中国のお母さんがかけてくれた言葉
タナカくんが逝ってからしばらく行くことができなかった。行くといろんなことを思い出して、泣いてしまうのが怖くって。
夏もそろそろ終わろうかというある日の夜。お店の前を歩いていたら、お客さまを送り出すため、外に出てきたお母さんにばったり会った。
「おにいちゃん、ひさしぶり。今日はひとり? おとうとは?」
ボクはようよう、半年前に死んじゃったんだって答えます。
しょんぼりするボクの肩にやさしく手をおき、「さみしかったネ……、かなしいネ」ってお母さんは言う。いつもお店の外でつかまると、食べていきなさいってしつこいぐらい情熱的に誘うお母さんが、その日にかぎって、ぽんと背中を軽くたたいて、「元気が出るまで待ってるからネ」って言って手をふり、さようなら。
それから2ヶ月くらいかかりましたか……。衣替えでタナカくんがよく着てたカーディガンを出したついでにお店に行った。「元気になった?」といつもの席にボクを座らせ、「そのカーディガン、おとうとのでしょう……、似合ってたね」って言うから、やっぱりちょっと泣いちゃった。
近所になじみのお店があってくれるシアワセ。お店の人にずっと見守ってもらっていたんだ……、ってそのとき思った。
ありがたい。
東京都新宿区四谷3-13 大高ビル 1F
営業時間:11:00~21:00
電話:03-3356-2827
*次回「【サカキシンイチロウさんが綴るパートナーとのおいしい記憶#5】いまも思い出す、料理によろこぶ彼の横顔」は明日(8月12日11時)公開予定です。
《PROFILE》
さかき・しんいちろう 1960年、愛媛県松山市生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、店と客をつなぐコンサルタントとして1000社にものぼる地域一番飲食店を育成。現在は、飲食店経営のみならず、「食」全般にわたるプロデュースやアドバイスも手がけている。「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載をまとめた『おいしい店とのつきあい方。』(角川文庫)など、著書多数。ブログ、FB、note等を毎日更新。食べることの楽しみを発信している。