くまモンをアニメ化し、初めて「声」をつけてみたい
実際、くまモンのアニメ化を発表した在学生の池邊奈央さんと田中美空さんに、「くまモン学」への思いと、今回のアニメ化構想について話を聞くことができた。
池邊:地域マネジメント研修の一環でくまモン学を履修しているのですが、最初は地域のキャラクターをまじめに研究するのがどういうことなのか、予想できませんでした。
田中:学問とキャラクターがつながらなかったんです(笑)。
池邊:私たち県内の人間にとって、くまモンは本当に身近なキャラ。私は熊本市内の出身ではありませんが、それでも地域のお祭りがあると、(くまモンが)来て踊ってたし。実際、くまモン学の授業をとって調べてみたら、くまモンは思ったより知名度も人気も高くて驚きました。
田中:私は熊本市内で生まれ育ったので、小中学校のイベントにはしょっちゅう来てくれたし、いるのが当たり前みたいな存在だった。県外の人のほうが熱狂的ですよね。それだけみんなを夢中にさせるくまモンの魅力をちゃんと検証してみたかった。
そして2人は、ほかのメンバーとともに若い女性の人気を上げるためにはどうしたらいいかと考えた。Z世代(おおむね、'90年半ばから'00年代初頭生まれ)の女性たちは、実在するマスコットやキャラクターより、アニメやゲームのキャラのほうを好むこと、週に5日はショート動画を視聴していることから、彼女たちのグループはくまモンとアニメを近づけようと工夫した。
池邉:アニメ化にあたっては、コストを考えて5分程度のショートストーリーであること、私たちが作り手になりやすいYouTubeで配信すること、そして、企業や団体とのコラボによって熊本をPRすることなどを考えてみました。
田中:そのために、クラウドファンディングによる制作を企画しています。クラファンにすることで話題になるし、資金を出してくれた企業はその中でさりげなく商品の宣伝ができる。そして、いちばんの目玉は、くまモンの「声」です。今までくまモンに声をつけることは避けられてきたと思うんですが、私たちはくまモンに声をつけます。ただ、声優は毎回違う。ひとりの人の声を視聴者に押しつけるのではなく、1話完結のショート動画に毎回、別の声優を立てて、みんなに「自分が推したいくまモン声」を見つけてもらえたら、と思うんです。
池邉:熊本のほかのキャラクターも参加したいと思えるような動画が作れたらいいですよね。
こんなふうに学問として「くまモン」を学び、研究することで、「地元に“いて当然のキャラクター”に、まったく違う角度から迫ることができた」と、ふたりは笑顔になる。
田中:くまモンって、意外とキャラクターの王道からは外れているんですよね。黒・白・赤という原色のみを使ったキャラは、あまりいません。印象が強すぎる(笑)。しかもあの顔は、決して親しみやすい顔ではありません。でもだからこそ、いろいろな表情ができるし、知れば知るほど関心度が深まる。
池邉:ほかのキャラクターと違って、動きが激しいし、ダンスは本当に上手。やんちゃだけど、子どもに接する態度は本当にやさしい。そういうくまモンの素顔を、アニメでもっと広く深く知ってほしいなと思います。
魅力が多岐にわたるくまモンにとって、「くまモン学」とは?
聞けば聞くほど、彼女たちがくまモンを深く研究していることがわかる。指導している前出の柳田教授によれば、「くまモン学」を始めてから、教授自身が「くまモンの魅力が、いい意味でわからなくなった」と笑う。
この12年、さまざまな現象を巻き起こし、熊本のイメージアップを図りながら、自身もスターダムにのし上がってきたくまモン。有名になっても地元・熊本を愛し、身も心も「太く大きく」、誰をも癒やしてくれている。
「もうじきこの講義も3年目に入りますが、年々、面白くなってきています。毎年、いろいろなことをしているんですよ。くまモングッズを試作したり、学生にアンケート調査をさせたり。さまざまな角度からくまモンを研究すればするほど、魅力が多岐にわたっていることがわかります」(柳田教授)
くまモンの人気が高いところで安定しているのはいいが、未来永劫(えいごう)に続くキャラクターを目指すなら、これからは「共感」だけでなく、「愛着心」をいかに育てていくかということもテーマである。
オープンキャンパスの途中、教室の後方にこっそり現れたくまモンは、興味深そうに「くまモン学の発表会」をのぞいていた。それに気づいた学生や高校生たちから歓声が上がる。そしてくまモンは、見学に来た高校生ひとりひとりに、「どうだったかモン?」「楽しかったかモン?」と話しかけるように見つめていく。高校生と一緒に来ていた保護者も興奮しているのがよくわかり、教室内がわいた。
そして、在学生や柳田教授も入って一緒に『くまモン体操』を踊り、最後は校舎のエントランスで高校生とのツーショットタイム。在学生たちから「私もツーショットを撮りたい!」という声があがるが、くまモンは「ダメー」とポージングして笑わせる。研究を進める学生たちとくまモンは、完全に心が通じ合っていた。
「くまモン学を、くまモン自身はどうとらえてる?」
筆者がそう尋ねると、くまモンは廊下をノシノシと歩き始めた。向こうへ行くと、今度はこちらに向かってまた歩いてくる。「こういうことだモン」と言いたそう。
うむ。それは「ボクの進むところに道はできるモン」ということなのか、「ボクの背中を見ていてはいよ~」ということなのか。
「どっち?」と聞くと、むっふっふと笑う。やはり、くまモンの魅力には、まだまだ謎が隠されている。
(取材・文/亀山早苗)