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人物

【要一郎さんの唐揚げ】不思議な縁に導かれてきた料理人のエッセイ 第4回:お告げ

SNSでの感想
要一郎さん、アトリエのキッチンで 撮影/伊藤和幸
目次
  • お婆さんが見える、家賃の心配は不要
  • ここに引っ越して来たらもう大丈夫よ
  • お墓、3つください

 最愛の母との永遠の別れを乗り越え、愛猫と二人、東京で暮らし始めた。最初に立ちはだかったのは、ペット可の物件を探しだった。そしてこれが、高齢の老姉妹の養子になるきっかけでもあった。麻生要一郎さんの新しい家族ができるまで。(全5回の第4回)

麻生要一郎さんの唐揚げ 第1回:養母の死
麻生要一郎さんの唐揚げ 第2回:新しい人生のはじまり
麻生要一郎さんの唐揚げ 第3回:母との別れで運命が変わった

●麻生要一郎/ASO Yoichiro
建設会社の3代目として働いたのち、知人に誘われ新島で宿を始め料理人の道へ。その後、不思議な縁に導かれて高齢姉妹の養子となる。主な著書に『僕の献立』『僕のいたわり飯』(ともに光文社)がある。
Instagram:YOICHIRO_ASO
Twitter:@YOICHIROASO

お婆さんが見える、家賃の心配は不要

 お告げをくれる友人がいる。出会ったのは宿をやっていた頃。初めてみてもらった時に「あなたは千駄ヶ谷、北参道エリアに縁があります」そう言われた。

 実家は社宅扱いだったので会社に返すための片付けをしながら、さてこれからどうしようかと考えた。

 いろいろなありがたい選択肢があったけれど、僕は友達も多いし、自由な空気が楽な、東京に戻ろうと考えていた。何のあてもなかったし、やっていけるか分からないけれど、そうしないといけないと思っていた。

 お告げの友人に引っ越し先を尋ねると、

「千駄ヶ谷か北参道、それ以外はない。古いマンションで、窓が多く、線路に近いから音が気になるかも」

 そんなことを言われた。

 こういう時、僕は素直に聞き入れるので、その地名だけでずっと物件を探した。ペット可、1LDK、千駄ヶ谷・北参道と毎日検索していたが、なかなかそんな物件は出てこなかった。仲介をしてくれる不動産屋の友人にも物件はタイミングだから諦めずに探すこと、出てきたら迷わず連絡をするようにと言われ、お告げをくれた友人にも物件が出てこないと弱音を吐くと「○日以降に必ず出てくるので諦めず、あと、お婆さんが見える、家賃の心配は不要」と言われて、ますます混迷した。

 想像するのは、一軒家で玄関は1つ、2階は僕で、大家さんは1階に住んでいる……みたいな状況、何だか面倒臭い感じの東京ライフが浮かんだ。

 チョビはあまり実家を離れたくない様子で、いつだったか明日新しい家を見に行くと話したら、出かける時に玄関がどうも猫のおしっこのにおいがするのだけれど、どこも濡れていない。気のせいなのかなと思い、帰宅するとやっぱりにおう。

 よく調べると、僕のスウェードの靴の片方にチョビはおしっこをしたのだった。玄関にあった一番高い靴をちゃんと選んだ。小さくて強固な意思表示、思わずぎゅっと抱きしめた。それから毎日今後の話をした。ようやく理解してくれた様子、もう分かったよという表情になった。

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