一流ホテルのロビーでまさかの展開に
私を乗せたバスとスタッフ用のバスは、ホテルの入口に横づけし、例によって大量の機材(ジュラルミンケース)をバスの荷台からホテルのロビーへと運び込みました。
たくさんの機材のまわりに大勢のスタッフたちがいて、旅の世話役である旅行会社の方が、フロントで宿泊手続きをしていました。
私はと言えば、挑戦者が自分1人になってしまったこともあり、ロビーのイスに腰かけて、「ついにニューヨークにきたんだ~」なんて感慨に浸っていたと思います(いつものウルトラクイズなら、決勝に勝ち残ったもう1人の挑戦者がいたのでしょうが、第10回のみ途中で挑戦者を2組に分けて、最後に南米ルートのチャンピオンと北米ルートのチャンピオンがニューヨークで決戦をするというルールだったため、ひとりぼっちだったのです)。
事件が起こったのは、そのときのことでした。
1人のカメラマンがこう言いだしたのです。
「俺のカメラ知らない?」
カメラと言っても、もちろん普通のカメラではありません。テレビ撮影用の肩にかつぐタイプの代物。
大人でも「よっこらしょっと」と持ち上げるような大きなものです。それが、ほんの少し目を離したスキに、どこかへいってしまったと……。
場所は一流ホテルのロビーです。そして、まわりはスタッフだらけ。そんな状況なのに、バカでかいカメラが消え失せてしまったのです。
しかも、ナイアガラでの本番を終えて、その足でニューヨーク入りしたばかり。
もしや、本番を撮影したビデオテープが入ったままなのでは!
真っ青になりながら、まわりのスタッフに聞いてまわるカメラマン。
聞かれたスタッフも「ウソでしょ!?」「ビデオは?」と焦った声を出します。
誰もカメラのゆくえを知らず、これはどうやら本当に盗まれたということがわかり、それまでチェックインの手続きをしていた旅行会社の方も、警察への連絡などに追われることとなりました。
幸い、本番を収録したビデオはすでに抜き取っていて無事でした。
これがもし、ビデオごと盗まれていたら、第10回の北米ルートの準決勝をおさめたビデオはハドソン川のもくずとなり、その編集内容は大幅に変わっていたかもしれません。
高校1年生のときに、第2回ウルトラクイズを見て以来、憧れ続けてきたニューヨーク。その初日に起こったこの事件は、私にとっては鮮烈な印象となり、「生き馬の目を抜く(油断がならない)大都会、ニューヨーク」として、今でもよく覚えています。
蛇足ですが、旅行会社の方は盗難事件の処理に追われて、当然、私の夕食のお世話どころではなくなりました。
「部屋で待っててね。処理が終わったら街に食べに行こう」
とか言われてずっと待っていたものの、結局、夜中の12時近くになってから、「ごめんごめん」と部屋にやってきた旅行会社の方と、ルームサービスで済ませることになったのでした。
(文/西沢泰生)