「熊本城と阿蘇は傷つきましたが、くまモンは元気です」

 くまモンは知事の話をじっと聴きながら、ときおりうなずいたり、当時を思い出すかのような表情を浮かべたりしている。

フムフム、と熱心に蒲島県知事のお話を聴くくまモン

 その後、知事は「熊本には3つの宝があります。熊本城、阿蘇、そしてくまモンです。熊本城と阿蘇は傷つきましたが、くまモンは元気です」というメッセージを全国に発信しつづけた。このメッセージに泣いたくまモンファンは多い。当時、アンテナショップ「東京・銀座熊本館」には連日、多くの人々が長い列を作っていた。商品を購入したり寄付をしたりするためだ。商品が少なくなっても人の列は途切れなかった。そのお礼にとくまモンがやってきたときは、ファンならずとも大歓声が上がった。

「くまモンがいたことで、熊本をより身近に感じて応援してもらえたのだと思っています。そのあとは、くまモンを復興のシンボルとして私たちもがんばってきたし、支援の輪も全国に広がっていった。熊本地震は非常に厳しい経験でしたし、今も復興半ばではありますが、この6年を通して、くまモンがかけがえのない存在になっていることを強く感じました

 その後、くまモンは全国すべての都道府県に、知事名代としてお礼のため出向いた。知事は「私が行くより喜ばれる」と相好を崩す。

 地震からの復興の見通しがある程度たった一昨年、今度は豪雨で熊本県南部の人吉・球磨地域が被災した。このときもくまモンは「自分に何ができるだろう」と考え続けた。そして被災から1年後の2021年7月、「くまモンの『みんなサンくま』プロジェクト」を自らプロデュースしたのだ。列車の運行が再開できず、利用されていないJR人吉駅のホームで開催されたステージでは、ドラマーとして見事なスティックさばきも見せてくれた。思い出したのか、思わずドラムをたたく仕草をするくまモン。

「ミュージックフェスティバルやスタンプラリー、さらには球磨川のHASSENBA(※)でのステージや、人吉ゆかりの作曲家にちなんで古い蓄音機で当時のSP盤レコードを聴く会など、さまざまなイベントを企画してくれました。くまモンはどんな困難な状況にあるときでも、自分にできることを考え、実行してくれます。そして時に、私の想像を超える結果を生み出してくれる。熊本県の営業部長兼しあわせ部長として、常に『皿を割れ』の精神を体現してくれている存在なんです

(※ HASSENBA……2020年の豪雨災害を乗り越え、100年以上の歴史を誇る人吉球磨の観光のシンボル「球磨川くだり」人吉発船場をHASSENBAとしてリニューアル。川下りやラフティングの観光案内をはじめ、カフェや物産なども楽しめる複合施設となった)

「皿を割れ」とは、知事が常に県庁職員に伝えていることだ。皿をたくさん洗う人は割る数も多い。皿を割ってもいいから思い切りチャレンジしなさいという教えである。くまモンがいちばん皿を割っているかもしれないね、と知事は笑った。