「無意識のウソ」は、大人になってからもついている

 コーチングのプロフェッショナルでリーダー育成家の林健太郎さんによると、この無意識のウソは、多くの人が子どものころだけでなく、大人になっても言い続けてしまっているのだそうです。

 例えば、上司がある部下のことを称して、「あいつはこの仕事、絶対に失敗する」と言ったとします。

 そう言っているとき、その上司は自分の言葉を真実だと思ってしゃべっています。

 しかし、ここで林さんが、その上司に対して「それは本当に本当ですか? 彼は100パーセント確実に、絶対にこの仕事を失敗しますか?」とツッコむと、多くの上司は急に自信がなくなって、「いや、まあ、100パーセント失敗するとまでは言わないけど……」とトーンダウンするそうです。

 聞き返すことで、実は結構、いいかげんな先入観で言い切っているのだということがわかるのです。

 さらに、林さんによると、こうした自分でも気がつかないウソは、自分自身に関することでも言ってしまっているとのこと。

 例を挙げると、こんなつぶやきです。

「私は細かい仕事が苦手なんで……」
「私は数字に弱いので……」
「私は本番に弱いので……」

 林さんは、コーチングのクライアントがそんなつぶやきをしているのを聞くと、決して聞き逃さずに、すかさずこう聞くといいます。

「それって、本当ですか?」

 すると相手は、今まで聞き返されたことなんてないので、あせって答えます。

「えっ? いや、ずっとそうなんで……」

「ずっとって、いつからですか? そう思う根拠は?」

 そうやって問い詰めると、子どものころにたった1度失敗したことが記憶に残っているだけだったり、学校の先生からひと言、「○○さんは、〜ですね」って言われたことで思い込んでいるだけだったりするのです。

 要は、本人の思い込みや思いすごしであることが少なくないのだとか。

 たしかに、「自分はアバウトな性格なんで」と言っている人が、時間に細かくて、納期をきっちり守るタイプ……なんていうこと、よくあります。自分のことって、自分がいちばんわかっていないものです。

 そうした「思い込みや思いすごしによる、自分自身に関するウソ」が、自分の考えや行動を委縮させているとしたら、もったいない話だと思いませんか?

 人間は、自分で気がつかないウソを言うものだと自覚し、他人に対してはもちろん、自分に対しても、否定的な言葉が出てきたときは、「それって本当?」と自問自答してみる。

 そうすると、「意外とそうでもないかも……」ということに気がつけるかもしれません。

(取材・文/西沢泰生)

【参考『優れたリーダーは、なぜ傾聴力を磨くのか?』林健太郎著/三笠書房刊】