銭湯は“サイレントコミュニケーション”が成立する場所

──加藤さんはもともと銭湯が好きだったのですか?

僕は山形出身ですが、物心ついた時から銭湯に通っているので、銭湯歴が30年以上になります。地元は各市町村に温泉が湧いていて、銭湯もたくさんあったんです。そのため、上京してからも自然に銭湯に通い始めました」

──銭湯には、加藤さんのような若い世代もいましたか? 銭湯の魅力って、どういうところでしょうか。

最近は若者が多いように感じます。銭湯はどんな時でも自分を受け入れてくれる存在なんだと思います。疲れているときも、つらいときも、温かいお湯で迎えてくれる。あとは、直接会話をしなくてもつながりを感じられる“サイレントコミュニケーション”が成立しているんです。ひとりでいたいけど、誰かとつながっていたい、そんな気持ちにも応えてくれる

加藤優一さん 撮影/矢島泰輔

──第1弾の平松さんのお話では、小杉湯は土日の利用者が800人で、平日は400人くらいということで、1日に同じ場所に訪れる人がそれだけいると思うと、すごい集客数ですよね。

同じ場所を使っていますが、時間ごとに利用者の属性は変わっていきます。夕方は常連や高齢の方が中心で、深夜になるとサラリーマンや学生が増えてくる。顔の見える関係性を通して、その地域を感じられるのは面白いですね。若い人は、地域とのつながりを感じたくて銭湯にハマっている面もあると思います」

──最近の銭湯ブームは、20代や30代という若い世代に刺さっていると思いますか?

「そうですね。お客さんの中にはワーカホリック気味な人が多い気がします。休みを作らないで、詰め込んでしまう。だから、1日1回はデジタルデトックス(一定期間スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスとの距離を置くこと)をしたほうがいい。それは家風呂だとなかなかできない。日常の中に余白を作るっていうのは、銭湯ならではだと思うんです

──確かに、銭湯はだいたい生活圏内にありまからね。

「平松は“小杉湯のライバルはスターバックス”って言っているんです。入浴料(480円)とコーヒー1杯と比べると同じくらい。スタバのようなサードプレイスを目指しています」

──なるほど、すごくよくわかります。

東京だと特に、ご近所づきあいが少なくなっていますが、銭湯ってほどよいご近所づきあいができる。SNSの逆で、“名前は知らないけれど、顔は知っている”っていう関係性なんです。小杉湯では、『パパママ銭湯』という子連れで銭湯に入れるイベントもやっているのですが、小さいうちからおじいさんやおばあさんの裸って見たほうがいいって思うんですよ。“人間ってこうやって年を取るのだな……”って実感できるし。銭湯って、いろんな人がいるなって学べる場所でもあるんです

──では、最後におすすめの入浴法ってありますか?

僕は、小杉湯では“交互浴”という熱い風呂と冷たい風呂を交互に入る入り方をしています。最初に、ジェット風呂で身体をほぐしてから水風呂に。そしてまた強いジェット風呂につかってから、熱湯に入る。そして最後に水風呂でしめて上がります。これを5年間続けていますね

──代謝がよくなって風邪をひかなくなったりしましたか?

「いや、風邪はひきました(笑)。実は、風呂に入ってから飲みに行っていたんです。それからは、お風呂上がりに飲みに行かないって決めました」

  ◇   ◇   ◇  

 銭湯を中心としたコミュニティ。近所でほっこりできる場所が見つかったら、ちょっと幸せな気分になれそうです。電車を使うような外出をしなくても、日常生活の中で楽しいことはたくさんあるはず。半径3キロメートルで、また探しに行きましょう。

(取材・文/池守りぜね)

〈PROFILE〉
加藤優一(かとう・ゆういち)
建築家、 株式会社銭湯ぐらし代表取締役、一般社団法人最上のくらし舎代表理事、OpenA+公共R不動産。1987年山形生まれ。東北大学博士課程満期退学。建築・都市の企画・設計・運営・執筆等を通して、地方都市や公共空間の再生に携わる。近作に「佐賀城公園エリアリノベーション」(デザイン監修)、「SAGA FURUYU CAMP」(設計)、「万場町のくらし」(設計・運営)、「小杉湯となり」(企画・設計協力・運営)など。近著に『テンポラリーアーキテクチャー』『CREATIVE LOCAL』(ともに共著、学芸出版社刊)など。