変わらぬ会社の態度に、ついに心が折れた

森本修代さんと会社との軋轢(あつれき)はさらに加速していき……

 そして彼女は、夜勤専門の部署に異動になった。明らかな嫌がらせである。異動先の部署が配慮してくれ、夜勤は週の半分になった。

 本を出す出さないで、その後ももめた。どうしても出すなら「うちの会社は関係ない」と入れてくれ、と言われたため、彼女はあとがきに「すべての責任は私個人にあり、熊本日日新聞社は関係ない」と明記している。

「この本を出さなかったら私は一生、後悔する。上司に、出していいとかいけないという権限はないはずですから」

 それなのに彼女は懲戒処分を受けた。デスクを通さないものは出してはいけない、デスクは記者を守るために存在するのだから、というのが会社の言い分だった。だが森本さんは、自分の責任で本を書き、自分が矢面に立っているのだ。記者を守るというなら、「うちの記者がいい本を出しました」とバックアップすべきだろう。緻密な取材と、あらゆる角度から見た公平公正な分析は、まさに新聞記者の王道である。

 その後、森本さんは疲れ果てて約1か月休職し、心療内科に通った。どうしても納得がいかず、労働基準監督署へも足を運んだ。休日に取材をして書いた本が、会社の業務に支障をきたしたなら(例えば、ヘイト本を出版したなど)問題だが、この場合はなんら問題を認めないと伝えられた。弁護士には、「記者が本を出して処分なんて聞いたことがない。新聞社は自分で自分の首を絞めているようなもの」と言われたそうだ。

 労働基準監督署が法に基づいて会社に説明することとなり、どこに処分の根拠があるのかなどを、森本さんも含めてメールでやりとりした経緯もある。だが結局、会社は「回答しない」と結論を出した。裁判を起こしたら勝てると言われたが、森本さんの心は折れた。

「そのあとも原稿依頼が来たり、ラジオで私の本を紹介してもらえることになって呼ばれたりしました。そのたびに会社に報告していたんですが、今度は口頭で厳重注意を受けた。当時、月刊誌『Journalism(ジャーナリズム)』に寄稿する機会があったんです。原稿を会社がチェックし終わったあと、“後ろから弾が飛んできたこともある”という一文を足しました」

 森本さんの「抵抗」である。