今は「お芝居がうまくなりたい」。目の前にはいつも舞台がある
──さまざまなことを全力でやってきた中で、これからも続けられたいことってありますか?
「今はもう、お芝居がうまくなりたいっていうことだけ。本当にそれだけですね。5年後、10年後もそういう気持ちで悶々としながら、お芝居をやっているんだろうなと思います。多くのことをやってきましたけど結局、続くのはお芝居だなあって気づいて。“いろんな世界が見たい”っていう自分の根本的な欲望が、演劇を通してかなえられているんだなっていう思いがありますね」
──ご自身の演劇キャリアのスタートである“劇研メソッド”(インタビュー第1弾参照)を学ばれていたころと現在とで、表現の仕方や心構えなど、変わっている部分はありますか。
「劇研メソッドしか知らずに、テレビ番組に出た時期があったんですよ。そこで気づいたんですが、距離感がむちゃくちゃなんですよね。“すぐ隣にいる人間に、どうしてそんなに大きな声を出すんだ”っていう(笑)。
ほかにも、自分の何がまずいのかということは、やっぱり経験を積みながら、少しずつしか気づけないことだなと。本当に最近なんですけど、今のままじゃダメだ、成長したいと思って、メソッド演技法(役柄の内面に迫り、感情を追体験することなどによって、よりリアルな演技・表現を行う演技法)のワークショップにも行ったりしたんですよ。自分の外側に現れる“表現だけをどうこうするようなお芝居の作り方”に限界を感じていたんです。
今回の舞台(『ザ・ウェルキン』)も、もっと自分が感じることで(観客に)“届ける”ということをしなくちゃいけないな、と。私は劇研で、“どんなふうに大胆に作って面白みを出すか”という、外側を考える作り方をずっとしてきました。でも、内側からじっくりと熟成させたものを丁寧に表現して伝えるっていうことは、以前は一度もやったことがなかった。今はその課題にフォーカスして、頑張って取り組まなければならない時期だと思っているんです」
──舞台俳優としては、30年以上のキャリアがあるのでベテランだと思うのですが、現状に満足せずに高みを目指されるところがさすがですね。
「全然、“このままじゃいけないな”って思うんですよね。一昨年、演出をさせていただく機会があって(『セイムタイム・ネクストイヤー』2020年上演)、“演劇って、やっぱりすごく面白いな”って思ったんです。野心しかなかった最初のころに比べると、演劇もチームワークであることに面白さを見いだしていけるようになってきました。それでも、演じることは孤独との戦い的な部分もあるのですが……。でも、演出作業はそれがなくて、常にみんなで作り上げたっていうのは、本当に貴重な経験でしたね。まだ私の前には“演劇”というものがあるなっていう感じはしています」
──最後に、演じることは明星さんにとって楽しい時間ですか?
「演じる時間が幸せな俳優さんはたくさんいるはずなんです。むしろ、そっちのほうが多いんじゃないかなと思うんですけど。私はそれ以上に、“舞台を作る”という時間が本当に幸せなんです。海外ではメソッド演技法のように内側からの役作りを学べる機会が多い。でも、日本は周りの俳優さんが、どういった役作りをしているのかって、実はお互い知らないんですよね。今回の舞台では、共演するすばらしい女優さんたちがどんなふうに役を作っていくか、外側から見て内面を想像しています。いろいろ吸収させてもらって、まだまだ成長していけたらうれしいですね」
舞台上演前の時間帯に取材を申し込むと、ウォーミングアップの前後だったのか、インタビュー場所にジャージ姿でさっそうと現れた明星さん。アツい“現場感”が伝わってきます。すべてに全力で取り込む姿勢が、舞台の上でも輝く姿と重なって見えました。
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
明星真由美(みょうせい・まゆみ) ◎1970年、大阪府生まれ。早稲田大学演劇研究会や小池竹見が主宰を務める劇団『双数姉妹』で演劇を学んだのち独立し、ナイロン100℃や劇団☆新感線をはじめとする実力派の舞台に数多く出演。2001年に女優業を休業し氣志團のマネージャーを務めるも、2005年に女優復帰。以後、舞台に限らず数々のテレビドラマや映画で好演を重ねる。昨今では『イチケイのカラス』(フジテレビ系)や映画『エキストロ!』に出演したほか、2022年7〜8月には吉田羊、大原櫻子との共演舞台『ザ・ウェルキン』に出演。
シス・カンパニー公演『ザ・ウェルキン』
作:ルーシー・カークウッド/翻訳:徐賀世子/演出:加藤拓也
【東京公演】2022年7月7日(木)~7月31日(日) Bunkamuraシアターコクーンにて
【大阪公演】2022年8月3日(水)~8月7日(日) 森ノ宮ピロティホールにて
◎公式サイト→https://www.siscompany.com/welkin/