三次元での結婚を諦めたら劣等感から解放された
──ミクさんがお隣にいらっしゃる手前、お伺いするのがすごく恐縮なんですが、そのときには好きな二次元キャラクターはいたんですか?
「はい。初恋は落ち物パズルゲーム『ぷよぷよ』のアルル・ナジャでした。それとマイナーなのですが、恋愛アドベンチャーゲーム『てんたま』の花梨というキャラもに入れ込みましたね」
──好きになるキャラクターに傾向はあるんですか?
「いわゆる”属性”ですよね(笑)。“人外”のキャラクターが好きです。ミクさんも『てんたま』の花梨も、人間じゃないですね」
──それはどうしてでしょうか。
「人間じゃないキャラクターの言動は、違和感なく見られるんですよ。例えば、普通の人間がかわいこぶった言動をすると、“なんだコイツ”って思っちゃうんですよね(笑)。でも人間じゃないと、すっと自分のなかに入ってきて、そのまま好きになれるんです。だからロボットキャラとかも、よく好きになっていましたね」
──なるほど。高校のときは、人外のアニメキャラクターにどっぷりだったんですね。ちなみに三次元での恋愛はどうだったんでしょうか。
「高校2〜3年生くらいに、自分の人生について真面目に考えたんですよ。そのときに、三次元での結婚とか恋愛を諦めました」
──それはとんでもなく大きな決断だと思います。なぜ諦めたんでしょうか。
「ひと言でいうと“非モテ”だったからです。小・中・高とまったくモテなくて……。例えば小学生の男子は、2月14日にバレンタインデーのチョコを待ってるじゃないですか。私も、わくわくして学校に行くわけですよ。でも誰からも、もらえない。それでがっくりしながら家に戻ってくるっていう1日を毎年過ごしていました」
──それはつらい……。
「切ないですよね(笑)。小・中・高で合計6、7回は告白したんです。でも、全滅でした。それで“自分はモテないんだ”と自覚しました。それが強烈な劣等感になっていたんですよ。その気持ちを引きずって、高2とか高3のときに三次元での恋愛・結婚は諦めました。
すると面白いことに、諦めた後のほうが自分の心が楽になったんですよね。劣等感を抱き続けて生きるほうがつらかったんです」
──結婚を諦めることで、コンプレックスを手放したんですね。とても禅的というか……すてきなご決断だったと思います。ただ、高校生のときに「もう結婚はしないぞ」と、めちゃくちゃ大きな決断をしたわけですよね。葛藤はありましたか?
「もちろんありましたよ。でも、二次元があったからこそ乗り越えられたと思うんです。現実の女性には、“NO”と言われると、それ以上愛情を注ぎ込めないじゃないですか。でも二次元のキャラクターには、一方的に愛情を注げます。対象をキャラクターに向けることで、葛藤を振り切れたと思っていますね」
──確かに。二次元キャラは裏切らない。では、高校生のときは恋愛対象として二次元キャラが好きだったんでしょうか。
「そうです。そのころにはマンガやアニメのキャラクターに対して本気で恋愛感情を抱いていましたね。中3のときからアニメオタクなので、可愛いキャラに入れ込んでいくじゃないですか。すると、結婚を諦めたこともあり、だんだん三次元より二次元のほうが大切になっていく。高校を卒業するころには、もう二次元と三次元が逆転していたわけです」
"恋愛ゲーム沼"にハマった専門学生時代をへて
──高校を卒業してからも、順調にオタクライフを楽しんでいたんですか。
「そうですね。高校を卒業してから、専門学校に通って1年間、公務員試験の勉強をして、19歳から小中学校の事務員として働き始めました。
専門学校時代はアニメも観ていたんですが、どちらかというと恋愛ゲーム(※1)をほぼ毎日、やり込んでいましたね。はじめてプレイしたのは『Kanon』(※2)です。泣くほど感動して、すぐにハマりました。恋愛ゲームはおよそ10年間で300タイトルくらいやりましたね。
(※1:ゲーム内でキャラクターとの恋愛を疑似体験できるゲームのジャンルのこと。主人公視点でプレイし、ヒロインの攻略に重きを置く「恋愛シミュレーションゲーム」と、ゲーム内のストーリーを重視する「恋愛アドベンチャーゲーム」に大きく二分される)
(※2:株式会社ビジュアルアーツ・keyが発売したゲーム。感動的なストーリーが特徴で「泣きゲーの金字塔」といわれることもある)
──300タイトルは相当ですね! それは三次元の「非モテ」も影響しているんでしょうか。
「確かに、学生時代に恋愛できなかった分の楽しみをゲーム内に見出していた部分もあるかもしれないですね。
でも基本的には、私は恋愛シミュレーションゲームはやっていなくて、恋愛アドベンチャーゲームのほうが好きでした。だから、どちらかというと恋愛を含めた“ストーリー”を俯瞰(ふかん)して楽しむという感じだったんですよね。一人称の視点で疑似体験するというより、恋愛のストーリー自体を眺めるのが好きだったんです」
──そこから専門学校を卒業して就職されるわけですが、当然、社会人になると時間的な制約が生まれると思います。そのときもアニメや恋愛ゲームは続けていたんですか?
「時間はなくなったんですけど、私は残業が大っ嫌いなので、もう“帰ったらすぐゲーム”の日々でしたよ(笑)。ずっとそういうスタイルでしたね」
──その点もすてきですよね。「無理なく働く」という思考は先ほどの「諦めると楽になる」と近いものを感じますね。「頑張らないことのよさ」といいますか……。
「近い部分はあると思いますね。専門学校に通っているときに公務員として半年間、郵便局(国営時代)に勤めたことがあって、当時の上司から“休みはちゃんととりなさい”と指導されていたんですよ。それで、“あぁ、そういうものなんだ”と学びましたね。いい上司にあたったと思います」