心臓を取るか、与えるか。異形と交わした契約の違い
『呪術廻戦』と『チェンソーマン』(第1部)では、どちらの主人公も呪物や悪魔といった異形と契約する際、心臓にまつわる契約を交わしています。この心臓に関わるやり取りからも、世界設定の違いを見て取ることができるのです。
まず『呪術廻戦』の虎杖(いたどり)が呪術師になった経緯を振り返ってみましょう。特級呪物である「両面宿儺(すくな)」の指を飲み込んだ虎杖。普通の人間なら命をなくすような猛毒の呪いである宿儺を受肉するも、その器として「千年生まれてこなかった逸材」だったことで、肉体や自我を保つことができていました。
しかしコミックスの2巻における特級呪霊との戦闘シーン。宿儺に肉体の主導権を譲った虎杖は、身体を乗っ取られている間に自身の心臓をえぐり取られてしまいます。そして「宿儺が『契闊(けいかつ)』と唱えたら1分間身体を明け渡すこと」、「そしてこの約束を忘れること」の2点を“縛り”として誓約を交わし、虎杖は蘇生されました。
ここで確認しておきたいのは、主人公と異形との関係性です。
異形に能力を与えられる人物が登場するダークヒーローものの作品では、憑かれた存在が闇堕ちせずに理性を保てるか、どちらが肉体の主導権を握れるか、といった“憑かれた存在と憑いた存在との関係性”や、“肉体のイニシアチブを取る対象”について、必ずといっていいほど設定されています。
『呪術廻戦』では、虎杖が宿儺に肉体の主導権を取られ、主体が入れ替わるシーンが何度となくありました。つまり器となる肉体はひとつで、その中に入っている存在は2体あるため、このような入れ替わり方をしているのです。
『チェンソーマン』(第1部)では、どうだったでしょうか。両親の死、父親が残した多額の借金、身体の一部を売る……といった不幸な生活を送っていた主人公のデンジ。ゾンビの悪魔に憑かれた人間たちに殺された際、頭からチェンソーが生えた犬の姿をしているチェンソーの悪魔・ポチタと契約を交わし、ポチタの心臓をもらって生き返りました。
チェンソーマンとなったデンジは、支配の悪魔であるマキマとの最終決戦(第1部)で劣勢を強いられるも、ポチタの心臓を切り離して別々に行動することでマキマをあざむき倒すことに成功します。つまり、デンジの身体に悪魔であるポチタの肉体が合成した“共同体のような生き物”として登場したのが、人でも悪魔でもないチェンソーマンでした。
これらの設定から、呪霊が人間と同世界の存在として描かれている『呪術廻戦』と、悪魔が異世界の存在でありながら、現実世界で人間と共に存在するものとして描かれている『チェンソーマン』の世界設定の違いが読み取れるでしょう。
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さて、呪術師たちのデスゲームが繰り広げられる「死滅回游」編が連載中の『呪術廻戦』。同作初の映画化作品である2021年公開の『劇場版 呪術廻戦0』の主人公・乙骨憂太や新キャラクターたちが、現実とは異なる世界観の日本を舞台にバトルを繰り広げています。
そして内臓やはらわたが飛び散るシーンが目白押しだった第1部に対して、「田中脊髄剣」という、異次元レベルの武器が登場した『チェンソーマン』は第2部がスタート。登場人物である高校生・三鷹アサが、身体を求めていた戦争の悪魔に、脳を半分残した形で憑かれ、チェンソーマンとは異なる存在に変貌を遂げています。
どちらの作品も新しいキャラクター設定や世界観が見られることが期待できるのではないでしょうか。引き続き、人気の両ダークヒーロー作品の展開を追っていきましょう!
(文・石水典子/編集・FM中西)
【参考文献】
◎『しぐさの民俗学―呪術的世界と心性』常光 徹 (著)/ミネルヴァ書房
◎『魔除けの民俗学 家・道具・災害の俗信 』常光 徹 (著)/KADOKAWA
◎『呪術廻戦』芥見下々 (著)/集英社
◎『チェンソーマン』藤本タツキ (著)/集英社