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人物

【要一郎さんの唐揚げ】不思議な縁に導かれてきた料理人のエッセイ 第1回:養母の死

SNSでの感想
麻生要一郎さん 撮影/伊藤和幸
目次
  • 夜更けの電話
  • ずいぶん呆気ないと思った
  • 最後まで気がかりだったこと

 インスタグラムでの毎食の様子が、癒やされると評判の麻生要一郎さん。両親が亡くなり、天涯孤独となった後、不思議な縁に導かれて老姉妹の養子になったという異色の経歴の持ち主でもある。新しい家族の形を模索する、麻生要一郎さんの手記を5回にわけてお届けします。

●麻生要一郎/ASO Yoichiro
建設会社の3代目として働いたのち、知人に誘われ新島で宿を始め料理人の道へ。その後、不思議な縁に導かれて高齢姉妹の養子となる。主な著書に『僕の献立』『僕のいたわり飯』(ともに光文社)がある。
Instagram:YOICHIRO_ASO
Twitter:@YOICHIROASO

夜更けの電話

 仲のよい友人たちを迎えた夕食のひと時、そろそろ白子のお椀を出そうかなと、用意しておいた出汁の入った鍋を火にかけて、席に戻ると携帯電話に不在着信が残っていた。

 時間はもう22時を過ぎている。親しい友人たちは電話嫌いな僕にわざわざ電話をしてこないし、登録されていない番号である。夜更けの登録されていない番号からの、電話はよいものではないと相場は決まっている。

 心当たりは1か所だけ、養母の入院している病院である。そこからではないことを願いつつ、席をそっと立ち、鍋の火を弱めながら台所で電話を折り返す。

 やはり件の病院からであった。

 夜遅い時間で、受付の職員は不在。警備会社が電話に出た様子で、なかなか電話をくれた病棟の担当の方に繋がらず、やきもきしながら待っていると、

「今日は朝から呼びかけると反応はあったのですが、呼吸もかなり浅く、血圧も心拍数もかなり低いままでして……また夜中にお電話してしまうかもしれません、申し訳ありません」

 そんなようなことを当直の看護師さんが話してくれた。

 食卓を囲む友人たちも心配そうにしていたので、心配をかけないように、いつも通りを装い席に戻る。正直に言えば、今どうしたらよいのかが分からなかった。もうすぐかもしれないし、3時間後かもしれないし、明日かもっと先になるかもしれない。

 一昔前であれば、具合が悪くなれば家族は病院に集まってという感じだったように記憶しているが、コロナの時代はそういうわけにもいかず、天を仰いでただその時を待たなければならないのである。慌てても仕方がない、と心の中で自分に言い聞かせた。

 1人のしっかり者の友人は、何かできることがないか、それとも早々にお暇しようかと言っていたけれど、もう1人ののんびり屋の友人は、心配はしてくれているが、もう1個、唐揚げ食べちゃおうと箸を伸ばしたり、対照的な様子が面白くて気持ちが和んだ。

 皆で、お茶を1杯飲んで散会した。

 洗い物を適当なところまで済ませ、携帯に着信がなかったかを確認した。こういう時の電話はちょっと気を抜いた時にかかってきていたりするものである。

 この夜をどう過ごすのかを考えた。

 僕は一度寝てしまうと電話の着信如きでは目が覚めない。ベッドに横になったら最後、ぐっすり朝まで寝てしまうので、ソファで携帯を握りしめて横になった。

 うつらうつらしながら今日の夕方のことを思い出していた。

 偶然、大好きな写真家の友人から、彼の新しい写真集を受け取った。「友達みたいな写真集」だなあと思った。

 普段あまり人に会わない僕にしては珍しく、大好きな友人たちに思いがけず次々と会えた日で、それが逆に何かの予兆を感じ取ったのか、少し不安になり、このまま楽しい時間が続いていけばいいなと、静かに願ったのだった。もしかしたら、今夜を乗り越えるための励ましだったのかもなあ。

唐揚げを作る要一郎さん 撮影/伊藤和幸
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