──振り返ってみて、なぜこれほどまでに注目されたと思いますか?
「“締め切りに追われている人しか入れないカフェ”というコンセプトは斬新である一方、カフェそのものの利用客をお店側から排除している、という見方もできると思います。普通に考えたら、“いや、コーヒー飲みたいんだから飲ませろや!”と思う人もいるかもしれないですから(笑)。
ただ自分としては、 “これは自分のための場所だな”と思ってくれるユーザーがごく少数いればいいと思ってて。その人たちが有意義に過ごせる最適な場所を突きつめた結果、飽きずに注目され続けたというほうがしっくりきます」
──なかなか尖(とが)ったコンセプトですもんね。
「原稿執筆カフェでは、文字数、ページ数、パワポの資料数、漫画のネームのコマ数など、単位は人によって違いますが、事前にタスクを申請してもらって利用してもらっています。原稿を書かない人、締め切りを抱えてない人は入場お断り!というのはお店としてはつっけんどんだし、拒絶ワードは反感を買う可能性があるかもしれない。
でも、“自分にはここに行く資格がある”という、母数は少ないけど熱量の高い人たちをターゲットにしたいと思っていて。その人たちが全力で作業に取り組める場を提供したいと考えた結果のコンセプトでした。
9月から始めた『経費精算カフェ』も同様ですね」
──経費精算カフェ! これまたニッチですね。
「『経費精算カフェ』は財布に溜まった領収書を帳簿につけるためのカフェです。店内のScanSnapで領収書を高速でPDF化できます。店長は税理士さんで、作業の合間にちょっとした質問ができます。経費精算というなるべくならやりたくないような作業を、何か楽しいイベントのようにしたいと思ったんです」
ニッチ層に刺さるための空間設計。キーワードは「最適化」
──『原稿執筆カフェ』『経費精算カフェ』ともに、他にはないおもしろい取り組みですが、空間設計・運営時にはどんなことを意識しているんですか?
「母数は少なくとも、その層に刺さるような場所を提供したいと思っていて、そのために意識しているのは“最適化”です」
──最適化というと?
「例えばですが、原稿執筆カフェでは1時間ごとに利用者さんの進捗を聞いて回るんですけど、それ以外の時間は一切オペレーションもしないし話すのは受付前と後だけです。
開店当初は原稿を書き終えた人を盛大にお祝いするために鐘を鳴らしたりしていたのですが、他の人の集中を阻害すると思いすぐにやめました。BGMもあえてなくし、部屋の温度が上がりすぎないように電気ケトルではなく電気ポットを使う……。お客さんの反応も常に見て、とにかく原稿に集中できる環境をつくるために、空間を最適化するという意味です」
──通常のカフェと違うのは、コンセプトだけでなく空間設計も込みであると。
「通常のカフェでも集中できるかもしれませんが、利用時間には制限があったり、店員さんに気を遣わないといけなかったり、隣のテーブルでマルチ商法の勧誘が始まったり(笑)、集中を阻害する要因は山ほどあると思います。ビジネス風にいうとPDCA(※1)を高速に回すというのがすごく好きなタイプなので、“あ、今集中できてなさそうだな。なんでだろう?”っていう反応を見て、その日のうちに改善するようにしてます。
周りに同じ目的を持ってる人しかいないというのも、相乗効果で集中できるのかもしれませんね。トキワ荘(※2)みたいな(笑)」
※1 PDCA:Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の頭文字をとったもの。ビジネスにおける品質改善フローとして用いられることが多い
※2 トキワ荘:漫画家の手塚治虫、藤子不二雄、赤塚不二夫らが若手時代に居住したアパート