──ミュージシャン仲間からも、音楽のジャンルを超えて親しまれる理由って、ご自分ではなぜだと思いますか?
「人から恨まれるようなことをしてないからじゃない? バンド自体も、あまりにも歩みが遅かったし、誰かにねたまれるようなこともやってないからね、今まで。やっぱり周りの仲間は、そういうところをちゃんと見てんじゃないかな」
──周りの人が恵まれているのを見たりすると、どうしても卑屈になってしまいそうですが……。
「基本的に誰かに何かを求めるということは、ほぼないからな……。たまに(インタビューなどで)“自分のこと好きですか? ”っていう質問もされるけれど、好きも嫌いもないよね。だって自分っていう存在は、もう“(神様から)配られたカード”だから。なんとかいい方向に自分がなるように、楽しく暮らせるようにっていうことだけしか考えてこなかったからね。でも、活動休止期間に感じたことだけど、ちゃんと働いている人たち、ちゃんと暮らしている人たちって、俺が思っている以上に周りと調和しようと気を遣っているんだなって」
バイトしてもバンドを続ける覚悟
──みんな実際にやりたいことがあったりしても、いろいろなリスクを考えると我慢して働くかもしれないですね。
「俺の場合は、なんとかならなくても、こういう生き方しかできないからね。ただ、自分が思い悩んで生きづらくなるぐらいだったら、我慢しないで暮らしたいなっていうのはあるよね。人に迷惑をかけない範囲で。俺はもっと精神の健康を大事にしたほうがいいって思うんだよね」
──昨年、『ARABAKI ROCK FEST.20th×21』が中止になったのを受けて配信された『THINK of MICHINOKU』で、増子さんが「たとえバイトしてでもバンドを続けていく」という発言をされていて感動しました。
「だって、バンドなんて頼まれて始めたことじゃないから(笑)。やりたくてやっているんだからね。コロナ禍になった時に“ここからライブができなくなったらどうする?”みたいな話になったけど、最悪、4人いれば演奏できるし、バンド活動はライブだけではないし、バイトでも仕事でもやりながら続ければいいからね」
──増子さんにとって、バンド活動を続けていくっていう選択肢以外はないのだなって感じます。
「ライブやって、アルバムを作っていくことしかできないもんね。好きで自分たちが勝手にやっていることなんだし(笑)。昔は“なんでこんなにやっているのに、お客さんが来ないんだ”とか、“こんないい曲を作ってもわかってもらえない”って思っていたけれど。こっちが勝手にやっていることだからね。そんなこと言ってたら、もう完全に逆恨みだよね(笑)」
あばら骨が折れてもライブ。コロナ禍でつらいのはファンが歌えないこと
──バンド活動の面白さはどこに感じていますか?
「それはいつか“全部やれた”っていう満足度が高いライブができることかもしれなし、決定打だって思える曲を作ることかもしれない。まあ不可能に近いんだけどね。でも、そこに向かっていくことが面白い。メンバーの全員が全員、気力体力のピークでライブを迎えることなんて、ほぼないよ。誰かが具合が悪かったり、腹痛かったりするしさ(笑)。それをメンバーでカバーし合って、いつものアベレージをちょっとでも超えてく。そういうことをやっていくのがやっぱり醍醐味(だいごみ)というかね。一番面白いし、それはもう何物にも代えがたい」
──増子さんの姿を見ていると、命がけでライブしているのが伝わってきます。
「死ぬかって思う時があるよ。でもなかなか死なない。自衛隊で鍛えたのがよかったのかな。骨折ぐらいじゃね、キャンセルしない。あばら骨が折れたことあるけど、さらしを巻いてライブしたよ。骨の1本、折れたぐらいならライブできるよ」
──力強さでいえば、私は増子さんと握手してもらったことがあるのですが、ものすごく強く握りますよね。
「握手ってそういうもんかなという感じ。軽く流す人はしょっちゅう握手しているんじゃない(笑)? 人と握手した時にあっさりされたら嫌じゃない。握手って調印式みたいな契約を結んでいるっていう気持ちで臨んでいる。ファンも自分たちのことをわかってくれている人たちだし、しかもチケットとか音源を買ってくれてるってのはとんでもない話。もう感謝しかないよ」
──今はライブではファンの声出し(発声)禁止ですが、歓声なしには慣れましたか?
「慣れはしないよ。お客さんに我慢してもらってるわけだし。本当、早くどうにかなってほしいよね。みんなで歌うように想定して作っている歌がいっぱいあるからね。そこを今、全部自分で歌わなきゃならないから物理的に大変だよね。早くみんなに任せたい(笑)。ライブって曲を聴かせるわけじゃなく、ファンとのやりとりで完結するもの。客席まで含めて全員で、一緒に作るもんだって思っている。ステージ上だけで完結するなら、リハーサルと変わらないからね。やっぱり俺はそうじゃないものを求めてライブをしているんだよ」