ここに引っ越して来たらもう大丈夫よ

 するとある日、いつもの検索をしていたら、今まで出てこなかった物件が出てきたので、すぐに不動産屋の友人に連絡すると、夕方に内見可能とのことで早速出かけた。ここじゃないかなあと思いながら、お告げをくれる友人にこっそり連絡すると、決めてよいとの返事。

 考えてみると、いろいろな視点から凄い話だけど特に何も考えず、すぐに申込書を書いた。

 契約書を見ると貸主の欄には連名で女性の名前が署名してあり、どんな人なのだろうと思っていたら「大家さんが会いたがっているから、引っ越しの時にでも顔を出してあげてください」と、不動産屋さんに言われた。

「電話するより、直接行ったほうが早いですから、たまに電話が繋がらないのは受話器が外れてるとか……(笑)」

 なんて言うから、きっと高齢なのだと想像した。

 その時は完全に無職だったので、審査が通るのかどうなのか分からないし、保証人もいなかったので、友人の不動産屋さんから大家さん側に細かな状況を伝えてもらっていた。

 無事に契約を済ませて、不安と期待の中、引っ越しの何日か前に鍵を頂いたので、その足で訪問すると、玄関先で出迎えてくれた姉が「あなた、ご苦労なさったのねえ、でもここに引っ越して来たらもう大丈夫よ」

 そう言ってくれたことを今も鮮明に覚えている。

 灼熱の砂漠を散々歩き回り、オアシスにたどり着いた気がした。その言葉に含まれた深い安心感が、彼女のこれまでの人生、その人となりを物語っているようにも思えた。リビングに通されると、妹が「あなた、猫ちゃんいるんでしょ? 私たちもたくさん、猫も犬もずっと飼っていたのよ、これからは動物を大事にして、のんびり暮らしたらいいわよ」そう言ってくれた。

 この言葉はなんだか、ずいぶん浮世離れした感じがした。のんびり暮らせるのは、そりゃ理想だけど、お家賃も稼がないとここにいられないし……と思いながらも、現実的な何かを越えたところで納得してしまうような不思議な空気がそこには流れていた。

 自分の荷物を運び込み、チョビも実家から移動してきたものの、新島でやっていた宿か、うちの実家にしか暮らしていないので、都心のマンションは狭いなあと感じた様子。

 家の中をぐるぐるしては、僕のところへ来て、部屋はこれだけなの? 階段とかないの? みたいな顔をしていた。

 これでも頑張って借りたんだ、ごめんねとチョビを撫でた。

《晩御飯の写真を撮り忘れました。本日は鰻の白焼きでした。チョビは鰻より穴子が好き。》 要一郎さんのインスタグラム(YOICHIRO_ASO)より