっているわけではなく、先ほども言ったように根底は人の考え方や感じ方を書くことが好きです。なので、ユーモアがあったり、もう少しハッピーエンドだったり、家族愛だったりと、今までと少し違ったジャンルのものも書いてみたいですね。でも恋愛ものはちょっと無理かもしれません(笑)。
これまで作品ごとに扱うテーマは違っても、私が世の中に対して“どうなの?”と思うことを、小説を通してプレゼンしてきました。私はこう思っているけれど、みんなはどうなのだろうと。もちろんそれに対して共感する人もいれば、合わない人もいると思いますが、それは構いません。今後も自分が“どうなの?”と思うことのプレゼンは続けていきたいです」
──かかってくる電話から逃れたくてなった作家ですが、理想の生活は送れていますか?
「昔に比べて、仕事での人間関係のストレスはなくなったと思います。電話もめったに鳴りませんし、時間が拘束されることもほとんどない。小説を書く時以外は、好きな時間に起きて、散歩して、昼寝してと気ままな生活を送っています。それでお金がもらえるのですから、ありがたいです。書けなくて苦しい時もありますが、SNSを通していただく“楽しみにしている”などのメッセージが、非常に励みになっています。
だけどぜいたくな悩みで、自由なぶん、つらい時もあります。ひとりになりたくて作家になったのに、やっぱり社会と関わりを持ちたいと思ってしまうことも。作家になることが夢だったわけではないので、本当は今でもサッカー選手になりたいです(笑)」
──今後も作家を続けていけそうですか?
「読者に求められて、私が書くことができれば、続けていきたいと思います。でもそうでなければ意外とスッと辞めてしまいそうな気も。すがっても仕方ないし、執着もありません。
今までも仕事については、辞めてはなりゆきでいろいろなことを続けてきました。だから、もし作家はもう無理かもと追い詰められた時に、今度は自分が何をしようと思うのか。それをちょっと楽しみにしている自分もいるんです」
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まだまだ自分の今後が楽しみで仕方ない染井為人さん。これからどのような作品を私たちに届けてくれるか、楽しみですね。
(取材・文/酒井明子)
《PROFILE》
染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台などのプロデューサーを務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し小説家デビュー。『正体』(光文社)が、読書メーター注目本ランキング1位を獲得し、WOWOWの連続ドラマで映像化された。他の著書に『正義の申し子』『震える天秤』(ともにKADOKAWA)『海神』(光文社)などがある。