自動販売機の至れり尽くせりなおもてなし!その先に、芽生えた愛情
──確かに。そう言われると、私も2本同時で買うことがありました……。やっちゃってましたね。
「そう。知らないと同時に買っちゃう人も多いと思うんですがダメですよ。自動販売機がかわいそうです」
──ほんと……これは猛省ですね。それと同時に自動販売機ってすごい優しいな、と思えた気がします。確かに言われてみれば、休むことなく365日立ち続けてるって、私たちからしたらありがたいです。
「そう。日本の自動販売機ってね、優しさの塊なんですよ。これは日本文化とも共通する部分なのかな、と思います」
──具体的にどこに優しさを感じているんですか?
「例えば1976年ごろから始まった、ホット&コールド機能ですよね。常に温かいものと冷たいものを提供できるのは、実は世界的にみるとめちゃくちゃ珍しい機能です。これぞ日本ならではの"おもてなし"ですよね。ちなみに今では健康志向の高まりを受けて、常温を提供する機能も出てきています」
──え、これって世界的にみるとめずらしいんですね。
「そうなんですよ。常に筐体全体でホット&コールド機能を稼働すると消費電力が大きくなるので、今では売れる本数を予測して最初の数本のみを温めたり冷やしたりする、ゾーンヒーティング・クーリング機能が広まっています」
──すごい。買う人だけでなく地球にも優しい……。
「また、炭酸飲料が吹き出さないように、落下の衝撃を抑える構造になっているのも日本独自ですね。海外のものだと、買ったらそのまま垂直に落ちるので、ビンが割れることもあるんです。
その点、日本だとジャバラ状に転がって落ちてくる設計になっているうえ、扉が二重になっています。自動販売機の取り出し口の向こうに金属の扉があるのわかりますか?」
──あ~、ありますあります!
「あれは、いったん最初の扉で受け止めることで、衝撃を吸収しているんです。だから炭酸飲料も吹きこぼれないようになっています」
──そうだったんですね。すごい、超優しい……。
「細かい優しさでいうと、日本の自動販売機って売り切れ表示になっても、実は数本余っているんですよ」
──え、どうしてですか?
「完全に売り切れにすると、補充した直後の商品って常温じゃないですか。数本分を冷やしたり温めたりすることで、常に適した温度の商品が出てくるようになってるんですよ」
──なるほど。これはありがたい。
「それと、基本的に飲み口が左を向いて出てきます。日本人は右利きが多いので、取り出したときに飲み口が上を向くようになっているんです。これは補充する人の優しさですね」
──マジですか……。そこまでしてくれてるんですね。
「そう。あまり知られていないんですが、100~200円ほどの飲み物を1本提供してくれているあいだに、これだけの優しさがつまっている箱なんですよね。買う人だけじゃなく、設置する人にも、商品にも、メーカーにも、地球にも優しい。日本文化の象徴だと思います」
──このあたりの優しさは卒論を書くときに知ったんですか?
「はい。たくさん調べて優しさを知って愛着が湧いたからこそ、いま自動販売機のことを人間同然にとらえてますし、愛おしく感じるんだと思いますね。だから例えば車にも人に優しい機能が搭載されていますが、愛着はないです。自動販売機のことを深く知ったからこそ、愛せているんだと思いますね」
※第2弾インタビューでは、ここまで自動販売機のことを深く考えている石田さんが思う、現在と今後の自動販売機像について語っていただく。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)